第215話 夢と現実の相違
「はぁ~っ。一体キミは何なのだ? そのような格好で私達に声をかけてきて……もしやナンパか? すまないのだが、他の生徒にも迷惑がかかるから校舎で……いや、そうゆう行為自体を止めてもらえないだろうか? もし止めてもらえないのなら、生徒会長として生徒の安全を守るためキミを排除しなくてはならないのだが……」
天音は眉を顰めると、まるで不審者を見るような目でオレにそう言った。
「ははっ……ま、マジかよこれ? こんなのってアリかよ……」
もう訳が分からなくなり、自虐的とも思える笑いを浮かべてしまう。
(最初から何かが可笑しかったんだよな? オレみたいな普通のヤツにこんな美少女達がいきなり好意を寄せるわけねぇもんよぉ。オレはなに今更残念がってんだよ? そもそも始めから……っ!?)
オレの目からは止め処も無く涙が溢れ出してしまう。
それは悲しさからなのか、それとも自分の良いように都合よく勘違いしていたからのか、分からない。
ただ天音のその言葉は、オレと出会って過ごした時間を完全否定するものだった。
「あ、あの! 勘違いなのかもしれませんが……」
「うん? 葵はこのような男を知っているのか?」
おっかな吃驚といった様子で葵ちゃんは右手を挙げながらも、そう声をかけてきた。
「え、えぇお姉様。今思い出したのですが、ワタクシ……この方を知っていますわ」
「えっ? そ、それってどうゆう……も、もしかして……」
葵ちゃんのその言葉にオレは思わず耳を疑ってしまう。
「もしかして異世界での記憶が戻ったのか!?」っと一瞬ぬか喜びするオレだったが、次の言葉で更なる奈落へと叩き付けられる事になる。
「ほら、お姉様覚えていませんか? 入学初日の朝に遅刻して走りながら校舎へと入ってきた例の生徒ですわよ。確か転んで入院したと聞いたような……」
「ああ……どこかで見たことがあると思ったら、あの時のか!? 確か校門のところで桜の花びらに足を捕られてしまい頭から倒れ、入院したドジな生徒! そういえば転んでアホ面を晒していた顔と一緒の顔をしているな。そっかそっか。それで……なのか。あ~っはっはっはっ」
どうやらウチの母親が言っていた目撃していた生徒とは葵ちゃんと天音のようだ。
天音も葵ちゃんに言われ、ようやくオレの顔を思い出したようだ。
そしてオレが何故このようなパジャマ姿でここにいるのかを悟ると、余程面白かったのだろう腹式呼吸を使いながら発音良く且つ盛大に笑い声をあげている。
「あはっ♪ あ、あはははははは……」
(きっとさ、これは夢の世界なんだよ。そうだよ……そうに決まってるよ。こっちの世界が夢の中で、あっちの異世界だかRPGの世界だかが現実世界なんだよな? な? じゃねぇと説明がつかねぇもん。なら早く元の世界に帰らなきゃ……)
オレも天音と同じく笑い声をあげてしまう。
だがそれには大きな違いがあり天音のは馬鹿にした感じの笑いであったが、オレの笑いは「もうどうでもいいや……」と諦めから狂い壊れた笑い声でもあった。
「な、何なのだこの男は!? いきなり脈絡もなく、笑いだしたぞ!? 狂人なのか? 頭を打っておかしくなったのか!?」
「お姉様。警備の人を呼んで来た方がよろしいのでは?」
天音も葵ちゃんもオレを頭のおかしいヤツだと思っているらしい。
だがそれは自我を、そして心を保つための人間の自己防衛本能であり決しておかしくなったわけではない。
「そっか、そうだったのかよ。静音さんもこんな気持ちだったのか……ははっ……」
相手に自分のことを忘れ去られてしまう事がどうして人の死に繋がるのか、今こそ痛いほど味わってしまった。
たった一度ですらオレには心を維持する事が困難なのに、それを静音さんはこんなことを何十回、いや何千何万回と繰り返していたと言ったのを思い出してしまった。
「静……音だと!? おい貴様! それは静音姉様のことを言っているのか! どうなのだ! 早く答えろぉ~~っ!!」
「へっ? な、なにが……ぐっ……く、くるし……い」
オレが静音さんの名前を口にした途端、天音は怒りながらオレの胸倉を掴み自分の元へと引き寄せ、首を絞めて殺さんばかりの勢いで何かを聞いていた。
だが、オレには何が天音の気に触ったのか分からず、また天音にされるがまま首を絞められ何を言ったのかさえ聞くことも、また答えることもできずにいた。
「あ、天音お姉様っ!? そんなことをしたら、その方死んでしまいますわよ!?」
「……ちっ。そもそもこんなヤツが静音姉様のことを知っているわけがないな。時間を無駄にしたな……葵! ウチに帰るぞ!」
天音は葵ちゃんに腕を掴まれそう説得されると、まるで突き飛ばすかのように乱暴に服を手放した。
オレはその衝撃で後ろへと倒れこんでしまう。
「ごほっごほっ……一体何なんだよ……っ……」
咳き込むことでようやく酸素を得て、そこで初めて自分が天音に首を絞められていると理解することができた。
当の天音はというとオレと葵ちゃんを置き去りにし、一人さっさと歩いて行ってしまった。
どうやら迎えなのか、校門の外にはいかにも高級そうなリムジンが停まっているのが見えた。
「天音お姉様にとって静音お姉様はかけがえの無い女性だったんです」
葵ちゃんは天音には付いて行かず手を差し伸べてきたが、オレはその手をとらなかった。
代わりに葵ちゃんに聞いてみることにした。
第216話へつづく




