バーラン王国の幸せな1日
最終話になります。
最後まで書くことができたのも、皆様のおかげです。
ありがとうございます。
大聖堂の鐘が街中に鳴り響き、ダリルとアデレードの結婚式が行われた。
結婚式の後のパレードを見ようと、大勢の国民が街道を埋め尽くしていた。
戦争の英雄であるダリル王太子と、終結を導いた女神と言われるアデレードの姿を一目見ようと集まっているのだ。
ウェディングドレスに身を包むアデレードは、女の子なら誰もが憧れる美しい花嫁であった。
アデレードは気がつかなかったが、大聖堂の大勢の招待客の中にキリエ侯爵の姿があった。
ショーンがこっそり招待したのだ。
ショーンは身重のユリシアを気遣いながら、妹の姿に感動していた。
「ショーン、泣いてもいいのよ。」
ユリシアにからかわれる程である。
子供が生まれたら、サンベール公爵位をショーンが引き継ぐことになっている。
ダリルは、軍服で正装である。
アデレードはひたすら、カッコいいを頭の中で繰り返している。
大聖堂で姿を見た時から、アデレードの頭の中はダリルでいっぱいである。
美しい花嫁の残念な思考は、誰にも悟られる事なく、無事に式が終わった。
ダリルと一緒に馬車に乗り、王宮までのパレードが始まる。
4頭立ての屋根のない豪華な馬車は、式服の護衛に守られて進む。
通りは、国民で埋め尽くされ、歓声が沸き上がる。
自分でも波乱の人生だと思うアデレードは、これで普通の女の子になれると思っている。
王太子妃が普通かと言われると、決してそうではないが。
沿道の人々に手を振りながら、満面の笑顔のアデレード。
この顔には、笑顔が似合うとダリルは思う。
初めて会った時からは、想像できないほど美しくなった。
義母がいなければ、今頃はトルストの王太子妃であったかもしれない。
自分の横には、前の婚約者がいたのかもしれない。
アデレードと結婚するためには、自分の婚約を解消する必要があった。
冷たい態度で接していると、慰めてくれる人間が欲しかったのだろう。
警護の兵士と恋仲になり、現場を押さえた。
あれは上手くいった、簡単な女だったなと思い出す。
隣でアデレードが何か言っても、歓声で消されてしまう。
アデレードは、戦争を終結させた姫君と名を馳せた。
アデレードが普通の生活と願っても、他国の招待が相次いでいる。
今までとは違い、国賓となる。
きっと抜け出すのに苦労するだろう、と思うと笑えてくる。
まずは、アレクザドルだ。
密かに、オットーとマックスによる友好条約締結の為、休戦調停の準備会合が始まっている。
トルストから得た鉱山の開発が順調だから、それを引き合いにして、と考えてダリルは横を見た。
「ダリル、ダリル。」
アデレードが呼んでいたようだ。
「どうした?」
お互いの声は歓声にかき消される。
それでも、見つめ合うだけで十分だ。
アデレードの生きるという強い意志が、周りを引き寄せた。
弱い子供だったが、決して心は負けなかった。
アデレードの強い瞳は、命の輝きだったのかもしれない。
結婚したからといって全てが終わったわけではなく、問題は山積みである。
けれど、アデレードは存在場所を勝ち取った。
王太子妃という確かな地位。
痩せ衰えた子供は、美しい女性になり、昔の面影はない。
美しい姿に人々は騙される。
アデレードとダリルが、王宮のテラスに姿を見せると、怒涛のような歓声があがる。
地面が、揺れているような錯覚を感じる。
アデレードは、嬉しそうに手を振る。
今なら何でも出来そうだ、と恐ろしい事を考えるアデレードである。
美しい王太子妃の姿に、人々は夢を見る。
明日への希望も、平和な毎日も信じる事ができる1日であった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
感想や評価など、とても励みになりました。
読みに来てくださる人がいることで、最後まで続けられました。感謝でいっぱいです。
また、お会い出来ることを願って…
5/10~7/26 全70話
violet




