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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「鷹神 切生の終わり」

「鷹神 切生の終わり」












「プロン!! すまない! 邪魔をする!!」



シリスは勢いよくプロンが住む扉を開け、そう言った。






























挿絵(By みてみん)






騒がしいシリスを一瞬だけ見て、実験中のプロンは表情を変えずに言う。




「謝るぐらいなら邪魔をしないで」


「いや! 思ってない!」


「思ってないなら謝らなくてよ」



そして、プロンはシリスの後ろにいるキリオに気付いた。



「あら? どうしたのその可愛い子は? 彼氏?」


「なわけ! コイツはおそらく……」



シリスは少し言葉を溜め、真剣な顔でプロンに言った。



「……異世界転移者だ」



その言葉を聞き、プロンの表情が驚きに変わった。



「シリス、扉を閉めて」



プロンは実験をやめ、慌ただしく窓のカーテンを全部閉めてシリスに言う。



「シリスは2階にいるジムを呼んできて」


「あいよ」



そして、プロンはキリオに近づき口を開いた。



「あなたお名前は?」


「た、鷹神たかがみ 切生きりおです」


「そう……じゃキリオ君。顔をよく見せて」


「あ、はい……」




目の色、肌の色、耳の形、髪の色、生え方、キリオは口をも開けられ、プロンはキリオのいたる所を確認する。



「ん……これだけでは確定するのは難しいわね。でも確かにこの世界には珍しい方の人種なはずだわ……」




その時、シリスがジムを連れて戻ってきた。


























挿絵(By みてみん)














そして、ジムが師匠に言葉をかけている途中でキリオに気付いた。




「師匠なんのようで……え?……日本人がいる?」



改めてジムはキリオを見て驚いた。



「え!? は!? なんで日本人がここに居るんですか!?」



その反応を見てプロンがジムに聞く。



「やはりそうなのね? この子はあなたと同郷どうきょうで間違いないのね?」


「え、ええ……間違いないです」



キリオもその状況から理解し、ジムに指を差し言った。



「……お前も日本人なのか?」


「今は違うけど……前世が日本人で、転生して前世の記憶を持ったままこの世界に産まれてきたんだ!」


「こんな漫画みたいなことって……本当にあんのかよ……」


「現に君は今、正に転移してきたんでしょ? 転移者君」


「つ、ついていけねぇよ……」



度重なる有り得ない事の連続にキリオは精神が追いついていなかった。

そして、キリオは1番の疑問をジムに聞く。



「な、なぁ? 俺帰れるんだよな?」


「何バカなこと言ってるの? 帰れないよ?」


「は?」


「だって考えてもみてよ! 今まで見てきた漫画だって小説だって現実世界に帰れた話なんてあった?」


「いや! 待てって! それは創作物の話で、本当は帰れるんだろ? なぁ?」


「帰れるなら僕はここに居ないよ?」


「ま、まじかよ……」


「でも君がここに転移を出来たってことはその逆も必ずあると思うよ!」


「それは本当か!?」


「うん! でも全然そんな文研見たこと無いけどね!!」




ジムは明るくそう言った。



「……はぁ……そんなことって……」



しかし、キリオは少なからず異世界生活を楽しめるのではないかと期待していた。

見てきた漫画やアニメでは少なからず主人公は充実していたからだ。

そしてその時、シリスが口を開く。



「プロン……気づいてるよな? 切生こいつの溢れ出てる魔力量……」


「えぇ……ジムと同じで相当の魔力が有りそうだわ。適性を見る必要があるわね。キリオ君ちょっとその水晶の前に立ってくれないかしら?」


「あ、はい……」



プロンはキリオの反対側へ移動し、水晶の置かれているテーブルに両手を置いた。



「水晶に触れてくれる?」



「わかりました」

『……チート生活も悪くないのか……どうせなら俺も魔法とか、特殊な力とかあって何不十無なにふじゅうない楽しいチート生活を送ってみたい!』




キリオが水晶に触れ、プロンが魔力を込める。

水晶の下に魔法陣が発光し、水晶が光をび、プロンが解析をする。



「……な、なんてことなの?」



結果それにプロンは驚いた。



「どうした? プロン?」



シリスがプロンのあまりのおどろきに聞いた。

そして、プロンが答える。



「……こんな魔力量……見たことが無いわ……」



その周りの反応にキリオは少し浮かれる。



『俺ってそんなに凄いの?! これは日本と違って楽しい生活をおくれるかもしれない!』



しかし、プロンの次の言葉にキリオは幻滅げんめつする。



「しかし、魔法や他の職業としての素質はゼロね。まさかこれだけの魔力量があるのになんて残念なの」


「ん? え? ど、どう言う事ですか?」


「あなた……魔法を発生させる戒現値かいげんちがゼロなのよ」


「え? 魔力はたくさんあるんですよね?! ちなみにその戒現値がゼロだとまずいのですか?」


「魔法を出せなければ、体に纏わせることなど、身体能力強化、全てのステータスを上げることは不可能……何も出来ないわ」


「……え?」

『それってチート生活が既に詰んだってことじゃん……俺の人生終わった……』



それを聞いたシリスが大笑いした。



「カッカカカカカカッ!! って事はお前は錬金術師しかねぇなぁ!!」


「はぁ!? 錬金術師!?」


「おう! 錬金術師は無から有を作る魔法とは違い、有から有を作る! 魔力を発生させる戒現値かいげんちがゼロでも唯一使える職業だぁ!」


「錬金術師か……」

『昔、漫画で読んだことがあるぞ! 錬金術それが使えるならなんだってできるかもしれない!』



その時、ジムが言った。



「あ、あの……非常に申しあげ辛いのですが……錬金術師はやめてあげた方が……」



プロンも同意見だった。



「ええ……少し、可愛そうね……でも仕方がないわ」



それに対して、シリスは言う。



「いいじゃねぇかよ! 丁度弟子が欲しかったところだ! なぁ? キモ男? 成るだろ? 錬金術師!」


「良い加減名前覚えろや! 鷹神たかがみ 切生きりおだって言ってんだろ!?」



その時、プロンが気づく。



「あら? そうだわ……名前変えないとまずいじゃない?」


「名前を変える? どう言う事ですか?」


「ここに居るジムもそうだけど、弟子は師匠から名を頂くのよ? それと、一応は異世界人を隠しているの」


「どうしてですか?」


「あなたの国でも、どの世界でも可能性としてだけど、物珍しい物は全て実験の対象になるわ。ジムなら前世の記憶を宿している。なら……頭を開けられ、脳を調べる必要があるわ。もしあなたなら腕を切断され、生えてくるのかとか、体を開けられ、臓器は一緒なのかとか調べる必要があるわね。しかし、全て可能性の話よ? それでも隠さなくてよろしいのかしら?」


「い、いえ……是が非で隠してください……」


「なら、仕方がないわ。今この場で名を与えられるのはシリスしか居ないわ」


「え? プロンさんは?」


「魔法の才能がゼロの子を弟子にはしないわ」


「おっしゃる通り……」



そして、シリスが口を開いた。



「じゃ! 早速始めるぞ! 片膝付いて頭を下げろ!」


「こ、こう?」


「よし!」



シリスは大きく深呼吸をし、キリオの頭に手を置き、詠唱を唱える。



なんじ由来ゆらいからさずかりし恩恵を今一度、いまよとき終焉しゅうえんを迎えん ーー」



詠唱が始まり、キリオの足元に魔法陣が浮かび光を発光させ、キリオを包み込む。

そして、シリスの詠唱えいしょうおこなわれる中、キリオは肌で感じていた。



『あぁ……そうか……名前が変わると言う事は「鷹神 切生」が終わるって事か……なんか……思い深いな……俺の全ては向こうの世界に置いて来ちまった……右も左もわからないこの世界で俺は本当にやって行けるのかな……』



キリオは不安を感じ、鷹神 切生として生きてきた人生を振り返る。



「ーー 度重たびかさなるとき想重おもいかさなるとき世過よすぎ共に敬愛けいあいなる言霊ことだま……我、シリス・アルタイルが今、揮毫きごうし、うたおう……汝の名は……キリオ・アルタイル!」



奇怪きかいな音を響かせ、光は一瞬だけ強めてそして静かに消えていった。

その瞬間、キリオの中で何か音が聞こえた。

それはまるで歯車が噛み合った様な奇怪な音。



「終わったぞぉ! お前は今日からキリオ・アルタイルだ!」



「……ダ、ダサいな…」

『なんだったんだ? こんな音が聞こえる物なのか?』



その時、ジムが手を伸ばした。



「キリオ! これからよろしく!」


「あ、あぁ……よ、よろしく……えっと……」


「あ! 僕はジム・デネブだよ!」


「そっちの方がカッコイイじゃねぇかよ!」


「あはは! ありがとう!」



ジムに続き、プロンも言った。



「私はプロン・デネブよ。キリオ君? シリスをよろしくお願いするわ」



「え? それはどういう……」



その時、シリスが堅苦かたくるしかった為に体を伸ばした。



「いやぁー! 終わった終わった!?………」



体を左右にねじり体をほぐした時だった。

突如として、凄まじい衝撃音が轟いた。



「あっ!! やべ! 壁破壊しちまった?!」



シリスはすぐ横の壁を殴ってしまい、穴を開けていた。



「すまん! プロン!!」


「別に構わないわ。あなたならすぐ直せるでしょう?」


「はいはい」



シリスは右手で指を鳴らした。

その瞬間、右手が発光。

そのあわく光る腕を穴へとかざし、錬金術で開けた穴を修復していく。

そして、プロンがキリオに向き直り言う。




「シリスをよろしくね」


「あ……はい……」



キリオは苦笑いしか出なかった。




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