シン・1984
架空戦記創作大会2023冬のお題①です。
3月12日、大幅加筆修正しました。締め切りで端折ってた部分を加筆しました。
なんでもかんでも、シン付ければいいってもんじゃないと言われそうですが、オーソン・ウェルズの1984との差別化です。
生暖かい目で優しく見てあげてくださいませ。
1984年6月13日 東京都大田区羽田 東京国際空港 国際線ターミナル
「どうして、こうなったあああ! シェケナベイベー!」
テレビのニュースを見ていた老人は
「相変わらずだなあ、この人は」と笑っていた。
「おーい、乾。何、テレビなんか見てんだ。そろそろ、搭乗時刻だぞ。みんな、先に行ったぞ」
「ああ、樫出。今、行くよ。ちょっと、番組に知った顔が居たんで見てたんだ」
「ん? おっ! 来島さんじゃないか。懐かしいね。まだ、生きてたんだ。結構な歳だろう?」
「ああ、100歳だってよ。100歳になるのに我が国の首相様に、襲い掛かってるよ」
「あああ、外国の人も見てるだろうになあ。困ったもんだ」
「まあ、世界に冠たる来島財閥の元総帥が、次男の日本国首相に襲い掛かり、それを現総帥の長男が冷ややかに見つめる。シュールだねえ!」
「まあ、外国の人から見たら、そっくりさん使ったバラエティー番組だと思うんじゃないか。それより、行くぞ。篠原さんと加藤さんは時間にうるさいからな」
「あれ? 大多賀とまっつは?」
「あいつらなら、俺が声かけた時にとっとと行ったよ」
「あいつら、隊長を直ぐに見捨てやがるからなあ」
「まあ、見捨てても大丈夫だと思うから置いてくんだよ」
我々は、これからパプアニューギニアのウエワクへと6時間半掛けて飛ぶことになる。
パプアニューギニアの首都のヌンバイは、人口50万人であり定期便が東京国際空港と毎日飛んでいるが、ウエワクには週3回飛んでいるだけだ。
1950年代以来、日本の宇宙開発は大隅半島と種子島で行われてきたが、1960年に宇宙開発が大規模化した結果、その運用面で難しい問題面がでてきた。これまで運用されてきた九州南端の発射地ではスケール的・社会的に今後の需要を満たせないことが明らかになったのだ。種子島に至っては、漁業権の問題で発射時期が制約される始末だった。
現状のままでは、宇宙開発機構 UKKの今後のプロジェクトである軌道実験施設計画を実施する過程で、困難な事態が発生するとことは確実だった。
UKKは、必死になって代替地を探し求めた。だが、日本国内でロケット発射に向いた大規模な土地が、そう簡単に見つかることは無かった。
UKKが、目を付けたのは、戦後の占領地からの撤退の際に、インドネシアとは別に独立させたパプアニューギニアだった。オーストラリアは、更地と化したポートモレスビーを放棄し、オーストラリア産の鉱物資源及び食糧品の日本への輸出を条件にパプアニューギニアを放棄していた。未開の地よりも輸出産業の方が実入りが大きいのはあきらかである。オーストラリアを走っている車は、今や殆どが日本製だった。同じ右ハンドル、左側通行、なにより距離の関係で日本車がシェアを占める事になる。
日本軍は、生物分布境界線であるウォレス線より東をインドネシアとは別に独立させ、その人口と経済規模の小ささから保護国化した。1951年までには、全占領地から撤退した日本軍であったが、ニューギニアには派遣軍を置いていた。勿論、安保条約を結んだ上で。インドネシアや旧宗主国のオランダが騒いだが、「Go ahead, make my day」といい黙らせた。
戦中にニューギニア最大の航空基地が置かれたウエワクは、赤道から南に約300kmと南緯3度33分と低緯度にあり、静止軌道に載せる静止衛星の打ち上げには適した位置にある。地表の移動速度を単純比較すると北緯30度の種子島では時速約1500km、赤道直下と言える低緯度のウエワクでは時速約1700kmと、時速約200kmの差が出る計算であった。また、東と北が海であり落下物で人家等に危害が加わることは無く安全と判断された。そして、人口が少なく漁業や航空機と干渉しないという、これ以上の条件は無いという優良物件だった。
日本は、ウエワクにケープ・カナベラルに負けない宇宙基地を大金を投じて作り上げた。
乾達は、1957年に空軍籍のまま、第1期の宇宙パイロットとしてUKKに招かれた。
1947年の講和条約締結により、大幅な軍備縮小が行われた。軍備縮小ではあったが、新たに空軍が設置された。陸軍、海軍、空軍とそれを総括する国防総省が新しく出来た。
軍備縮小に伴い、徴収兵は帰還することになったが、軍備縮小に伴い将校も減らされることになった。
空軍省長官には、陸軍の遠藤三郎が就任。下馬評に上がっていた陸軍の菅原道大、海軍の大西瀧治郎、井上成美は予備役となった。菅原道大は、定年の65歳が近いこととされたが、大西、井上共に空軍の長とするには問題があると判断された。
50代、60代だけではなく、40代の将校の人事にも大ナタが振るわれた。
この時、陸軍においても、辻正信、瀬島隆三が予備役へ。海軍では、源田実が予備役編入されている。
吉田茂の軍事ブレーンとなっていた堀栄三が、情報を集め大友公平達と分析した結果であった。堀栄三は、後に陸軍省長官から国防総省長官まで務めた。情報を重んじ、俗にJCIAと呼ばれる情報組織を立ち上げてもいる。
吉田茂は、これからの日本の軍事は攻めるのではなく守りでいいとし、そのためにも情報、そして兵站を重視した。大友公平は、陸軍省主計局から引き抜かれ、衆議院議員として来島義男の腹心として活躍している。その後、田中内閣が1975年1期で終えると内閣総理大臣となり、1983年に来島義宗に引き継ぐまで日本の繁栄に務めた。
1975年の総裁選挙には、海軍主計大尉だった中〇根に勝利しており、この時の選挙は陸海軍主計対決と言われた。
1977年9月ダッカ日航機ハイジャック事件では、陸軍特殊部隊の「オメガ」を派遣し、ハイジャック犯全てを射殺する強引な手段で解決している。乗員乗客は、負傷程度であったが野党やマスコミは人命の軽視であると騒ぎ立てた。それに対して、当時の官房長官、来島義宗は「日本並びに日本の主権が及ぶ日本機に対するテロは一切妥協しない。代償は死のみであると覚悟せよ」と記者会見で述べ、国会答弁でも「日本人の命の重さは地球と同じだ!」と叫び特殊部隊の存在に対しても、税金の無駄と騒ぐ野党に対し「先の大戦でもたくさんの人間が死んだ。そのような事が二度と無いように抑止力が必要だ」と一蹴している。
1976年6月エンテベ空港ハイジャック事件。1977年10月ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件。この3件のハイジャック事件に対する武力解決により、日本、ドイツ、イスラエルの航空便をハイジャックすることは自殺行為と世界中の犯罪者、テロリストに言われることになる。
辻正信、源田実も衆議院議員になったが、二人ともにアクの強さから重職に就くことはことは無く、1951年に国共内戦を勝利した中華人民共和国が、満州との紛争を起こした際に満州に渡っている。
この時、満州に渡る辻の乗っていた旅客機を、対馬海峡上空で追尾する黒い機体が目撃されているが、正体は定かでない。
アマチュア無線の愛好家達が、
「バカな事は止めるんだっ! 〇〇〇少佐」
「辻は、オレにやらせろっ! 今、見逃せばもう機会が無い!」
と、いう交信を聞いたという噂が流れたが、噂以上にはならなかった。
日本空軍の公式見解でも、その当時に対馬海峡上空を飛行していた機体は無いと断言している。
国共内戦が、続いていた1950年代に宇宙パイロットとして、若い最前線のパイロットを出し渋る空軍に対して、UKKは既に最前線から引退した教官クラスでもいいという条件で空軍に再度依頼した。これに、世界一の撃墜王「テーチャー」こと篠原が、乾達を誘って(いつも通りに、半ば強引に)応募した。
UKKは、諸手を挙げて歓迎し、空軍も伝説達にもう一花咲かせてやろうと送り出した。
1961年4月 人類初の有人宇宙飛行として希望1号に乗った篠原大佐は、地球を一周し地球に帰還。帰還した際に言った「地球は、青かった」と言う言葉は有名である。
1961年8月 人類二度目の有人宇宙飛行として希望2号に乗った加藤大佐は、地球を予定通り3週し地球に帰還。帰還した際に言った「ふう、やっぱり地球の重力はきついぜ」と言う言葉も有名である。
その後、乾、樫出、上坊、大多賀、松井も地球の周回飛行を重ね、1964年からは軌道実験施設計画を開始し、静止軌道上に資材を運び、宇宙ステーション「富岳」を完成させ、そこから無人月探査機や火星探査機を発進させている。米国が、有人月探査に熱を上げている頃、日本は地道に軌道上での実験を繰り返し膨大な科学データを集積した。
米国が、月から持ち帰ったのはただの石ころだが、日本は静止軌道から膨大な科学データを持ち帰った。宇宙ステーションは、「富岳」から「イーハトーヴ」と代替わりしたが、日本の地に足を付けた宇宙開発は続いていた。
1970年には、一番若い上坊も55歳となり、宇宙飛行士を引退することになった。7人は、空軍名誉大将となり、予備役へと編入された。
彼ら第1世代の宇宙飛行士達7人は、尊敬を込めて「ウルトラ7」と呼ばれた。
宇宙往還機、この機体は合衆国のスペースシャトルとは、全く性質の違う宇宙船だった。
経済性を念頭において計画されたにもかかわらず、合衆国のスペースシャトルはロケット並みの運営経費を必要とするものだった。飛行の度に使い捨てにされる部分が多すぎたからだ。また、再使用する機材も飛行の度に徹底的な検査が行われたが、それら検査にかかる費用は巨額なものとなった。
これに対し、宇宙往還機は、機体の完全再使用を目標としていた。彼女はスラッシュ(かき氷)のようになるまで冷やされた水素を推進剤として、滑走路から通常の飛行機の様に離陸し、マッハ25で大気圏外へ駆け上がることを目指していた。
もちろん、地球への帰還、着陸も独力で可能。4,000メートル級の滑走路さえあるなら、どんな空港からも離発着できる。
要するに宇宙往還機とは、通常の旅客機・輸送機と同じ感覚での軌道飛行が可能な、全く新しい世代の輸送システムなのだった。言うまでも無いことだが、軍事用にも使用可能できる。この機体は、積載されるパッケージと通信システムを変更するだけで、宇宙戦闘・爆撃機にも変身する。
宇宙往還機は、宇宙港にある全長6,000メートルの超電導発射システム、マスコミの言う電磁カタパルトの始点で待機している。宇宙往還機は、自力で離陸できることが建て前だが、燃料を使わずに初期加速できるに越したことはないと考えられたのだ。
電磁カタパルトのために、ヌンバイとウエワクの間には反応炉が4基作られていた。
巨大な映画館の様な超巨大ディスプレイが設置された宇宙港の中央管制センターでは、見物客の公的代表団と操縦士達の親族達が招待されていた。
広報担当官が、宇宙往還機に対しての長い説明が最終段階に入り、UKKが人々にアピールしたがっている殺し文句を始めた。
「以上のようなマン・マシン・ファクターを結実させ、今日、宇宙往還機は旅立つ訳です。ちょっとキザなセリフで言わせてもらえば……日本の未来の夢を乗せて離界するのです!」
「夢? 一体どんな夢なの? アメリカの代わりにSDI計画を進めるためなのに!」
反論の主は、30代らしい、美人だが余裕の無い顔をした女性だった。
「SDI?」
広報担当官は、不思議そうな顔をした。
「とぼけないで! あなたたちの企みはわかってるんだから!」
「どういうことでしょうか?」
「あなた達は、宇宙に軍人を送ろうとしている。彼らは、人殺しよ! 機長は、戦争で10人以上も殺しているわ! 我々、善良な市民にとって看過出来ません!」
壁際に陣取っていた老人達が、そのやり取りを揶揄するように
「何だい? あれは」
「ああ、あれは最近テレビで良く見る政治評論家じゃないか? 今度の選挙で野党から出るみたいだぜ」
「元キャンペーンガールの元祖女子大生タレントか」
「ああいう手合いは、必ず「我々は」っていうね。自分だけの意見なのに」
「国民を代表しているっていう自分に酔いたいのさ」
女性評論家は、肩を震わせながら振りむき
「キっ! 何ですか? 貴方たちは! さっきから全部聞こえてますわよ! 悪口なら、小声で言ったらどうですか?」
「ああ、悪い。悪い。年寄りは、耳が遠くて大きい声で言わないと聞こえないもんでね」
「ロケットの爆音で難聴になったって言ってなかったか?」
会話のやり取りを受けて、老人たちは大笑いを始めた。
「ふざけないでください! 警備員、あのふざけた老人たちを連れ出しなさい!」
女性評論家は、ヒステリックに叫んだ。
その時、落ち着いた声が響いた。
「お嬢さん」
とりたてて特徴のある声ではなかった。この声の底には明確な何か、他者に自分の意思を伝え、それを確実に実行した者だけが持つ力が存在していた。
「?」
お嬢さんと呼びかけられた女性は、眉を吊り上げたまま、声のした方向を振り向いた。
口を開いたのは、老人達のグループの端に座っていた老人であった。
背は高くないが、がっしりした体格の持ち主だ。他の老人達と同様にアロハとサングラス姿で、誰か関係者の親族と思われた。
「少し落ち着かれてはどうかな? あなたが、ここで何を叫ぼうと、あれはもうすぐ飛び上がってしまうのだからね」
「私は、主張すべきことを主張してー」
「それは大変結構! だが、ここは政治討論を行う場所では無い。あなたが今なすべきことは、より正確な意見を述べる為に、この打ち上げの一部始終を見届けることではないかね? お願いだから今は口を閉じ、腰を降ろしなさい」
言葉は穏やかだったが、それは紛れもない命令だった。
凍り付いたような顔になって女性は黙り込み、周囲から痛いほどの視線を浴びているのを自覚した。
唇をきつく結んだ彼女は、男の方に視線を向けた。
彼は、サングラスを外して隠れていた表情をあらわした。その視線は、獲物を狙う野獣の様に鋭かった。そして、その顔は日本人なら誰でも知っている英雄の顔だった。
「えっ? テーチャー? 篠原大佐……」
老人達は、次々にサングラスを外した。
周りからは、アドミラル・ガトーだ。ドラゴンスレイヤー、坊や上坊などの声が聞こえる。
「左目の向こう傷、巨漢の男、そして…… えっ、黒い三連星? ウルトラ7?」
「M78星雲の方じゃないけどね。さあ、腰を降ろしてくれないか」
唇をきつく結んだ彼女は、何度か彼らに視線を向けたが、彼らから発散されている空気、経験によって形作られた人格的迫力を浴びせられ、何も言わぬまま肩を落とし、席に腰を降ろした。
この間、事態の傍観者となっていた広報担当官は、篠原の視線を感じて、職務を思い出したのか、口を開いた。内心の動揺を隠すためだろう、不必要なほどに明るい口調だ。
「それでは発進。あっ、我々は往還機の場合、発射と言いません。発進まであと30分となりましたので、ご希望の方を屋上の観覧席まで御案内したいと思います。もちろん、こちらで見学なさっても結構です」
そう言われても、最初は誰もが決めかねている様子だったが、
「では、お願いします」
と、先程の老人達が立ち上がると、それにつられて大多数の人々が立ち上がった。女性評論家は座り込んだままだ。
広報担当官は、屋上へ希望者を引率した。
屋上に向かう途中で、彼は、先ほど事態を丸く収めてくれた老人の横に並んだ。そして、小さな緊張した口調で感謝の言葉を伝えた。
「ありがとうございました。閣下」
現在は矢のように飛び去り、未来はためらいながら近づき、過去はただそこに佇んでいる。
「俺たちの未来が、ためらいながら出て来たぜ」
「俺たちのヤ〇トか?」
「いやいや、俺たちの銀河鉄道9〇9だろ。イーハトーヴに行くんだから」
「いや、あれは機械の星に行くんだろう?」
「いや、やっぱりホワイトベースじゃないのか」
「「「いやいや、あれはザンジバルだろ」」」
老人たちの年齢不相応のアニメ談義の中、宇宙往還機は姿を現した。
それは、優美とは言えない機体だった。三菱であれば優雅な機体に仕上げたかも知れないが、九州飛行機が作ったそれは、A10から始まる九州飛行機のロケットの進化そのものであった。奇を狙うことなく、既存の技術でまとめ上げる。そのような機体は、巨大な三角形のおにぎりのようでもあり、スペースシャトルが華奢に見えるほどに太い胴体であった。
「おっ、機体には黒い星が三つ。親父と同じ黒い三連星だな」
宇宙往還機には、乾の末の子が機長として乗り込んでいた。
「ジェット世代のダブルエースか。もう少しで親父の撃墜マークの星の数を越えれたのになあ」
乾は、軽い笑いを浮かべた。なぜならば、息子達の世代が征く途を照らす天の光は、無数の星で出来ているのだから。
架空の航空機メーカーを題材といいながら、最後の最後に九州飛行機をちょろっとだけ……
そうです。時間が無かったんです!勘弁してください。
加筆しても、宇宙往還機については浅いままです……
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