第86話 女の子はすべかなく、光モノに弱い
前回までのあらすじ!!
どうやらこの世界の住人はオレに説明するために、街の至る所で来るのを待っているらしい。もしそれが本当だとすると、いつまでもこの街から出られねぇじゃねぇかよ……
そんな住人共をほったらかしにするため、まだまだ店内を見て回ろうと、とりあえず近くにいる葵ちゃんへと話かけてみる。
「うん? 葵ちゃんは一体何見てんだ? その手に持ってる……それは石? いや宝石か?」
「あっ、お兄様♪ えぇ、とても色が綺麗な宝石ばかりで……ずっと目移りしてしまいましたの(てへりっ)」
葵ちゃんは声をかけられたのが嬉しいのか、とても笑顔になっていた。ずっと宝石に目を奪われていたのが気恥ずかしいのか、少し照れて誤魔化すかのように、自分の頭をコツンっと叩くフリをした。
「あっもし良かったら、お兄様も手に取って見ませんか?」
葵ちゃんは持っていた宝石をオレにも見るようにと手渡そうとする。
「あーでもさ……オレ宝石とかよくわかんないんだよなぁ~」
「それはワタクシだって同じですの♪ こう言った装飾品はただ見る事だけに価値があるんですのよ」
正直オレには宝石の良き悪きはまったく興味はなかった。だが、こんなに楽しそうにする葵ちゃんに水を差すのも悪いと思い、とりあえず手に取ってる見ることした。
「じゃあ……ちょっとだけな」
「はい♪ 落とさないよう気をつけてくださいね」
葵ちゃんは落とさないように、静かに丁寧に両手で手渡してくれた。
オレも葵ちゃんに習い落として壊さぬよう、気をつけながら宝石を手に取ってみた。
それは赤・青・緑・紫など様々な色が混じった、とても綺麗な宝石だった。
この宝石は既に加工済みなのか、表面が滑らかに削られ、既に形になっていた。
「へぇ~、あんま興味なかったけど宝石ってやっぱ綺麗なんだな。葵ちゃんが夢中になってたのもよく分かるよ」
「ですわね~。こうしてずっと見ていると、なんだかそのまま宝石の中に吸い込まれてしまいそうになりますわ」
オレと葵ちゃんは手の平に置いた宝石を眺めていた。
「おや、お兄さん。今度は宝石を見てるの?」
またまたジャスミンが説明のため、オレの近くに来てくれる。……もしかしてさ、説明する住人ってのにジャスミンも含まれてるのかな?
そんなオレの心情を知ってか、はたまた既知してるのか(まぁどっちも同じ意味なんだけどね)、勝手に説明を始めていた。
「この宝石はね、ななな、なんと!! 『魔法石』を加工して作ったモノなんだよ♪」
ジャスミンは無い胸を大きく張りながら、声高らかにそう説明してくれる。
「はぁ魔法石……ね」
なのにジャスミンのハイテンションとは裏腹に「そうなんだー」っと無愛想な反応をしてしまった。
「お、お兄さんなんかリアクション薄くない?」
「そそそ、そんなことないよー」
オレは目を逸らしながら、ジャスミンの訝しげな視線攻撃を避ける。「まぁいいけどさ……」っとややつまらなそうにジャスミンはヤサグれていたが、そこは商人である。笑顔になり説明を続けてくれた。
「この魔法石にはね、『力』が籠められているんだよ♪」
「力ぁ~? 力って……『魔力』のことか?」
「うん! ほら太陽に透かして見るとぉ~……」
ジャスミンは宝石の中に光を取り入れるように指で挟み込み掲げると、オレにも覗けるようにスペースを開け見るようにと右目をウインクして『片目を瞑るとより見えやすくなるよ♪』っと促してくれる。
オレは膝を曲げ少し屈んでジャスミンの真似するように左目を瞑り、そっと宝石の中を覗いてみることにした。
……すると、中で『何か』が揺れ動いているのが見えた。宝石なのにまるで『液体』でも入っているように見えた。
「どうぉ? すっご~~~くっ、綺麗でしょ♪ 中に揺れ動いてる『液体』みたいなのが見えるでしょ? これが『魔力』を具現化したモノなんだよ」
そして見る角度によって色が様々に変化していた。どうやらこの液体が光を屈折させ、色を変化させているようだ。
「こ、これが『魔力』なのか!? ほんとまんま液体みたいに中でユラユラ動いてるな!」
「お兄さんも現金だよね! さっきまで全然興味なかったのに『魔力が入ってる!』って説明したら、すぐに食いつくんだもん(笑)」
ジャスミンには少し呆れとも思える笑いをされてしまったが、
「だってよ。魔法だぜ? 魔力だぜ? 剣みたいな武器にも興奮しちまうけどよ、『魔法』ってのも思春期男子が食いつくワードの1つだぞ。それを間近それも目で見える形で見えるとあっちゃ、興奮しないわけがねぇだろ?」
オレはこの世界に来て以来一番力説していたかもしれない。ジャスミンは「そうなの?」っとこの世界では当たり前の事なのに……って顔をしていた。
それが何だか一人だけはしゃいでいるようで、今更ながらに恥ずかしくなってきた。オレは照れ隠しをするように、
「ほ、ほら葵ちゃんも見てみろよ! 太陽に透かして見るとさっきよりも、もっと綺麗だぜ!!」
隣にいる葵ちゃんにも、宝石の中を覗けるようにと少しスペースを開けると「目を瞑って、宝石を覗いてみなよ」っと声をかけ誤魔化した。
葵ちゃんもオレの真似をして、しゃがみ込むとオレの言われたとおり目を瞑り覗き込もうとするのだが、
「あ、あれっ? あの……お兄様。ワタクシには何も見えませんけど……」
「はっ? 何も見えない……」
オレは不思議に思い宝石を覗くのをやめ、葵ちゃんの方を見た。
「……って葵ちゃん! 両方瞑ってるんじゃ何にも見えるわけないよ!? 片目はちゃんと開けとないと!!」
そう葵ちゃんはオレの言いつけどおり、『目を瞑っていた』のだ。……しかも両方のお目目をだ。そりゃ見えるわけねぇよ。
「あっ……そ、それもそうですわね(照れ照れ)」
相変わらず葵ちゃんは天然さんのようだ。まぁそこがカワイイところなんだけどねっ!! (力説)
正直両目を瞑っている葵ちゃんを見ていると、「まるでキスを強請られている……」そんな勘違いをしてしまいそうになる。
「(そういえば、オレって……葵ちゃんとキス……しちゃったんだよなぁ)」
葵ちゃんが死ぬ直前、キスを強請られお互いにファーストなキスをしてしまった。
あのときは人が簡単に生き返らせる事ができるとは夢にも思ってなかったし、もう二度と葵ちゃんと会えなくなってしまう。そんな思いから葵ちゃんの最後の頼みを聞いたのだ。
今隣にいる葵ちゃんの唇を見ていると、その時の柔らかい感触を思い出してしまい『葵ちゃんともう一度キスをしてみたい。今度はちゃんとしたのを……』そんな想いがオレの心を次第に支配していく。
葵ちゃんはそんなオレの想いを知らず、しゃがみ込んで宝石を見ていた。葵ちゃんは距離感を間違ったのか、ふとよろめきオレの胸元に頭を預ける形になってしまう。
「葵ちゃん……」
「……お、にい……さま?」
互いに声をかけ、互いに目が合った。
「……」
「……」
葵ちゃんもあの時のことを思い出したのか、少し照れながら何も言わず、互いに無言になっていた。
「……ん」
葵ちゃんは両目を瞑ると、まるでキスを強請るように上にいるオレへと、その柔らかな唇を差し出してきた。
少しずつ互いの距離が狭まっていき、互いの息遣いを感じられる距離まで迫っていた。
そんな二人に、もはや言葉なんて無粋なものはいらなかった……。
第87話へとつづく




