ジェリーが繋ぐ関係
ジェリーはサザランド商会を出た後、行方不明になることはなかった。
ダリルの部下が見張っていたからだ。もちろん、助けも手出しもしない。
ジェリーは、いくらかの金を持って出たようだが、贅沢に慣れてしまったジェリーには幾日も持たなかった。
王都から少し離れた街の宿に泊まった時には、ロビンを連れていなかった。
途中の修道院に置いてきたからだ。
安宿の部屋で、遺体となってジェリーは発見された。
昨夜連れ込んだ男に殺されたのだろう、と言われたが、男はすでに逃げており、誰かもわからない男を捕まえる事は難しいだろう。
「これが、君の望みだったのかい?」
ダリルがアデレードに報告書を渡す。
アデレードは小さな種を撒いて、放置したのだ。
バーラン王宮の静かな部屋には、穏やかな光が差し込んで、窓からは小鳥のさえずりが聞こえる。
「正しい答えなどないわ。許せなかった、それだけよ。」
ジェリーが幸せに暮らしている事も、ジェリーを保護したスミスも。
私の苦しみを知らない、なかった事のように暮らしている。
人の罪を許すのが人だというのならば、人でなくていい。
「君はまた重荷を背負ってしまったのだね。おいで。」
そう言ってダリルは、アデレードを引寄せる。
強い瞳のアデレードは涙を流さずに、心の中で泣いていると知っているから。
ショーン・サンベールは、トルスト王国の王都には頻繁に来ている。
新しく領土となった鉱山の開発のこともあるが、捕虜となった兵士達の引渡しの調整など、代理大使と共にトルスト側と会議する為である。それも決着がつき、もう訪れる事は少なくなるだろう。
数人の警護と共に街を視察するのがショーンの仕事の一つだ。
サザランド商会を訪れることにしているのは、敗戦国で急な成長に疑いを持ったことが要因だが、今はジェリーの動向を探るためでもある。
サザランド商会の本店の奥が、私宅に続いている。
それで、ジェリーを見つけることが出来たのだ。
ショーンだけでなく、ダリルも探していたであろう。カーライルも探していたかもしれない。
それでも、見つける事がかなわなかった。王都にはいないと思われていた。
スミス・サザランドが隠そうとせず、元貴族の妻といっていたことと、商会の平民ということが不審に思われないことでもあった。
サザランド商会は、活気にあふれていた。
「失礼、サザランド会長に面会したい。」
ショーンは店員に声をかけた。
「申し訳ありません、会長は予定のない方にお会いできません。
予約を取っていただいて、こちらで調整させていただきます。」
店員は、ショーンを若い男と見ているが丁寧に言葉を選んでいる。
ざ、と警護がショーンの前に出るのに驚いたようだ。警護がつくような人物に思えなかったらしい。
「大丈夫だ。下がってくれてかまわない。」
ショーンが警護に声をかけて、自分の後ろに下げる。
「僕は、ショーン・サンベール。バーラン王国の者だ。
この名前をすぐに伝えてくれ、きっと会長も会いたがっているだろう。」
ショーンが穏やかに店員に言うと、ショーンの名前は知らなくともバーラン王国と聞いて店員が飛び上がる。
少しお待ちを、と言って他の店員に場を預け、店員が奥に駆けて行った。
店員をはじくように走って来たのが、スミス・サザランドだ。
お忍びで店に来ているショーンは何度か見かけた事がある。彼は時々、店頭に顔を出すのだ。
「貴方様がショーン・サンベール様ですか!」
肩で息をしながらスミスが、ショーンの確認をする。
「様つけはよしてください。ずっと年下です。
ショーンと呼んでください。もしかしたら、義父上と呼んだかもしれないのですから。」
ショーンの言葉に、周りの客も店員もぎょっとする。すでに注目の的だったのだから。
スミスが慌てて、ショーンと護衛を奥の部屋に案内する。
「来られたのは、ジェリーの事ですね。」
スミスがショーンにソファーを勧めながら尋ねる。
「そうです、あの女の事です。
スミス会長もそう思っておられるのでしょう? 遠慮はいりません。」
幾戦も経験したショーンは、見かけの若さに似合わず堂々としている。ソファーに座り、足を組む様は威厳があり、貫禄がある。
「そして、ロビンの事です。」




