子供達
アデレードとユリシアは、二人でこっそりロビンを見に来ていた。
「ショーンの弟は私の弟よ。」
「お義姉様、それは私の言葉ですの。」
内密に来ても目立つ二人である。しかも二人には護衛が付いている。
物陰から、庭で遊ぶ姿を見る。
大きな老犬が、二人に気づいたようだが、ロビンの側を離れない。
子供のいないベルンスト家では、拾ってきた犬を飼っていた。その犬も老犬になっているが、大事にされているようである。
ベルンスト夫人が、庭にテーブルを出し、焼きたてのケーキを皿に盛っている。
ロビンが喜声をあげて駆け寄ると、夫人が嬉しそうに笑っている。
自分達が目立つと自覚しているので、長居は出来ない。それでも、ロビンの姿に満足した二人は戻り始める。
帰りの馬車の中で、ユリシアがアデレードを見ている。
「どうしたの?」
「ロビン、可愛かった。」
アデレードに答えるように、ユリシアがそうね、と言う。
「この戦争で、ロビンのように小さな子供が、戦争孤児になっている。」
孤児院で世話をしてもらっている子供ばかりではないだろう。
「戦争のない世界が欲しい。
大事な人が戦場に行かないように。子供から親を取り上げないように。」
「何か考えがあるの?」
ユリシアが尋ねる。
アデレードは首を横に振りながら、
「戦争をなくす方法が欲しいぐらいだわ。」
まったくだわ、とユリシアが座席に深く腰掛ける。
それから、可愛いロビンの話が城に着くまで続いた。
結婚式まで、3ヶ月になり、ダリルの傷も癒えマックスも回復して、準備におわれていた。
護衛が、ダリルの執務室に駆けてきた。
「アデレード姫が見当たりません。」
その言葉に室内がどよめくが、ダリルは平然としていた。
「孤児院に慰問に行くと聞いている。」
アデレードが、自分のドレスを再生しているのは知っている。華美な装飾を取り去り、質素なドレスに仕立て直していた。
「王都の孤児院にはいらっしゃいません。」
護衛がダリルの言葉を否定する。
「モルディア副隊長とトリニティ事務官のみを連れて、王都を出られました。」
我々の馬では、追いつけませんでした、と護衛が言いつのる。
王都の孤児院前で、護衛が馬のスピードを弛めたところを、駆け抜けたのだろう。
アデレード、いったいどこへ。
ダリルは直ぐに事情を知っているだろうウォルフを呼んだ。
ベイゼル・モルディアとディラン・トリニティを連れて行っていることだけが安心材料だ。
すぐにウォルフはやって来た。
「お呼びがあると思ってました。」
それは、アデレードの行動を知っているという事だ。
「随分、お前達は信頼されているのだな。」
ダリルは、自分には秘密にされていた事が忌々しい。
「殿下は必ず反対されると、姫様は申されてました。」
「当然だ。それでどこに行った?」
「アレクザドルです。」
ウォルフの言葉に、ダリルが立ちあがる。
「アレクザドルの孤児院です。」
ウォルフは再度、ダリルに告げた。
「アデレードの言っていた孤児院は、王都ではなく、アレクザドルだったのか。」
ガタン、とダリルは椅子に座り直すと、ウォルフに詳しく話せ、と顔を向けた。
「姫様はアレクザドルとの休戦に納得されておりません。終戦を望んでおられます。
それと同時に、戦争孤児の子供達が気になっておられるようです。
それは、バーランよりもトルスト、アレクザドルの方が深刻であろうと。
自分の目で現実を見たいと言われました。」
ふー、とダリルは椅子の背に身体をあずける。
「反対したが押し切られた、ということか。」
ダリルの言葉に、ウォルフは目を閉じ同意する。
だが、アレクザドルにはグレッグ・アレクザドルがいる。
もし、アデレードがいるとわかれば、どんな事をしてくるか。
ダリルの心理を読んだかのようにウォルフが答えた。
「姫には内密で第2部隊を密かに付けております。
ミュゼイラとアリステアが先に行って準備もしています。」
今から追いかけても、止める事はできまい。
ダリルは深い溜息とともに、執務官にマックスを呼ぶように告げた。




