第203話 天音と静音
『これより先の話は読むと後悔なさるかもしれません。それでも貴方様は続きをお読みになるのですか?』
『はい』←
『いいえ』
「おぎゃーおぎゃー」
(あれは赤ちゃんか? それも生まれたばかりの……)
見ればオレの真下には生まれたばかりの赤ちゃんが白いタオルに包まれ、メイドさんに抱きかかえられ部屋のドアから出てきたのだ。タオルの隙間から見える髪の色は赤毛であった。
どうやらオレは宙に浮いてそれを『第三者目線』として誰かの記憶として見せられているようだ。
「おおっ! ついに生まれたのか! して男か? 女のか? ええい、早く言わぬか!」
中年の父親らしき男性は焦りからか、赤ちゃんを抱きかかえているメイドさんに詰め寄っていた。
「元気な女の子ですよ、ダンナ様!」
「そ、そうか男ではなかったのか……。少し残念ではあったが、今の時代女でも後継者として家督を継ぐことも良いであろう。さぁこちらへ」
男性は女の子だと聞きやや落ち込んだ様子だったが、赤ん坊が元気だと知ると笑顔になり自ら抱こうと手を広げていた。そしてメイドさんが優しくも丁寧に男性の胸元へと赤子を預ける。
「おぎゃーおぎゃー」
「おお~っよしよし。これそんなに泣くでないに。うむ。だが、とても元気に泣いておるな! この子ならきっとこの須藤家の未来を担う存在になるだろう……。よし決めたぞ! この子の名は『天から授かりし音の音』っと書いて『天音』と名づけることにしよう」
男性は赤子に名前を付け、抱き上げてそう宣伝したのだ。
(あ、天音だって!? じゃあ……あの赤ん坊はあの天音なのか!?)
確かによくよく見れば赤毛で顔も今の天音に面影がある。
もしかしたらこの映像は天音と葵ちゃん、どちらかの記憶なのかもしれない。
だが、名付け喜びを表現するように抱き上げている男性とは対象的に、メイドさんは暗い顔をして何か言いにくそうに影を落とすように顔を下に向けていたのだ。そんなメイドさんを不審に思ったのか、男性は顔を顰めながら問いただしていた。
「うん? どうしたと言うのだ? まさか妻に何かあったのではあるまいな!?」
「いえ、奥様は無事なのですが。その……」
「よい……申してみよ」
男性には得も言えぬ独特の雰囲気があると共に風格もあった。
「実は今だんな様が抱えてらっしゃるお子様は、その……次女様でして……奥様がお産みになられたのは双子だったのです」
赤ん坊を抱いていたメイドさんは、申し訳なさそうに主人と思しき男性に対して何度も頭を下げていた。
「次女だと!? ならばふ、双子だと言うのか!? やっと授かったというのに……寄りにも寄って何故双子なのだ!!」
男性は先程とは比べ物にならないほど怒りを露にしていた。
(うん??? 双子が何だっていうんだ? そんなに怒ることなのかよ?)
オレは訳も分からず父親であろう男性が怒りの態度に困惑してしてしまう。
(……あ、あれ。これって変だよな? そもそもあの赤ん坊は天音なんだよな……それが次女になるのか? なら長女は葵ちゃんか? でも確か天音は長女だったよな???)
そこでオレは心の中で何かが引っかかってしまったのだ。天音は後継者候補で長女だと自己紹介で述べていた事を思い出していた。そんなオレを他所に話は続いてゆく。
「その長女だという子はどこにいるのだ!! ええいっ! もうよいわ!!」
バンッ!! 男性はメイドさんが答えるのを待つ間もなく、赤ん坊を抱き抱えたまま乱暴に部屋のドアを開け中へと入って行ってしまった。
メイドさんも慌てて男性の後を追うように部屋に入って行く。
オレもその後を追うようにメイドさんの後ろを付いて行った。
部屋の中に入ると大きなベットの上に青い髪が特徴の美しい女性が起き上がり、もう一人の赤ん坊を抱いていたのだ。先程の子とは対象的に一切の産声を上げておらず、静かなものだった。また双子だけあって、髪の色が赤毛である。
(うん? あれが……葵ちゃんなんだよな? でも……葵ちゃんの髪の色は白だよな??? ならあの子は……)
「あなた見てくださいませ。双子の可愛らしい女の子なのですよ。名前はどうしましょうかね? ……あの……あなた?」
母親らしき女性はとても嬉しそうに名前を決めようと男性に声をかけたのだが、男性の顔を見て異変に気付いたのかとても不安そうな表情をしていた。
「……その子が長女なのだな? 雪音……その子を……私に渡しなさい」
「え、ええ……あの……あなた? 一体どうされたのですか……そのように怖い顔をして……」
そしてベットに座っている母親は更に不安そうな顔をすると抱いている赤子をより強く抱きしめ、守ろうとしていた。
きっとそれは無意識下での母親としての本能だったのかもしれない。
その行動を目にすると男性は重々しく口を開き、信じられない言葉を口にするした。
「お前にはすまないが……その子が長女ならば殺さねばならないのだ」
「えっ? こ、この子を殺す!? 何故なのですか! 理由は!?」
夫であろう男性から生まれたばかりの子供を殺すと言われ、激しく動揺をしている母親を他所に父親である男性は言葉を続ける。
「理由……か? それはその子が『双子で長女である』からだ」
(おいおい何だよそれ!? 双子の長女だから殺す!? 一体どうゆうことなんだよ!?)
「あなたそのような理由でこの子を殺すと言うのですか!!」
まるでオレの心中を代弁するように母親が男性へと声を荒げていた。
「お前も我が家が先祖代々に渡り『商い』をしているのは知っているだろう? それこそ今では日本経済を左右するほどの規模になっているのだ。だからこそ、ようやく念願かなって生まれた子供にその家督を譲るのに今の時代男である必要はない。だがな、双子だけはダメなのだ。我が家にとって双子とは……『災いを呼び、家系を滅ぼす』と古くから言い伝えられているのだ。だからこそ、その子を……」
「何故そのような迷信を重んじるのですか? 生まれてきたばかりのこの子に何の罪があるというのです!!」
母親は必死に訴えかけるのだったが、『おい』っと低い声で傍にいるメイドさんに命令するとその母親から子供を取り上げてしまったのだ。
「雪音よ。この子の事は忘れ、この子……天音だけが私達の子供なのだ。だから……」
「そんな残酷なことはできません!! その子も……静音も私達の子供なのですよ!!」
(なん……だって? 今子供の名前を何って言ったんだ? 静音だって? ……あの子がっ!?)
俺はその名を耳にして硬直してしまうのだった。
第204話へつづく




