第120話 異世界モノでメシが美味いのはフィクションだから!!
「お兄さん、スプーンはそこの1番上の引き出しにあるから……」
ジャスミンは先程深皿の下にある備え付けの引き出しを指差し、そこからスプーンを持っていくようにと指示をしてくれた。
「ああ、ここだな!」
そして言われるがままに1番上の引き出しを引いてみた。すると引き出しの中には、鉄で出来たフォークやナイフ・スプーン、それに木で出来たスプーンなどがたくさんあり、下には布が引かれ種類ごとにしっかりと並べられている。
オレはそこから木で出来たスプーンを取り出した。何故木で出来たスプーンを選んだかと言うと一番窪みが深くスープを飲むのに適していると考えたからだ。
鉄で出来たスプーンは底が浅く、上品に少量ずつ飲むのは適しているが、今のオレ達にマナーなど必要はないと思い実用性で選んだのだ。
また鉄では木よりも伝熱性が高いため、熱々のスープでは食べにくいと考えたからだ。
「(だってさ、本来ならマナーを重んじるウチのお嬢様共が飢えに苦しんで、マナー何かすっ飛ばしやがってスプーンなしの、しかも皿に直接口付けてがぶ飲みしてんだぜ。ここは実用性で選ぶのが無難だろ?)」
「はいお兄さん! おかわりの分もできたよ♪」
オレがジャスミンが天音と葵ちゃんの分のおかわりのスープを注ぎ込み、「早く持って行ってね♪ ボクはその間にパンの用意をするからね」と笑顔で言われてしまう。
「ああ! ありがとうジャスミン!!」
オレは再び左右の手に2枚皿を持つと、天音達がいるテーブルへと給士を始めた。
「遅いぞキミっ!! そのような事でウエイターが勤まるとでも思っているのか!! ダンダン!」
「お兄様、そんなに遅いとスープが冷めてしまいますわよ! ダンダン!!」
「……何でオレが怒られてんだよ」
二人の野生児共は、おかわりを持ってくるのが遅いと憤慨していた。ご丁寧にも本来なら、効果音で補うはずのテーブルを手で叩く音をセリフとして口ずさみながらだ。
「(まぁテーブルを叩いていないだけマシなのかもしれない。……いや、口ずさんでるのもマナー悪いんだけどね)」
オレは先程と同じように、天音と葵ちゃんの目の前におかわりのスープを置いた。今度はちゃんとスプーン付きで。
「ほらよ! ご所望のおかわりのスープだ!!」
「お~きたきたぁ~♪ うむ、先程と同じように見るからに美味そうだな! ……具が野菜ばかりだがな」
「ですわね~♪ 湯気もこんなにたくさんで、見るからに熱そうですわね♪ ……例え中身がお野菜ばかりでお肉が無くても」
天音と葵ちゃんは1杯目とは違い、何やらスープの具材にケチをつけ始めていた。
「(おい! 何か知らねぇけど、コイツらスープの具材をディスり始めやがったぞ!? 1杯目を先に食べたから腹に余裕ができて、2杯目は具材を確認する余裕ができたからディスり始めたのか!?)」
オレがそんな事を思っていると、厨房からジャスミンが残り3皿のスープを持ってきてくれた。
「はーい、みんなお待たせお待たせ♪ 残りのスープも持ってきたよ♪」
「ジャスミンって、すっげぇ器用なんだな。オレじゃ両手に1皿ずつがやっとなんだぞ」
オレとは違い手馴れいているのか、ジャスミンは右手に2皿を、左手に1皿のスープを乗せていた。
「うにゃ? あ~っあははっ。まぁボクは慣れてるからね。お兄さんだって慣れれば4皿くらいは持てるようになれるよ♪」
そう笑いながら、オレ、静音さん、もきゅ子の目の前にスープを置き照れていた。
「ジャスミン、スープもよいのだが……何かこう、パンなどの主食はないのか?」
「ですわね。温かいスープも良いのですが、パンなどお腹にたまるものが恋しくなってしまいますわね」
「あっごめんごめん。厨房に用意してあるよ! い、今持ってくるから待っててね!」
そう二人のお嬢様にパンを所望され、ジャスミンはパンを取りに厨房まで走って行ってしまう。
「(コイツらには遠慮ってもんがねぇのかよ。確かに金払うわけだから、こっちが客なんだけどさ。……それにしてもだよな?)」
オレはそう思いながらも、空腹の腹を刺激するスープの匂いと立ち昇る湯気の誘惑に負けてしまい、ジャスミンがパンを持って来る前に木のスプーンに手が伸びてしまう。
「(まぁ何だかんだ言っても人間、空腹には勝てねぇよなぁ~。それにしても、いつぶりのメシになるんだろう……。もしかして入学初日の昼ぶりになるのか?)」
そんな事を考えながら、スプーンを手にすると透明で野菜が浮かんだスープをすくって1口飲んでみる。
「……ズズッ。………………うん?」
きっとさ、「これは美味い!!」とか「人生でこんなに美味いスープは飲んだことねぇよ!!」などと読者に期待させて悪いとは思うのだが、現実はそうではなかった。
「(ごめん。なんだろうコレは? スープ……なんだよな? それにしては味がまったくしねぇんだけどさ)」
そう見た目の透明さと同様に、味も透明だったのだ。まぁ早い話がスープの味がまったくしないわけなのだよ。
オレはその無味のスープを飲み込むと、口元に握った右手を当てて、考え込むフリをしてしまう。
「(これは……もしかしてオレのスープだけがおかしいのか? それともオレ自身の味覚がおかしいのか? ……いや、でも天音も葵ちゃんも『美味しい』って言ってたよな?)」
そう思いながら、伏し目がちに周りにいる女性陣に目を向ける。
「うむ。スープばかりだと腹が張ってしまうな。ジャスミンはまだなのか?」
「お姉様。パンがなければスープを飲めばいいじゃな~い♪ っと昔の偉ぶってた王妃もいますわよ」
天音の性格から察するに、味がしないスープなぞ文句を言うだけでなく、皿ごとテーブルごと薙ぎ払って地面に叩きつけてもおかしくないだろう。
だがオレの真正面にいる天音、そして向かって左側にいる葵ちゃん、その二人は至って普通な態度なのだ。「やっぱりオレのスープだけがおかしいのかな?」そうして今度はその逆の方向、つまり向かって右側に座っている静音さんともきゅ子へと目を向けることにした。
「…………スッ」
静音さんは音もなく、静かににスープを飲んでいた。
それはまるで礼儀作法のお手本のように凛と背筋を伸ばし、音も立てずにスープを飲む姿は天音や葵ちゃんよりも『お嬢様』って感じがしていた。まぁメイドで二人のお世話係なんだから、礼儀作法が身についていても何ら不思議ではない。
「(それにしても静音さんはこのスープの味に何も感じないのかな? それとも……分かっていても、ただ黙ってるだけなのか?)」
静音さんのその表情からは何も情報が得られない。
そして静音さんのその隣にいるもきゅ子に目を向けると、器用にも右手でスプーンを持ってスープをすくおうとしていた。
「もきゅ! もきゅ!! きゅ~きゅ~」
何度もスプーンでスープをすくおうとしているのだが、不器用なのか気付いていないのか握っているスプーンが逆向きで窪みがしたとなり、スープがまったくすくえずにまだ食べれていない様子で「何で? 何ですくえないの?」っと悲しそうに鳴いていた。
「(もきゅ子……オマエのそのスプーン握ってる姿が超カワイイんだけど、それにも増してスプーンが逆向きにして悲しそうに鳴いてるその姿…………ヤバイくらいカワイイわ!!)」
そんなもきゅ子に新たな萌えを感じつつ、オレは目の前にあるスープに2口目の口をつける。
「……ズッ。…………」
2口目もやはり味はしなかった。だが今度はすぐには飲み込まず、舌先で味わうようにスープの口の中に留めて置く。すると、かすか……ほんのかすかに『塩の味』と『野菜の甘味』がしているような感覚になってきた。
「(スープに味はあるのかもしれない。スープの熱さで余計分かんねぇのかもしれないけど、……すっげぇ薄い。薄いことだけは確かだわ。この味を例えるなら……『死にたくなるような味』って感じだな。そんな表現をしてしまうくらいマズイ。マズすぎる)」
そんなマズさを噛み締めるようにどうにか飲み込む。
よくよくスープの中を覗き見れば、野菜の身の部分はちゃんと入っているのだが、他にも人参やじゃがいもなどの皮や葉物野菜の芯までも混じって入れられ、肉などは一欠けらすらも入っていなかった。
「(よくさ、最近の異世界モノでありがちな『メシうま』とかあるだろ? やっぱりアレってありえねぇことだわ。……そもそも住む世界が違うんだから、食文化も味覚も違うのは当たり前なんだよ。だから『異世界に来て食べ物が美味い!!』な~んてのは、御伽噺みたいなものだろ。……違うか?)」
などと昨今のメシうま異世界モノに疑問を提示し、次回は何故その料理が美味しくないかの理由を次話までに考えつつ、お話は第121話へとつづく




