表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/78

スミス・サザランド

サザランド商会は、トルストの戦後復興で、台頭してきた商会である。

会長であるスミス・サザランドの妻は元貴族だというのは知られているが、社交の場に出て来ない。


元は小さな商船を数隻持つ貿易商だったが、戦争物資の運搬で大型商船を使って利益を得た上に、戦争が早く終わって、不要となり軍が引きとり拒否した物資を国内で流通させるという2重に利益を生み出していた。


ジェリーがアデレードを虐待していたことは、公には秘密にされている。外交上に大きな問題であるからだ。

関係者しか知らないと言う事は、ジェリーにとって都合のいいことであったが、キリエ侯爵を恐れて屋敷の外に出る事は少なかった。


スミス・サザランドの前妻は流行り病で亡くなっていた。一人息子も同じ病で一命は取りとめたものの、寝ついたままだった。

そこに後妻としてきたのがジェリーであった。

すぐに息子ロビンが生まれ、活気がでてきたサザランド家であったが、寝付いていた息子が亡くなるという不幸にみまわれた。

長い病で覚悟はしていたものの、スミスの悲しみは大きく仕事も手に付かない状態だったが、ロビンの存在が癒してくれた。




アデレードは報告書を読んで、溜息をついた。

私もこの息子さんのようになっていたかもしれない。

ダリルがいなかったら・・・


ミュゼイラやアリステアが側にいてくれた。

ウォルフやベイゼルが姿を変えて守ってくれた。




アデレードは小さな種を撒いた。

それは昔、キリエ侯爵邸で働いていたドルイドという使用人だった。

アデレードに虫の入った食事を用意した使用人である。

彼は、カーライルに解雇され苦しい生活をおくっていた。そこに、ジェリーが子供を虐待していた事実を隠して裕福な生活をしている、と話が伝わるようにしたのだ。


サザランド商会に来た彼は叫んだ。

「奥様に会わせてくれ! 大事な話があるんだ。俺はキリエ侯爵邸で奥様に仕えていたんだ」

出て来たのはジェリーではなく、スミスだ。


「なんだ、店先で。他のお客様が驚いておられる。早くつまみだせ。」

店員に指示して、警備員を呼びにいかせる。

ドルイドはスミスがジェリーの夫でサザランド商会の会長とは知らずに、囁いた。

「奥様に俺が来たって伝えた方がいいぞ。キリエ侯爵のご令嬢を殺して自分の子供に跡を継がせようとしてたんだ。それがバレて離縁されたんだ。大きな声で街にふれまわるぞ、それでもいいのか?」


なんだって!

スミスの心臓がドクンと大きな音をたてた。

こんな男の事を信じるのかという思いと、小さな疑惑が生まれる。


「へへ、こんな所に隠れているとは、わからなかったはずだ。ドルイドが来たって奥様に伝えてくれよ」

スミスはドルイドの連絡先を聞くと、後で連絡すると言って帰らせた。

ジェリーは、キリエ侯爵の元妻であるが、本人が言いたがらないので知っているのは、ごくわずかな者のみだ。それを知っていた。



その夜、屋敷に戻るとスミスは平静を装いながら、注意深くジェーンを観察しながら言った。

「店にキリエ侯爵邸で働いていた、ドルイドという男が来てね。キリエ侯爵邸での事を話すぞ、と言うんだよ。ならず者は困るね。無理やり連絡先を置いて行ったよ」

連絡先の書いた紙をテーブルに置くと、ロビンにお土産があるから取ってくるよ、と部屋を出た。


扉を完全には閉めずに、スミスは隙間から覗いていた。

ジェリーが周りに気を付けながら、連絡先を書き写すのをスミスは見ていた。

小さな疑惑は、大きな疑惑になっていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ