13話:事件
飛天総会合から九年、いや、もうじき十年になるという時期。時空間暦で言う二百九年末。末の末。もう、あと二時間もすれば、二百十年になる。そう、そんな師走の忙しい時期、事件は起こった。
――ジリリリィ!
そんなセットもしていない目覚ましに私は叩き起こされた。最初、何の音かも理解できないまま響いていた音。次第に目が覚め、脳が働き出す前、もう、体が本能的に、この音が何かを察したようだ。身だしなみを整えるのもそこそこに、私は、《琥珀白狐》を抱えながら、全力疾走をした。途中、床が壊れた場所があったが気にしない。それほどの緊急事態。そう、この音は、《緊急時招集シグナル》。
《緊急時招集シグナル》とは、《時空間統括管理局》における、決められた信号のことである。あの音は、間違いなくコレにおける、危険度高を超える緊急事態である。危険度は、高中低と高を超えるに分かれる。つまり、今起きているのは、大変なことである。それは、もう、要人暗殺や王宮爆破並みの。何があったかは分からないが、招集がかかれば、列火四門と蒼天が王宮に集まるようになっている。だから、私も王宮に向かっていた。
――緊急事態により、外部との隔離まで、後十秒。
私が王宮に入ったときに流れたメッセージ。ぎりぎりセーフか。隔離されれば、魔法による侵入すら不可能になる防壁だ。私なら壊せるが、壊して犯人逃がしたら大変なことになる。とりあえず犯人を逃がさないことを先決とする、か。
――外部との隔離まで、三、二、い
その瞬間、私は、見た。鮮血のこべりついた衣服を纏いながら、狂おしそうな顔をして笑って、この王宮から出て行く、白城の姿を。
――ち、零。防壁展開。展開完了しました。
しかし、追いかけようとしたそのときには、もう、防壁が張られてしまっていた。
「まさかとは思うけど……」
あいつが犯人なのか。そもそも何の事件かも聞いていない。
「あっ、無双さん。ここにいらしたのね」
ハルカだ。
「ハルカ、何があったの。まさかとは思うけど、要人暗殺?」
白城の服には血がついていた。だとするならば、可能性が一番高いものを選んだ。
「え、よく分かりましたね?被害者は、飛天王国外務官とその補佐の三人と」
そこでいったん言葉が切られる。
「十三人の一門部下です」
「……ッ!」
間違いない。確信に変わる。白城だ。白城が、殺した。
「一門部下で行方不明者は白城王花一人です」
早くあいつを追いかけねば。
「そして、彼女から、メッセージが残されていました」
メッセージ?
「読み上げます。『隊長、貴方達と何れ戦う日を待ち望みます《白王会》代表、白城王花』」
《白王》会?やはり、《白王》。
「無双さん。《白王》というのは……」
「貴女と同じよ。きっと。だから、むやみに動かれるのは危険なの、だから私は止めるわ。《翠華》、貴女はどうする?」
ハルカが目を見開く。
「気づかれていたのですね。流石です。私は、もう、《翠華》として活動する気はないので、せいぜいサポートさせてもらいますわ」
「了解」
そして、私は、防壁を破り、白城を追った。しかし、白城は、どこにも居なかった。一体、どこへ行ったのだろうか。――コレから、何が起こるのだろうか。




