「課せられた力」
「課せられた力」
気づいた時にはキリオの目の前にマグリは立っていた。
「う、うぁぁあああああ!!」
目の前に突然現れたマグリを見てキリオは恐怖で叫び声を上げ、後ろに倒れる。
そして、マグリが言葉を続けた。
「見るに耐えぬ」
キリオは泣き叫んだ。
「や、やめて! 殺さないで!! し、死にたくない!死に……」
その瞬間。
「……え?」
キリオは頭を両断されていた。
「う、うぁぁぁあああ!!」
突然、気づけば真っ白な空間に居た。
「……え?……あ、あ……」
自分の顔を触り、傷が無いことを確認する。
「……あ、あれ? お、俺の頭……ちゃ、ちゃんとある……」
キリオは混乱していた。
「 い、生きてる? いや……ま、待って……俺確かに…こ、殺された?」
そして、キリオは辺りを見回す。
「……な、なんだよこれ?」
キリオはその時、扉に気づいた。
扉は読めない文字と理解出来ない絵で描かれ、そして、身に余る程の大きい扉がそこにはあった。
「……と、扉?」
キリオは立ち上がり、扉に触れてみる。
しかし、その瞬間だった。
「うぁぁぁあああああ!!」
キリオは触れた瞬間、扉の中を感覚的に理解した。
それは数え切れない数、計り知れない量の魂思意だった。
「な、なんだよこれ? な、なんでわかるんだ? いや……てことはやっぱり俺は死んだのか?」
その時。
「……クゥーン……」
後ろから鳴り響いた鳴き声にキリオは驚き振り向いた。
「 っ!? 狼何でここに!?」
それはマナークウルフの子供だった。
キリオは屈み、マナークウルフの子供の頭を撫でる。
マナークウルフの子供は嬉しそうに尻尾振り、必要以上に体を擦りつける。
「い、いったい何がどうなっているだよ……」
更にその時だった。
「私達は死んだのですよ」
突然、後ろから掛けられた声に驚き振り返るとそこにはザーコが居た。
「ザーコ!? え? 今……なんて言った?」
「私達は死んだのです」
「……や、やっぱりか……そりゃそうだ……よな……」
「しかし、残念ながらキリオさんは戻らねばいけないみたいですね」
「は? それどういう事だよ?」
その時、キリオはあるものに気づいた。
「お前のその首のは?」
ザーコとマナークウルフの子供の首には長い記号の列が描かれていた。
「これは順番みたいなものですね」
「順番?」
「まぁ、死の証とも言えるでしょう。そして、記号がキリオさんには無い」
「え? じゃぁ……俺生き返れるの?」
「恐らくですが……他の何かの力が働いているのでしょう」
「ど、どういうことだ?」
「流石にそこまでは私にもわかりません」
「そ、そうなのか……」
「実は一つお願いしたいのですが?」
「お願い?」
「ええ……フール様のことです」
「あ、ああ……」
その時、キリオは思い出した。
愛する2人が死で永遠の別れになり、更にはフールが仲間を裏切った事を。
『 って言っても……俺も怖くてジム置いて逃げたんだよな……』
そして、ザーコが口を開く。
「私達は生まれた時からずっと一緒だったんです。フール様はエルフ王族の血縁、それに対して私は護衛を受け持つ血縁でした」
「……。」
「結ばれる事はあり得ないのですが、フール様の為なら私はずっとお側にい……たかっ……た」
ザーコに悲しさの感情が押し寄せ、涙を溜め言葉を押し出し話を続ける。
「しかし今、私が1番フール様に願うのは……私の分まで生きていて欲しい……」
ザーコは涙を拭い、キリオに伝える。
「 恐らくフール様は闇の淵を彷徨っている事でしょう。きっと心を閉ざす事でしょう。本当は私が深淵から救って上げなければならないのに……私にはもう救済ができません……」
悔しさで拳に力が入り震える。
「フール様を助けたいのに……助けて上げたいのに……それが私の1番の思いなのに……もう死した私では……救済が出来無い……非常に悔しいのです。助けられない事が本当に……お側に居られない事が……悔しい……」
ザーコは感情が高ぶり、拭いきれない涙を溢す。
「救済を俺にやれと?」
「ええ……死者の頼みは横暴なのです」
「……何で……俺なんだよ……」
キリオのその言葉にザーコは感情的になった。
「 あなたに……あなたにわかりますか? 命を変えてでも抗い、愛する人を必ず守ると決め、全身から溢れ出る抵抗をしても、弱者故に無念に死んでしまうものの気持ちが……これから生き返る今のあなたにわかると言うのですか?」
「……ご、ごめん……」
「わ、私もすいません……しかしーー」
ザーコから言葉が漏れる。
「ーー余りにも余りにも……悔しくて……」
「希望なのか?」
「…ええ……」
「…はぁ……」
キリオはため息を吐き、言葉を続ける。
「約束はできないけど頑張ってはみる……お前の言葉を伝えることぐらいは……できると思う……それでもいいか?」
「ええ……それでも少し報われます」
その時、音を立てて謎の扉が開いた。
「ガフの扉が開いてしまった……もう……そんな時間ですか……」
それと同時にずっとキリオに寄り添い、幸せそうな顔をするマナークウルフの子供も徐に立ち上がった。
「い、行くのか?」
「ええ」
「ご、ごめん……助けられなくて……」
「いえ、あれはきっと……どんな方法でもダメだったと思います。しかし可能なら……生きていたかった……」
「……。」
キリオは何も言えなかった。
しかし、マナークウルフの子供を撫でながら口を開く。
「狼にもすまなかった……名前ちゃんとつけてあげればよかったな……」
その時、ザーコが言った。
「キリオさん?」
「なんだ?」
「そのマナークウルフはまだ子供です。しかし、早くに命を落としました……」
「何が言いたいんだ?」
「あの時、連れてこなければきっと大きくなり、家族を作り、子を作り、楽しい人生があったと思います。しかし、その子はこの時の為に命を使った……あなたに会う為に……」
ザーコは沈黙を置き、言葉を続ける。
「私が何を言いたいかわかりますか?」
「俺に後悔を背負って生きろと言いたいのか?」
「いえ……私と同じです……好きな人に生きてて貰いたいのです。自分の未来を捨ててでも……あなたに生きててほしいと私達は伝えたいのです」
「……。」
ザーコのその言葉はキリオに深く響いた。
「ではキリオさん……さようなら……フール様をお願いします」
ザーコとマナークウルフの子供は開いた扉に向け、足を進める。
「ザーコ!」
その時、キリオがザーコを引き止める。
「 俺は出来た人間じゃない……ここでお前を安心させるために任せろの一言ぐらい言えればいいんだけど……今の俺では言えない」
キリオは拳に力を入れ、言葉を続ける。
「頑張ってはみる……でも……約束はできない」
「……フフ……あなたは本当に素直ですね」
ザーコは微笑みを残し、マナークウルフと共に扉の向こうへと消えて行った。
「……。」
キリオはザーコとマナークウルフを見送り、また1人になった。
「んで……どうやってここから出んの?」
1人になった事でキリオは冷静に戻り、改めて自分の状況を理解する。
しかし、その時だった。
「フン……ようやく死んだか……」
また背後から声がした。
「今度は誰だよ……」
振り返ると、そこには見知らぬ髭を生やした男性が居た。
「……あんた誰?」
「ん? そうか……お前が……」
髭の男性は嫌悪の顔へと一瞬変わる。
しかし、表情は直ぐに崩れ、口角が上がる。
「フン……こんな形で会うとはな……変な感じだな……まぁいい……俺はお前が死ぬ事でまた狭間で会えるのだから」
「は? 意味が……」
「ほら、準備しろ……始まる……自律錬成が」
「は? 自律錬成? 俺も錬金術の端くれだ……そんなの聞いたこともないぞ!」
「錬金術の大原則とはなんだ?」
「薄々気づいてたけど……等価交換とか言うんじゃねぇだろうな?」
「それ漫画の見過ぎな……」
「わかんねぇよ」
「……失う覚悟だ」
「は?」
「お前は……いったい何を失っているかな?」
その言葉を最後に真っ白い部屋は急に暗闇に包まれ、男はゆっくりと消えていく。
「お、おい!! ちょっと待てよ!! てめぇ!!」
キリオは叫ぶが、もう目の前の男は消えていた。
そして、遠くから光が迫る感覚を感じる。
『な、何か聞こえる?』
キリオは何かの声を聞いていた。
「 自律錬成を開始します。空間に存在する2つの魂思意を確認……エルフ族ザーコの魂思意を使い体の破損を修復……マナークウルフの魂思意を代価にキリオ・アルタイルの魂思意の錬成を行い、クオリアを再生成 ーー」
『な……何を言っているんだ?』
「ーー 代価にキリオ・アルタイルの「恐怖」の感情を消去します……叡智乃代行に基づき、「憤怒」(ふんぬ)の感情が異常値に達しました。再計算からX%を割り出します……とても危険な状態の為、精神の結合を遮断し、そのまま覚醒します」
『い、意識が……保てない……』
キリオは気を失う。
しかし、その時だった。
キリオの死体が蒼色の魔力で包まれ、宙に浮き、体が修復していく。
徐々に魔力が増し、それに合わせて魔光量が激しく入り乱れ、閃光の様に辺りを染める。
そして、凄まじい衝撃音と共に光が大きく弾けたその時、そこには右眼に錬成陣が浮き出たキリオが立っていた。
『敵を確認……』
キリオの目の前には、高魔力の咆哮を口内で溜める霊亀が居た。
『装備確認……高魔力装備確認……』
更に、キリオはマナの結晶で作った鋏を取り出した。
『魔力出力確認………展開します』
キリオの持つ、オレンジ色の結晶で出来た結晶鋏に高魔力を流したその瞬間。
奇怪な音を立てて、結晶鋏の周りに緑色に発光する高魔力の刃が出現する。
『……殲滅を開始します』
キリオは深く構え、力一杯に魔力を鋏に流し、刃に溜める。
刀身が脈の様に鼓動音を響かせ、光が高まっていく。
そして、丁度その時、霊亀の咆哮が放たれる。
しかし、咆哮とほぼ同時だった。
キリオは霊亀に向かって、力一杯に鋏剣を振り抜いた。
激しい爆風の音を轟かせ、凄まじい速度で幅広い緑色の風の刃が霊亀に向かって放たれる。
気づけば霊亀の脚は切断され態勢が崩れ落ち、咆哮の軌道が寸前でずれ、間一髪の所でツルギ達の横を通り過ぎ、爆風で吹き飛んでいた。
「はっ!?」
ツルギは振り返り、霊亀を見て余りの驚きに息が詰まる。
霊亀は片足を切られ横たわり、その目の前で蒼色に輝くキリオが立っていたのだ。
そして、既にキリオは霊亀の真上、遥か上空に移動し2発目の攻撃を放つ。
しかし、キリオの攻撃は凄まじい衝撃音と共に弾かれた。
『 高度の防御力を確認……叡智乃代行を基にx%を計算します。……算出しました。頭部への攻撃に切り替えます』
霊亀の甲羅の余りの防御力に攻撃は弾かれ、キリオはすぐに次の手に出る。
『空気中の78%の窒素を確認……上級錬成により移動を開始します』
キリオは足元で窒素を使い小さな爆発を錬成し、自分を宙で素早く移動させる。
そして、遥か上空に到着したその時、高爆発を使って衝撃を加速に利用する。
更に前方回転を加え、遠心力を使い、キリオは凄まじい速さで霊亀の首に斬りかかった。
『魔力を最大出力……限界値突破します』
目にも止まらぬ速さでキリオは上空から気づけばもう地面に着地し、遅れて斬撃音が辺りを染め、霊亀の首は血飛沫と共に地面に落ち、大きさの余り凄まじい衝撃音を響かせた。
更に遅れて霊亀の巨体が崩れ落ち、轟音を響かせる。
『目標の殲滅を完了しました。自律錬成を終了します』
そして、キリオは崩れるように倒れ、気を失った。
ブレードのイメージのイラストを追加しました。
イラストに一年分の差がありますのでテイストが変わっています。
ご了承ください。




