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番外編 トルストの歌姫

うわぁ! 500万PV突破!

ありがとうございます!!

完結後も読みに来てくださるのは、有難くって、言葉にできないほど嬉しいです!!

お礼に、番外編を追加いたします。

アデレードはベッドから半身を起こすと、サイドテーブルのベルを鳴らした。


すぐにとんできたのはミュゼイラだ。

「アデレード様、朝食は食べれそうですか?」

「いつもと同じで大丈夫よ」

アデレードが笑えば、ミュゼイラは安心したように食事の用意をする。


アデレードはベットの上に手を這わして、朝まで自分を抱きしめていた人の温もりが消えていることに少し寂しく思う。アデレードが起きないように、朝早く執務室に向かったのだろう。


「アデレード様、今日は今年最初のクランベリーが届きましたので、料理長がジュースにしてくれました」

悪阻で食欲が落ちているアデレードに、少しでも栄養を取れるように皆が工夫しているのだ。

結婚3年目で初めての授かった御子に、喜びとともに、一抹の不安が付き纏うからでもある。

アデレードは成長期に栄養が足りなかった、臓器が充分に成長してない可能性がある。妊娠を続けることができないかもしれない。


アデレードは命と引き換えにしても子供を産みたい。

ダリルや周りは、子供よりもアデレードを優先したい。

これが政略結婚ならば反対であろうし、産まないなど許されない。

妊娠が順調ならば、誰もそんなことを考えなかったが、アデレードの悪阻は特に酷いものだった。食べては吐くの繰り返しで、体重が大きく落ちたが、悪阻が軽くなり最近は食べれるようになっていた。


今日はユリシアと、王都の劇場に行くことになっている。

今話題の歌姫の公演なのである。

聞く人の心を揺さぶる歌声が、大きな話題となっていた。

ユリシアとアデレードは、ショーンに連れられて変装して聴きに行ったことがある。

それは、街の小さな芝居小屋だった。

ショーンが敗戦国トルストの処理をしている時に、彼女を見つけたのだときいた。サンベール公爵家としてではなく、ショーン個人で支援しているのが、ユリシアには気に入らない。


人気はあっという間に、彼女を王都一の大劇場の舞台に押し上げた。チケットは貴族でも簡単には手に入らない。

今日は、ショーンが、ユリシアとアデレードの気分転換の為にチケットを用意したのだ。



カサブランカ、そう名乗る女性の本名をショーンは知っている。トルストでの学生時代、仲の良かった先輩の奥方だ。

その先輩は、トルストとバーランの戦に従軍し戦死した。残された彼女は生まれたばかりの幼子と二人、婚家に残された。そして敗戦、続くクーデターでトルストは無くなり、子供を連れ、着の身着のままで国を逃げ出して、ショーンを訪ねて来たのだ。


『先輩は、彼女の歌が好きだと言ってた。 でも、今の彼女の歌は哀しい』

ショーンに説明を受けたユリシアは複雑であった。

カサブランカに同情はする、戦争の犠牲者だ。幼子を連れて苦労しているのだろう。

だけど、夫を頼られるのは嬉しくない。ショーンの愛情を疑うわけではないが、不安なのだ。

もし、同郷の親密さとか同情が深いものに変わったら、と。


「アデレードは、カサブランカの夫君のことは聞いたことある?」 

ユリシアは劇場のバルコニー席に着くと、アデレードにそれとなく聞いた。

トルストに居た時は、ショーンと話す機会などなかったに等しい。アデレードは静かに首を横に振る。


劇場の照明が落とされ、舞台にスポットライトがあたり、カサブランカが登場してきた。

容姿は、普通に綺麗な女性だ。体つきは小柄といえるだろう。

それが、歌いだすと圧巻になる。観客を魅了する歌声、心に響き浸み込む。

特に、バラードは感情が引きずられて涙が流れてくる。

そうなると、誰よりも美しく見えてくるから、不思議なものである。


アデレードは久しぶりの観劇で気分転換になったようだが、ユリシアは不安が大きくなっていくのを感じていた。


続きます。

明日の夜も、お楽しみください。

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