戦争が終わって
バーランでは、新たな領地となった鉱山の開発が進められていた。
アデレードとお茶をしていたユリシアが、ショーンが戦争の後は鉱山でほとんど邸にいない、と愚痴る。
「でもね、少し休みがとれるので、帰宅すると手紙が来たの。」
ユリシアが嬉しそうに言う。
「お兄様、こちらにも顔を出されるかしら?」
「王太子殿下にお話があるらしいわ。ところで、マックス殿下のご容態は?」
フランドルは順調に回復しているが、マックスは矢の刺さった位置が悪く、一命をとりとめたものの、肺炎を併発して長く寝付いている。
王妃が付き添ってはいるが、ほとんど寝ているという。
「王妃様が付き添っておられます。」
「そう。」
「王太子殿下は、順調に回復されてましてよ。」
アデレードが言うのを、微笑ましそうにユリシアが見ている。
「戦後処理は王太子殿下の采配で行われていると聞いてるわ。」
順調ではなく、回復を待たずに執務をしているのだ。
兵士達がアデレードの話をふれまわったので、国内ではアデレードの人気が高まり、王太子との結婚を急ぐ声が強い。
アデレードを他国に嫁がす意見の貴族達も、黙らざるを得なかった。
戦争も終わり、幸せな時間が続くかと思われた。
「母を見つけた。」
鉱山から戻ったショーンがもたらした情報は、ジェリーの居場所だった。
ダリルは椅子に座ったままでショーンを見つめている。
「僕も探させていたが、見つからなかった。」
アデレードは、崩れ落ちるようにソファーに座ると黙ったままだ。
「見つからないはずですよ。貴族ではなく、平民と結婚して名も変えて暮らしてました。」
ジェリーはカーライルにキリエ侯爵家から追い出された後、行方不明だった。
実家にも帰っておらず、消息をたどるのは困難を極めていた。
「トルスト王国は敗戦で勢力関係が変わりました。王太子が亡くなった事が大きな要因です。」
ショーンが取りだしたのは報告書だ。
「トルスト王都に、最近大きくなった商店があるのです。手広く商品を扱っているので、重宝されているのです。僕も何度か店に行きました。」
その店が関係あるのだろうとわかる。
「そこの後妻になっていたのが、母だったのです。店の奥に見かけた時は心臓が止まるかと思いました。」
ダリルもアデレードも言葉を発せず、ショーンの話を聞いている。
「そして、調べるのをそこから反対にたどったのです。」
母は、侯爵夫人であった頃に、この商人と面識があったのでしょう、とショーンは続ける。
「侯爵邸を追い出された後、すぐにこの商人を訪ねたらしい。」
貴族の女性が、一人で市井で生きるのは難しい。
ショーンの言うとおりなのだろう。
最初から、後妻に入るような関係だったのかわからないが、今が幸せに暮らしているなら、許せるはずがない。
アデレードにあれだけの事をしておきながら、自分は素知らぬ顔で幸せに暮らしているなど・・・
「私がやります。」
気がつけば、言葉を発していた。




