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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
1章「異世界美容室開店」
25/87

「来客」

「来客」







「なんか帰ってくるのが久々な気がするなぁ!!」




キリオ、ジム、ミィナ、ナタ達はエルフの森からゴブリン村を経由し、ツルギと別れ、自分のお店の目の前まで帰ってきた。



「ミィナ? 何も変わりはなかったか?」


「はい! お客さんなんて居ませんから大丈夫でした!」


「うぐ……心が痛い」



その時、ジムがキリオに言う。



「そろそろ僕の髪も切ってもらおうかな?」


「お!? お金をお持ちなお客様にはVIP待遇で素晴らしく高い施術せじゅつをさせてもらいます!!」




ナタもその話に乗っかって来た。



「では! 私がジム様をシャンプーします!!」



そして、VIPな施術が気になったジムはキリオに聞く。




「ほう? それはどんな施術だい?」


「ええ! もちろん! うちの看板娘ミィナを特別ルームにて……」




その瞬間、キリオはミィナに力一杯に殴られた。



「いってぇえ!? じょっ冗談じゃん!! ちょっ……」



更にミィナはキリオに追撃の構えにうつる。




「キリオ様? 今なんと?」


「まだ悪い事すら言ってないわ!!」


「キリオ様の考えそうな事などわかります!」


「ごめんって!! ちょっと待て! 落ち着けって!」


「我、理に触れ、主たる根源に至し魔を拝頂し、今ここに我の名を持って戒現せよ!! 剛腕乃風トルネードアーム!!」


「バカ!! この方向! 店がまたぶっ壊れるって!!」




その時、ジムが動いた。




「しょうがないな……」




腕に風をまとわせ、キリオを全力で殴りかかろうとするミィナにジムは手を翳し、唱える。




ディスターブ


「キャァ!?」



ジムの魔法によってミィナの魔法はみだされ、凄まじい衝撃音と共に弾け、消えた。

そして、ミィナのノーマルの拳だけがキリオの顔面を殴り飛ばした。



「いってぇ!! え? でも魔法がない!? いったい何が起こった?」



殴り飛ばされたキリオもミィナの魔法が途中で消えた事に疑問を抱き、そしてミィナがジムに聞く。



「先輩!?今…何をされたのですか!?」


「魔法にさせなかったと言った方が正しいかな?」


「魔法の相殺ですか!?」


「相殺とは違うんだよね! 魔法になる前に魔法にさせない様にしたんだ」


「どう言う事ですか?」


「相殺は相対する力でぶつけて無くすけど、これは魔法が構成され、発現する形になる瞬間をこちらの魔法式を入れて構成させない様にする魔法だよ!」


「難しくて全然分かりません」



ミィナが落ち込む中、その話にキリオも入ってきた。




「やっぱりジムはすげぇな」


「凄くないよ……所詮しょせんは前世での知識マンガの産物だからね」


「なるほど! 確かに俺も似たようなもんか」




そして、ミィナが言葉を口にする。



「キリオ様や先輩の世界は本当に凄いですね! 是非もっとそっちの世界の事をお聞きしたいですね!」



その言葉にキリオが答えた。



「そうだな! まだちゃんと話してないもんな!」



その時、ナタが言った。



「皆さま? そろそろ食事にしませんか?」


「それもそうだな! ジムの髪も切らなきゃ行けないし、取り敢えず店入ろうか!」



キリオはそう言って自分の店の扉に手をかけた時だった。



「あれ? 鍵があいてる……」



キリオは違和感に気づき扉を開け、中に入った時だった。




…ポフゥゥン…




何かとても柔らかい物に顔が埋まり、視界が真暗になった。



「え? なに? ポ、ポフゥゥンて……」



キリオは自分の顔を埋める何か分からない柔らかい物に触れ、揉んでみたり、回してみたり、つねってみたりしたその時だった。




「なんじゃ? わしの乳房ちぶさがそんなに気に入ったか?」


「うわっ!!」



キリオは突然の声に全てが繋がり、あまりの驚きに退った。

その瞬間、後頭部でも…





…ボイィィン…



「……え? ボ、ボイィィンって……」




キリオは恐る恐る振り返った。



「……キリオ様?」



眉間に激しくしわを寄せ、頬は釣り上がり、まるで般若はんにゃの様な顔をしたミィナが居た。



「違う!? ミィナさん!? これはどう見ても事故だとは思いませんか!?」


「ええ……そうですね。揉んでみたり、回してみたり、つねってみたりも事故ですよね? なら私が殴っても事故ですよね!?」


「うわぁぁあああああああ!!!!」



キリオの悲鳴が青空へと消えて行った。












「…それで?…あんたは誰なんだ?」



目には青たん、顔中に引っ掻き傷をしたキリオがそう聞いた。



「わしか? わしは「ディー」の一族じゃ」



地面まで着く長い赤い髪、そして赤いドレスを着た女性はそう言った。

































挿絵(By みてみん)







そして、その名にミィナが驚いた。





「は!? え!? ディー!?」


「ミィナ知ってるのか?」


「知るも何も……知らない人は居ないはずですが……この世界で「ディー」はドラゴン族の事です」


「はぁっ!? ド、ドラゴン!?」



ミィナが言った真実にキリオもナタもジムでさえ驚いた。

文研ではドラゴンがいる事を承知してはいた。

しかし、その名が「ディー」と言う事と、更に人間に擬態出来るとも知らなかった。




「そのドラゴンさんはなぜうちに?」


「蟲の知らせがあってな。今の錬金術師を見に来たのじゃ」


「なぜ美容室ここに錬金術師がいるってわかったんですか?」


「ここに来る前に知人に会いにきてのぅ。そのついでじゃ」


「その知人て……」


「シリスじゃ」


「やっぱり」


今期こんきの錬金術師は何やら面白い事をしていると聞いているぞ。亜種族相手に髪を切ってるそうじゃな?」


「はい……切っています」


「カカカカっ! どれ、わしの髪を切ってはみぬか?」


「え!? 切ってよろしいのですか?」

『めっちゃ切りたい! ドラゴンの髪をに切りたい!』


「あぁ……切ってくれ。じゃが、お主に切れるのならな」


「切って見せましょう!!」



そして、キリオはディーのあまりの髪の長さに、先に切る事を決め、椅子に座らせ、カットクロスをつけた。



「髪型はどうしましょう!?」



ドラゴンの髪を切れる喜びから、心をはずませるキリオはそう聞いた。




「お主に任せる。わしに似合う髪型にするのじゃ」


「任せてください!!」




まず、キリオはコームで髪をかした。



『コシとハリが凄いしっかりしてる髪だな。すげぇ綺麗な髪……とりあえず、まずは長すぎる髪をあつかやすい長さに切らないとな』




キリオはお気に入りのチタンで作ったはさみで髪を切ろうとした。

しかし、その時だった。



「え!?」



衝撃音と共に鋏が壊れた。



「な!?何が起きた!?」


「カカカ!! そんな物では無理があるぞわっぱよ!」


「いや! ちょっと待って!!」



キリオは店に置いといた炭素を高密度で錬成した高密度炭素カーボンのロンズデーライトの鋏を持ってきた。



「ダイヤより硬いこの鋏なら……」


「ほう? 楽しみじゃ」



しかし、先程と同様に鋏は壊れた。



「え? 俺の最高傑作の鋏がぁ……」


「やはり無理じゃったか」



しかし、その時キリオは気づく。




「そうだ! フールの時も切れなかった……もしかしてマナの鋏ならいけるのか?」




キリオはオレンジ色に輝く結晶鋏けっしょうきょうを取り出した。

それを見てディーは何かに納得する。




『ほう? あれは森地しんちの結晶か……なるほど』


「切ります!!」




その瞬間だった。

鋏が髪に触れたその時、雷のはじける様な衝撃音を響かせ、髪を切ることもできずに鋏はただ弾かれた。



「き、切れない?」


「やはり無理な様じゃのう……楽しみにしておったのじゃがなぁ」


「も、申し訳ない……でも何で切れないだ?」


「ドラゴンの立髪たてがみは強度な防御力になっておる。普通の素材じゃ不可能じゃ。亜種族を相手に髪を切る者がいると聞き期待しとったのじゃが残念じゃ」


「…。」

『くそ……悔しい。何だこの悔しさは……お客様の希望を汲み取ってあげられない事がこんなに悔しい物なのか? いや、これは美容師としてのプライドなのか?』


興醒きょうざめじゃ……わしは帰るとするかのう」


「ちょっと待ってください!」


「なんじゃ? 切れぬ者よ?」


「あるんですよね? その方法が! 何を使えば切れますか?」


「そうじゃな……火の恩恵か相関そうかん関係の物じゃのう」


「教えて頂けたと言う事はつまり取りに行くことが俺なら可能だから教えてくれた……間違い無いですか?」


「ほう? 確かに無理な者には初めから言わんのう。現にお主は一つ持っているしな」


「これですか?」



キリオは右手に持つマナの森で手に入れたオレンジ色の結晶鋏けっしょうきょうを見せた。



「うむ。それは森地しんちの結晶じゃ。他にも後3つマナの結晶は存在する。それを使えば間違いないじゃろう」


「なるほど」



その言葉にジムは気づいた。

このままでは懶神なまけがみが言っていたダンジョン攻略が始まってしまうと思い、他の方法を聞く。



「でも他にも切れる方法はあるじゃないかな? ディーさんの一族は今までどの様にして髪を切っていたのですか?」

『この流れはまずい……なんとかキリオを行かせない様にしないと』



「爪や、牙で千切って長さを短くしている。しかし、わしはこう見えていたいけな女子じゃ。綺麗に出来るなら綺麗にしたいものじゃ」


『……どこがいたいけな女子だよ』

「なら爪や牙で加工すれば髪は切れるって事ですよね?」


「確かにその通りじゃ。しかし、使う素材の量と耐久度を換算したらドラゴン10当分は必要かのう……お主らにそれだけのドラゴンの討伐を許すと思うとるのか?」


「あ……い、いえ……」

『そんなに必要なのかよ!?』




そして、キリオが口を開いた。



「マナダンジョンか……」



キリオは考えた。

少なからず、マナの森での危険が予想される。

しかし、この世界で美容師をするには結晶が最も有効なのは明らかだった。

それを踏まえて、キリオは口を開く。



「ディーさん」


「なんじゃ?」


「取引をお願いできませんか?」


「ほう? どの様な取引なのじゃ?」


「俺はディーさんの髪を切る代わりにそのマナ結晶を一緒に取りに行ってはくれませんか?」




その言葉にジムが口を挟んだ。



「キリオ! またあの危険があるよ!? 本当にいいの?」



キリオは答えた。



「俺もそう思う。けどこの世界で俺から美容師を取られたら……俺は何にも無くなる」



キリオにとって、この世界で精神を保てた強い理由が美容師が出来ることだった。

どんな創作物マンガでも主人公は異世界に来て、その異世界で対応出来る。

しかし、それは創作物そうさくぶつの主人公だからである。

右も左もわからない世界に突然放り出され、不安や、恐怖、普通なら精神を保つ事などは難しい。

異世界転移者にとって異世界はとても過酷な状況なのだ。

そのキリオの精神を保てた理由が美容師に他ならない。

だからこそ、キリオは美容師を取られた時の恐怖に耐えられなかった。



「ジムごめん……この世界で俺が俺で生きていく為には美容師が必要だ」


「……。」


ジムは何も言い返せなかった。

キリオはディーに向き直り、口を開く。



「ディーさんお願いします」


「良かろう。これも何かの縁じゃ。わしもその依頼手伝うぞ」


「ありがとうございます」



そして、ジムが言った。




「ぼ、僕も行くよ! キリオ1人には行かせられない!」

『……結局……懶神の思い通りになってしまった……でも僕がキリオを守らなきゃ……』



続いて、ミィナとナタも賛同した。



「私も行きます! 待ってる心苦しさはもう耐えられません!」


「私も行きます! 先生を命に変えてもまもります!!」


「みんなありがとう……」

『このメンバーならきっと大丈夫だ』



それを見てディーは口を開いた。



『ほう? 亜種族の心をここまで掴み取るか…てかやはり今期こんきなのかのう』

「とりあえずは主の事をもっと知る機会が必要じゃ。今日はここに泊まる。お主の話を聞かせてくれ」


「え? 俺の話を? 構いませんが、どうして?」


「わしは知りたいのじゃ。お主の今までを……いや、知らなければならないと言った方が正しいかのう」


「わ、わかりました。ミィナ! 今日は目一杯振る舞ってくれ」


「はい! わかりました!」








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