番外編 聖女という女
皆様のおかげで、400万PV突破しました!
ありがとうございます!!
御礼に番外編を付けます。
3話になりますので、楽しんでいただけますと嬉しいです。
トルスト王国が崩壊し、新しい民主政権が樹立した。世界情勢はどんどん変わっていく。
アレクザドル王国はグレッグが王太子となった。
戦争の負担は大きく、しばらくは平和な時代が続いているが、不安がなくなったわけではない。
アデレードは、巷で話題の聖女に頭を悩ませていた。
今日は、王と王太子が噂の聖女と謁見すると聞いている。
地方の教会に聖女と思われる少女が出現した。
火事を予知した。
奇病の患者を治癒した。
誘拐され行方不明の女性達の居場所を予見した。
民衆は少女に歓喜し、聖女と呼び奉った。
少女は王都に連れて来られ、その地方の領主である侯爵家に養女として引き取られた。
その少女は王都に来てからも、2件の火事を予想し、大火に至ることはなかった。
王都の救護院や孤児院への慰問をし、侯爵家の教会で人々に恩寵を与えると言ってミサを行い始めた。
その少女は教会本部の承認を受けていないが、民衆の声は大きく少女のいる教会は人の列が途切れることはなかった。
侯爵令嬢となった少女の名前は、アン・イグネシアス。
白銀の髪に薄緑の瞳の美しい少女である。
そして、人々は聖女が王太子の妃になるべきだ、と叫びだした。
聖女が妃になれば、他国が恐れて戦争を仕掛けて来ない、と噂が飛び交っていた。
イグネシアス侯爵がアンと謁見室に入り、礼を執る。
薄いシフォンの花柄のドレス、ビーズで刺繍されたサンダル。
大商人から寄進されたという大きな宝石のついたネックレス。
アンは貴族になってからマナーを教えられているが、王の前に出すには落第点の礼しか出来ない。
「教会に詔が降りました。
聖女が王家を豊かに潤すであろうと」
イグネシアス侯爵は、王と王太子の前で堂々と言い放つ。
「侯爵」
王は低い声で、侯爵を呼び捨てた。
「教会とは、どこのことを言うのだ?
そちが聖女と呼んでいるだけで、教会総本部の承認は得ていない。
貴族でさえない血統を我が王家に入れることはない」
「しかし陛下! 民意が無視出来ない程になっているのです!」
侯爵がアンの登城を公布したことで、王太子とアンの姿を見ようと王宮の外には市民がつめかけていた。
王太子ダリルがアデレードと結婚して2年経っても子供に恵まれないことが、大きな要因となっているのは間違いない。
王太子と平民から出た聖女の子供が王統を継ぐ、という夢物語が市民の中に流れている。
ダリルは聖女を見た。
頬を染め、ダリルを見つめている。
美しいかもしれないが、それだけだ。
ダリルにとってのアデレードに代わるはずもない。
結婚して2年だが、もう何年も恋い焦がれてきた相手なのだ。
アデレードは戦勝の女神と民衆の喝采を浴びたのに、次は聖女を王太子妃と望む民衆に怒りさえ感じていた。
「イグネシアス侯爵」
ダリルの瞳は厳しい。
「早々に王宮を下がられるがよかろう」
そこには、もう2度と呼ぶことはない、とさえ言っているように聞こえる。
「殿下!」
声をあげたのは聖女と呼ばれるアンである。
それを無視してダリルは、次の謁見予定者を呼ぶように側仕えに言う。
若く精悍な王太子、戦争の英雄ダリルは女性の憧れの的である。
聖女もそうなのであろう、ダリルを見つめて下がろうとしない。
ダリルも戦争に疲れた国民が、聖女を望んでいるというのは分かっている。
だが、ダリルにとって聖女はアデレードなのだ。
火事の予知など、誰かに火を付けさせれば誰でも出来る。
元々病気でない者を奇病と言えば、奇跡の治癒となる。
聖女の予見、奇跡といわれる事は、誰かが人為的に起こせる事ばかりだ。
誰かが・・・いるということだ。
「侯爵とご令嬢を門までお送りしろ」
ダリルは護衛騎士の一人に指示をすると、謁見室を出るように促す。
騎士は侯爵の前に立つと、ご案内しますと先導する。
騎士の先導を、アデレードを知っている侯爵はこの程度の女ではダメかと思い、アンは騎士様を付けてくれるなんて王太子殿下は私の事を見初めたのだわ、と思う。




