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(小話) トルスト燃える

300万PV突破しました!

読みに来て下さる皆様のおかげです。

ありがとうございます!

嬉しくって、小話を追加しました。

アデレードは生まれた地を踏んでいた。

ギリアン王太子亡き後、トルスト王国は後継者争いと敗戦の賠償。

苦難の道を歩いていた。

キリエ侯爵が病を患い、介護のかいなく亡くなったのは、そんな最中であった。


アデレードとショーンはウォルフとベイゼルに守られて、カーライル・キリエ侯爵の葬儀に参列したのだ。

「生涯をトルストの平和にかけた人だった。

義父上がいなければ、もっと早く開戦して、長い戦いになったであろう。立派な人だった」

ショーンがアデレードを慰めるように言う。

「ええ、そうね。でも子育ては不器用だったね」

クスクスとアデレードが笑う。

つられてショーンも笑顔を見せる。

「アデレードがキリエ侯爵だ。けれど今のトルストではその価値は低いだろう」


治安は悪化し、物価も不安定だ。

各地で暴動も起きている。

キリエ侯爵が亡くなった今、王家の権威も貴族の統制もまとめる者がいなくなった。

もともと腐敗した貴族が多かった、それでも国という形を維持してきた。

ダリルをやっと説得して葬儀に来たのだ。

トルスト王国は危険が大きい。王都に長居することは出来ない。


「お嬢様、ありがとうございました」

アデレードとショーンに使用人の青年が礼を言う。

この青年に見覚えはなく、アデレード達が出て行ってから雇った使用人のようだ。

「お嬢様が泊まった宿屋の食堂で助けてもらった者です。

ショーン様からの手紙を持ってキリエ侯爵が来られて、僕と母はこのお屋敷で働くことになったのです」


ショーンの頭に思い浮かぶのは、バーランに逃げる途中に泊まった宿屋の食事の時の事。

アデレードもウォルフもベイゼルも思い出したようだった。

酔っぱらった貴族が食堂で働く女性に絡んで、ウォルフが助けたのだ。

そのことをショーンはキリエ侯爵に支援の手紙を書いた。

その女性には子供がいた、その子がこの青年か。顔も覚えていないが、立派な青年になっている。


「お嬢様、すぐにトルストをお立ちください。

僕は解放軍に所属しています。今夜、我らは決起します。

大恩ある侯爵様の為にも、同志が安全な道をご案内します」

その言葉でショーンは全てを悟った。

キリエ侯爵は王家存続を諦めて、平民達の解放軍を支援していたのだろう。

「ありがとう、君達に武運があることを願うよ」


その時だ、緊張がはしり、ウォルフとベイゼルが腰の剣に手をかけたのを、ショーンが止める。

「ショーン様、扉の影に誰かいます」

ベイゼルの言葉で、男が出てきた。


男はアデレードの前に来ると片膝を突き、頭を下げた。

「僕は解放軍指導者、ジュンクといいます。

キリエ侯爵は我らに教育を与え、支援をしてくださいました。

そのご令嬢で、バーラン王太子妃であるアデレード様を、命に代えてもお守り、必ず国境までお届けします」


アデレードは葬儀の参列で黒衣だが、その美貌が損なわれるどころか闇の女神の如くだ。

「父はトルストの平和を願う人でした。

その父が、貴方達がトルストの平和に一番近いと考えたというなら、それが天意なのでしょう」

ウォルフ、ベイゼル、ショーンを従えるアデレード。

解放軍の男達の目にも戦いの女神に見えるのかもしれない。

「私に人手を割く必要はありません。私を守る者がここにいますから。

ただ、ご助言の通りにすぐにここを立ちましょう」

アデレードの言葉をショーンが引き継ぐ。

「僕はショーン・サンベール、公爵だ。新しいトルストになった時は、僕が外交を受け付けよう。

覚えていて欲しい」

「必ず」

ジュンクと青年が深い礼をする。


ショーンが御者となり、アデレードの乗せた馬車の両脇をウォルフ、ベイゼルが伴走する。

王都を抜け、馬車が止まった。

馬車から降りて後ろを振り返って見た、アデレードの瞳に炎が映る。

王都が燃えていた。


生まれ育った国が燃えている。

アデレードの頬を涙が一筋流れる。

捨てた国だった、でも今だけは悲しまさせて。


ショーンもウォルフもベイゼルも何も言わず、遠くの炎を見ている。

これは新しく生まれ変わる為の炎。

「アデレード様、参りましょう。すぐに混乱が大きくなります。

その前に国境を越えたい。夜通し駆けます」

ウォルフに急かされて、アデレードは馬車に戻った。

闇夜を照らす炎が、人々を救う炎であることを願って。



とうとうトルストが無くなってしまいました。

もし、ギリアンが最初からアデレードを大事にしていたら。

もし、婚約解消しなかったら。

アデレードもショーンも出来ることをしただけのこと。

ギリアンもそうだったはず。


最後までお読みくださりありがとうございました。

violet

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― 新着の感想 ―
[良い点] あのときの子供が…!! キリエ侯爵の死因は心労だったと思うけど、二人のこどもたちが葬儀に参列出来てよかった…。 [一言] 二人には感慨深いことでしょうね…この後すぐに平和になるとも思えませ…
[一言]  暗いものの暗すぎず、良かったです。  続きがあるのか、作者様のページを見てみよう。
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