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アレクザドルの孤児院

アレクザドルの国境を越え、王都からは遠いが、リゾン地方の街に着いたアデレードは早速孤児院を訪問した。


そこは、子供達が敷地内で野菜を育て、食糧は困っていなかったが、他の物資は不足していた。

ミュゼイラ達を連れ、アデレードはシスターに挨拶をする。


敗戦になった訳ではないが、万の数の死傷者を出しての休戦だ。国民の不満も疲れもたまっていた。


アデレードは特別な事はしない、裕福な街娘として孤児院に奉仕に来たのだ。

街やアレクザドルの情報は、ベイゼルやディランが集めるだろう。

自分で見て、和平の道を考えようとしたのだ。根性だけはあるアデレードである。

この容姿で不屈の根性があることに他人は気がつかない。


孤児院でも、調理を手伝うのは初めてのことで、慣れない手つきで危なげだったが、最後までねをあげることなくやりとげた。

だが、2日もするとアデレードの容姿は目立ち過ぎた。手縫いの質素なドレスがさらにアンバランスである。潜んではいても第2部隊の兵が街に入り込むには数が多すぎた。




「リゾンで?」

グレッグは報告を受け、手を止めて途中の書類を横におき、詳細を聞く。

報告に来たのは、リゾンを領地とするプルート伯爵である。グレッグは休戦後、大規模な構造改革を行い、自身の国内統制力を強めていた。プルート伯爵もグレッグの側近の一人である。


「はい、美しい娘が孤児院の奉仕に来たのです。侍女2人と共に。

その頃から、街に若い男が増え、孤児院の警護をしているようなのです。」

ふむ、と自国の貴族を思い出しても数が多すぎることもあるが、地方の孤児院に奉仕するような殊勝な娘がいるようには聞いていない。

他国の間者かもしれない、それにしては目立ち過ぎる。とにかく興味がわいた。


「すぐに行こう。」

立ち上がるグレッグを弟のオットーが止める。

「兄上、無謀な。危険すぎます。」

ハニートラップかもしれません、とさえ言い始める。

「バカか、それで倒れたら、その程度だということだ。

力だけではない、運も味方につけた者が勝つのだ。」

「兄上!」

オットーはそれでも引き下がらない。

「調査に兵を向かわせればいいと分かっている。王太子という自分の責任も。

だが、気になるのだ。」



「では、僕もお連れください。盾にぐらいにはなります。」

リゾンには半日も駆ければ着くでしょう、とオットーも書類を片づけ始めた。

そして、グレッグとオットーは、数名の腹心の部下だけを連れてリゾンに向かった。


バーランもアレクザドル王宮に間諜をいれていたが、バーラン王宮に連絡がはいるため、街に隠れている第2部隊が知る事はなかった。


軍馬の集団を見つけた第2部隊が、孤児院の前に立ちはだかる。


ここは他国である、無用の争いは望まない。

「こちらに御用でしょうか?」

扉の前に現れたベイゼルが、丁寧に尋ねる。


「ほぉ、礼儀を知っているとみた。私を知っているか?」

そう問われて、ベイゼルは顔をあげ、馬上のグレッグを見る。


深く膝をおり礼を取る様子に、グレッグは警戒を解く。

「何ゆえに、この孤児院を警護している?」


「和平を願う我が主が、実状を見る為に来ているからです。」

そういうベイゼルの態度は、グレッグが王太子とわかっていてもひるむ事はない。


グレッグも、これほどの男が主と言う人物、と考えた時に、美しい女が奉仕に来ているとのプルート伯爵の言葉を思い出す。

「アデレード姫か。」

そう言った時には、馬を降り走っていた。


「お待ちください。」

ベイゼルが前に立ちはだかる。

「どけ!」

グレッグの強い言葉にも、決しておれないベイゼル。

オットーが刀の柄に手をかけ、今にも抜かんとばかりにベイゼルを睨みつけている。


「我が主は、逃げも隠れもしません。

ご案内いたしますので、お待ちください。」

ベイゼルの言葉の間に、孤児院の扉が内側から開いた。

門の騒ぎに気付いたアデレードが、ディランに様子を見に来させたのだ。


「トリニティ事務官、こちらはアレクザドル王太子グレッグ殿下とオットー殿下である。

中にご案内するから、先に戻り伝えてくれ。」

飛び上がらんばかりに驚くディランに、早く戻れとベイゼルが言う。


「お前の気骨は気に入った。名は?」

ニヤリとグレッグが問う。

「ベイゼル・モルディアと申します。」

では、こちらにと、ベイゼルはグレッグ、オットーを門の中に案内した。


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