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あな嫁~あなたの目の前に野生のお嫁さん候補(お嬢様)が現れた!!入力コマンドは!?……だがしかし、コントローラーにシカトされてしまったようだ。~  作者: 立花ユウキ/scarlet
第5章本編『終わる世界』

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第218話 記憶の混濁とその影響

「でもさっき頭を撫でられた時、『もきゅ』って聞こえたような気がしたんだけど……」


 確かにオレはもきゅ子の鳴き声を聞いた。だが、それは夢の中の出来事だったのだろうか?


「それはたぶん『мокюто(モキュート)』ではないかね?」


 いつの間にか医者らしき男性が部屋の中に入ってきてそんなことを言った。


「えっ? も、もきゅーと……ですか? それって……いやそれよりも貴方は?」

「うん? 私の事かな? ああ、そういえばキミとは初めましてだったねユウキ君。私はキミを担当している『脳神経外科の木村』というものだ。起きて早々調子は好いみたいだね?」


 担当医だと名乗った木村医師は、俺が脱走したことを冗談めかしてだろうが皮肉交じりに笑いながら右手を差し出していた。 


「えっ? き、木村って……タラバガニの脳移植専門の木村漁師か!?」


 オレは無礼ながらも木村医師に向かってそんなことを言ってしまう。


「ぷっ。タラバガニの……の、脳移植とか……くくっ……しかもお父さんが、りょ、漁師とか……あはっはっはっ」

「は、はぁ……どうやらキミは記憶の混濁があるようだな……これは考えものだな。って美智! 何を笑ってるんだ?」


 どうやらビッチさんと木村医師は親と娘のようだ。

 ビッチさんはツボに入ったのか、笑い死にするかのように腹を抱え、対して木村医師は冷静に返しつつも娘に笑われて少し顔が赤くなっていた。


「だってだってお父さんが漁師だったとか超笑えるしぃ~♪ しかもカニの脳移植専門ってば、笑うなって方が無理でしょうが。はっはっはっ」


 床を転げばかりの勢いでビッチさんは床スレスレまで頭を下げお腹を抱えて笑っている。


「あ、あの……すみません」


 オレはとりあえず謝る事にした。

 初対面で失礼なことを言ったこともだが、ビッチさんが笑いまくっていることに関しても申し訳ない気持ちになっていた。


「…………」


 だが木村医師は一切笑う事もなく、何かを考えるようにオレの事を見つめていた。


 木村医師の無言の圧力で相当怒っているのでは……そう思い再度声をかけ謝ろうとする。


「あの……ほ、ほんとにすみ……」

「……キミはどこでそれを聞いたのだ?」

「えっ? どこでって???」


 一瞬何を聞かれているのか分からずにそのまま聞き返してしまう。


「ははっ…………お父さん?」


 さすがのビッチさんも自分の父親は真剣な眼差しでオレを見ていることを不思議に思ったのか、笑うのを止めていた。


「私は昔、漁師だったお爺さんに連れられ漁をしたことがあったのだ。それも……キミが言ってたように『タラバガニ』の、な」


「さすがに脳移植まではしなかったがな」と付け加え、木村医師は再度オレに聞いてきた。


「……マジぃ? お父さんの冗談とかじゃなくて?」

「ああ……冗談にしては笑えないだろ?」


 さすがのビッチさんもこれには驚いた様子だった。

 父親の真剣な顔を見てそれが本当の事だと理解するとこんな言葉を口にした。


「そういやさっきも教えてないのに私の昔のあだ名とかクラスの担任の事とか知ってたね? じゃあお父さんの話も本当……」


 ビッチさんはそれ以上言葉を口にはしなかった。

 たぶんオレの事を薄気味悪いと思ったのか、それとも興味深いと思ったのかはその表情からは読み取れなかった。


「あ、あのオレオレ……」


 オレは二人に無言で見つめられ、居た堪れなくなり何かを喋ろうとしたのだが何も口にできず言葉を詰まらせることしかできなかった。


「мокютоはワタシが住む……故郷のおまじないなん……です」


 いきなりシャルが口を開くとそんなことをオレに向かって言ってきた。

 一瞬何の事を言ったのか理解できなかったが、先程オレが口にした『もきゅ』の意味を言っているのだと少し間を置いて気付いた。


「は、早く病気が治る様にって……母から教わりました。そ、その……貴方が苦しそうだったので……ゴ、ゴメンナサイ」


 シャルは拙い日本語を口にしながらも苦しんでるオレの為、頭を撫でおまじないをしてくれていたのだと言う。

 そして何か悪い事をしたのかとオレに向かって頭を下げながら謝罪していた。


「いや、シャルが謝ることはねぇって! むしろ夢の中だったけど頭撫でられて、そのおまじない? の言葉かけられて心が落ち着いたもん」


 未だ頭を提げているシャルに向かって『気にするな』っと声をかけ、早く頭を上げるように言う。


「そ、そうですか? それは……ヨカッタです」


 不思議そうな顔をしながら自分が怒られているのではないと理解するとシャルは安心したような顔でホッっとしていた。


「ふむ。分からないことをいつまでも考えていも無意味だろう。とにかくキミが目覚めてホッとしたよ。正直医者の私がこんなことを言うのは不謹慎なのだが、私はキミが2度と意識を取り戻さないだろうと思っていたのだ。外傷こそ大した事はなかったが、それくらいキミは後頭部にダメージを受けていたのだよ」


 木村医師は安心した顔で当時のオレの状況を伝えてくれた。

 そして母親がオレに言ってたことは全然笑えない冗談であったことを今になって理解してしまう。


「あっ、そういえばかあ……いえ、ウチの母親は?」


 一瞬いつものように母親のことを呼ぼうとしたのだが、ビッチさんや木村医師の手前言い直して姿が見えない母親の所在を聞いてみた。


「たぶん居なくなったアンタを今も探……」


 バンッ!! 突如として部屋のドアが勢いよく開けられると今話題急上昇中の母親が息を切らせながら病室に入って来たのだ。


「ユウキ!? こんの馬鹿息子!! 一体どこ行ってたのよ!! 心配したんだからね!!」

「痛っ!? か、かあさん。何も頭叩くことねぇだろ!? こちとら病人なんだぞ!? ちっとはオレの事労われよ!!」


 バシッ! わりと強めに頭を叩かれてしまう。

 それからはまさに売り言葉に買い言葉、怒鳴りつける母親にオレも今までの鬱憤を晴らすかのように口論をした。


 それを間近で見ていたビッチさんや木村医師それとシャルは「まぁ良くなった証拠……」とばかりにやや苦笑いをしながら、「お大事に……」と言い残し巻き込まれては大変だとさっさと病室を後にしてしまった。



 エピローグにつづく

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