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真実か嘘か

ジェリーは、帰宅した夫の顔つきが異様なのを感じた。

カーライルもこんな顔をしていた。

私を憎んでいる顔。


震えを抑えて、いつものように話しかける。

「お帰りなさい。今日はお早いのね。」


「よくも平気な顔をしているな。」

ああ、そうか何度もしているからか、とスミスは見下すように言う。

「スミス?」

ジェリーは何を言っているのかわからない。

カーライルの時は、自分に罪があったとわかっているが、スミスの言葉は理解できない。


「裏町でならず者に金を渡していたそうだな?」

スミスの言葉に、ジェリーの顔色が変わる。


それを見て、スミスは自分の推測が間違いであって欲しかった、と思うしかなかった。

ため息もでない、こんな女を家に入れた後悔でしかない。



「違うの! あれは!」

「何が違うのだ? ドルイドを殺すように頼んだのだろう?」


「そんな事していない!」

ジェリーは、とんでもない疑いがかかっていると、やっとわかった。


「では、何故金を渡した?」

「商会に悪い噂をばらまかれないように、少し脅してもらおうと。」

ジェリーの言葉は歯切れが悪い。


「悪い噂は、商会ではなく、ジェリーお前のだろう?」

笑い顔でスミスは言う。

「アデレード姫を虐待して殺そうとした。」


「え。」

ジェリーがどんなことをしても隠しておきたい言葉を聞かされて、身体が震える。


「昨日、ドルイドが殺されて発見された。」

スミスの言葉がジェリーには信じられない。そんな事初めて聞いた。


「違う! 少し脅すだけって! 殺してなんて言ってない!」

一度ドルイドに金を渡すと、一生脅されると思った。

今の幸せを何としても守りたかった!


スミスにしてもジェリーにしても、年を取って授かったロビンはとても可愛い。

優しい夫と裕福な生活。貴族のしがらみもない。

大事なのだ、ジェリーの全てなのだ。


「お前は、カインも殺したのだな?」

スミスは興奮もしていない、深い後悔で低い声になっている。


反対にジェリーは、倒れんばかりに興奮している。

とんでもない疑いがかかっていると、思わざるを得ないが、スミスの中では疑いではなく確定だという事まで察することは出来ない。

「そんな事していない! あの子は私を認めてくれた! 看護したのよ!」

ベッドの中から、ロビンを弟だと喜んでくれたカインは大事にしようと思った。

自分を認めなかったアデレードとは違う。


「お前はキリエ侯爵家で、先妻の子供を殺そうとした。 いや、お前の息子が庇っていなかったら死んでいたそうだな?

実の息子でさえ、母親をみかぎる程の事をしていたそうだな?」


「ドルイドの言った事は嘘よ! お金が欲しくって言っているのよ!」

ジェリーの叫ぶ声が部屋中に響く、使用人達が何事かと駆けつけるが、異様な雰囲気に扉を開けるも入ってこられない。


「ドルイドではない。」

あの女性は、金は受け取らなかった。

懺悔なのだと言った。

後悔が止まないのだと言った。その気持ちがスミスにはよく分かる。


「誰? キリエ侯爵?

でも、カインは違う、カインは!」

呆然としながら、ジェリーが言う。

それは、アデレードを虐待していたと聞こえる。


「ロビンは誰の子だ?」


冷めた目でジェリーを見るスミス。

ジェリーは、何を、と思うばかりだ。

「誰の、って?」

やっと小さな声を出すのが精一杯な程、ジェリーは衝撃を受けている。


「嘘が上手いとわかったよ、騙された自分が情けない。」

スミスは、ジェリーの言葉は何も信じてくれないと、ジェリーにもわかった。

アデレードの事は黙っていた。言えるはずない。


ジェリーは立っていられず力なく床に座り込む。スミスは黙ってその様子を見ている。


ジェリーがスミスを見つめるが、昨日までの優しい夫はいない。


「ロビンを連れて出ていけ。」


「何を、ロビンは貴方の。」


「私の子供はカインだけだ、お前が殺した。」

扉の所から使用人達の声を抑えた悲鳴がする。


カーライルもスミスも子供は、先妻の子供だけなのだ。

何故、こんな事になったのだろう。

ジェリーがふらり、と立ち上がる。

何度家を追い出されるのだろう、3人の夫に追い出された。


扉の所の使用人達が、ジェリーに道を開ける。

焦点のないようなジェリーが、その中を歩く。誰も声をかける者はいない。



「カイン」

部屋に残ったスミスが呟くのは、亡き息子の名前。


商売人として生きてきたスミスはわかっていた。

確証がない、決めつけるべきではないことを。

だが、子供を虐待する女、それだけは真実なのだ。

カインの死に疑問を持ってしまった以上、ジェリーの言葉は嘘にしか聞こえない。


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