新しい道
バーランに戻ったアデレードを待っていたのは説教である。
ダリルは王太子という立場であり、戦争の当事者である。
休戦の立役者のアデレードと違い、敵国に簡単に入れるわけもない。アデレードが国を出てしまうと追いかける事は難しい。
ベイゼルからの連絡は受けていたが、安心する要素など何もなかった。
ベイゼルからの連絡が途絶えたら、休戦破棄で攻め入るつもりでいた。
「グレッグ王太子が理性的であったから、帰ってこれたのだ。
もしかしたら、監禁されていたのかもしれないのだぞ。」
ダリルの言葉に、ちゃんと逃げる準備を、と言いかけたアデレードが口を閉じる。
反論するより、おとなしく聞いていた方が得策と思ったらしい。
心配させたのは悪かったと思っている。
相談もせずに出発した自分に問題があるのもわかっている。結婚して王太子妃になる前でないと出来ないと思ったのだ。
「アデレード?」
「心配させてごめんなさい。怒ってくれてありがとう。」
そう言われると、ダリルも苦笑いするしかない。
「父上と母上にも謝るのだぞ。」
とても心配していたから、と付け加える。
「それから。」
ダリルが、アデレードを抱きしめる。
「無事でよかった。」
「うん。」
アデレードがダリルの肩に頭をあずける。
ダリルといると帰ってきた、と実感する。
「アデレードが帰って来たと聞いて執務を抜け出してきたから、戻らないといけない。」
ダリルが、アデレードの頬にキスをして離れる。
「ショーンから報告があった。
来年、子供が生まれるそうだ。」
サンベール公爵家ではすでに準備に入っているらしいぞ、とダリルが笑いながら言う。
「じゃ、直ぐにお祝いに」
アデレードの言葉をダリルが遮る。
「行けるはずなかろう。皆に心配かけて、しばらくは謹慎と決めてある。
ショーンもユリシアも納得している。」
ダリルの衝撃的な言葉に、アデレードは立ち尽くす。
まさか、この大事に外出できないなどと、思いもしなかった。
アデレードを閉じ込めたのは、アレクザドルではなく、バーランであった。しかも、自業自得である。
「ウォルフやミュゼイラ達を頼ろうとしてもムダだ。」
ダリルは念を押して部屋から出て行く。
今回は仕方ない、とアデレードも諦める。
謹慎が解けたら、サンベール公爵邸にお祝いに行こう。その間にお祝いを作ろう、と思い立ち裁縫箱を持ってきた。
執務室に戻ったダリルは、事務官に指示をする。
「アレクザドルとの友好条約案を作成する。
調印相手は、王ではなく、グレッグ王太子だ。」
武官の中から使者に同行する者を選抜させよう、と思案を始める。
アデレードは、アレクザドルに穴を開けてきた。
和平を願うアデレードは、戦争を避けようと奔走した父、カーライルと同じ道を歩んでいる。
「キリエ侯爵の方が理性的であるな。」
ダリルは、思い出したように苦笑いする。
親子だ、こんなところが似るとは本人達が意図せずとも、受け継ぐものがあるのだな、と思う。
自室に引きこもったアデレードは、ベビードレスを作っていた。
最初の1着が会心のできだったものだから、何着も作りはじめ、夢中になっていた。
いつか、自分も子供ができるだろうか、無事に産めるだろうか。
普通に育てられるだろうか。
愛情をかけられるだろうか、と不安になる。
成長期のアデレードに足りなかったのは栄養だけではない。それでも、ショーンやミュゼイラ、アリステア達から愛情を与えられた。
そして不安に思うのを止める。
なるようにしかならないのだ。もし、子供に恵まれたら、一緒に頑張ろう。
謹慎が解けたアデレードは、ユリシアにたくさんのお祝いの言葉とプレゼントを渡し、アデレードもユリシアも幸せな時間を過ごした。




