真実と疑惑のはざま
スミス・サザランドはジェリーの行動を探るための人間を雇った。ジェリーがドルイドに会いに行くと思ったからだ。
2日後、その人間から耳を疑うような事を聞かされるようになる。
ジェリーは外出したが、向かったのは裏街の酒場。ならず者達がたむろしている所だ。
そこで、一人の男にジェリーが金とメモを渡していたのを確認したと言う。
翌日、ドルイドが自宅で殺されているのが発見された。
確証はない、だが、そうとしか考えられない。
ドルイドの言葉を思い出す。
先妻の子供を殺して自分の子供に跡を継がせようとした。
息子のカインは、寝付いていたが、容態は安定していた。優しく賢い子だった。お土産の本を喜んで、ベッドでいつも読んでいた。
新しい母親のジェリーにも馴染もうとしていた。
それを、あの女は。
疑ってかかると、全てが不審になってくる。
ならず者に金を渡すような女。ロビンは自分の子供なのか?
スミスは、他にもキリエ侯爵家で働いていた者を探して話を聞き出すように指示した。
貴族の家で働くような者は口が固いだろうが、金で話してくれる者もいるはずだ。
キリエ侯爵のご令嬢といえば、バーランの王太子の婚約者であるアデレード姫だ。
長い間、隠されて育てられてきた、何故だ?
王室に引き取られたのは何時だ?
何もかもが、秘密にされているのは何故だ?
ジェリーの子供は、キリエ侯爵との間にはいない。その前の結婚でショーンという息子がいるが、行方不明だ。
キリエ侯爵家には連れていったはずなのに、何故行方不明になる?
そして、亡きギリアン王太子が結婚式に出席したバーランの公爵家、ショーン・サンベールはトルストの生まれで王太子の学友であったということ。
ショーン・サンベールはバーランの軍師として名を馳せている。
彼こそが、ジェリーの息子に違いないのに、結婚式にも母親を呼ばなかった関係。
そもそも、ジェリーは何故、自分の居場所を隠したがる?
キリエ侯爵の所から逃げてきたと言っていた。それで匿って欲しいと来たのだ。
ジェリーの言うのを信じてしまったが、あの時すでに離縁されていた。離縁されているのに逃げる必要がどこにある?
何日もしないうちに、キリエ侯爵家で働いていた女性を探し当てた。
スミスは、直接その女性の話を聞く為に場所を設けた。
女性は、娘と思われる女性に付き添われてやって来た。
「体調が思わしくないと聞いている。悪いね、来てもらって。」
スミスが挨拶をすると、女性は首を横にふった。
「いえ、ずっと心の重荷でした。
使用人では、奥様に逆らうことは出来なかったのです。」
女性は、ロクサーヌが生きていた頃からの使用人であった。
「たいそう、美しい奥様で旦那様はとても大事にされていました。
お嬢様も美しく育つだろうと、楽しみなお子様でした。」
そう言って話し出した内容はこうだ。
ロクサーヌが亡くなり、新しい奥様が来たこと。
旦那様は仕事で家を空ける事が多く、新しい奥様が可哀想なぐらいであったこと。
優しい奥様であった。
そこで、お嬢様のお世話係として、新しい奥様をとられたと使用人でさえわかった。
やがて、奥様は横暴な振る舞いをしだし、優しいと思っていたのは間違いだと気づいた。
お嬢様が痩せていき、食事に何かされているのが、わかったが、奥様が気に入らない使用人は解雇しているので黙っていた。
奥様がお嬢様をむち打つのを止めた使用人は解雇された。
連れ子のショーンが、こっそりお嬢様を庇い、幾人かの使用人が手助けしていてた。
そうでなければ、死んでいたろう。
自分は、耐えきれずキリエ侯爵家を辞めて他の家で働いたからそれ以降は知らないが、ショーンがお嬢様を連れて逃げ、どうやらバーランに向かったと聞いた。
その後、キリエ侯爵から、雇いたいと話がきたが断った。
止めどなく涙を流して告白する女性に、スミスは呆然とするばかりだった。
「私は奥様が怖くて、お嬢様を助ける事が出来ませんでした。今もずっと、あの痩せ細ったお嬢様の姿が・・・」
スミスの中で、疑いが確信に変わっていく。
息子は殺されたのだ。




