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アデレードの戦場

ダリル王太子の生存が確認されたが、直ぐに帰還する事は叶わなかった。

ケガの程度がひどく、現地で治療をしてからでないと動かす事ができないからだ。


フランドルはさらにひどいケガだった。

「僕を守る為に、後ろを駆けていたからだ。」

ダリルがショーンに説明した。

流された地が、どこかわからず、敵地の可能性があるために、雨風がしのげる巨石の影に生存者が集まった。


ダリルは左腕の骨折と左足に捻挫と裂傷があった。

フランドルは両手の骨折と頭部裂傷。

寝かされて応急処置を受けていた。


「水は摂取した。軽傷だったチモニーが、偵察と果物を集めて来てくれた。」

ダリルがチモニーと呼んだ兵は、フランドルの部下の第1部隊の兵だ。

チモニーが衛生兵に、状態を説明している。


「殿下、よくご無事で。」

「ショーンか、君が来るだろうと思っていたよ。」

ショーンは、ウォルフ達とダリルやフランドル、生存兵士の救出の確認をする。




その頃、アデレードはロビニーゴルと戦闘の最後尾にいた。

アレクザドルは、王太子を亡くし、グレッグが総指揮をとっていた。


アデレードの中で王の言葉が甦る。

戦争を止めるきっかけ。



ロビニーゴルを前に進める。ゆっくり歩いて行く。

白い(たてがみ)の馬と、薄絹のドレス姿のアデレードは遠目にでも目立つ。

しかも、近づけば驚くような美貌だ。


バーラン軍が、アデレードの為に道を空けて行く。

それにアレクザドル軍も気がついた。

戦場が鎮まるというのが、正しいのかもしれない。


王が気が付いて、指令部のテントから飛び出してきた時には、アデレードは前線に来ていた。


やがて、アレクザドル側の攻撃も止んだ。

アデレードは、剣も弓も持っていない。


アデレードが自軍を抜け、アレクザドル軍との間に立った。


「休戦を希望します。」

できれば、永遠の休戦を、とアデレードは思う。


もう、大事な人を失うのはイヤだ。

どこで戦争は終わるのだろう。

それは、今でもいいのではないか。


アデレードの思いが伝わっているわけではないが、戦地にあるはずのないアデレードの姿に、周りが引いたのだ。


緊張で空気が張りつめる中、アレクザドルから1本の矢が飛んできて、アデレードの腕をかすった。


バーラン軍が反射的に飛び出そうとしたところに、声が響く。


「止まれ!!」

一騎の軍馬が、ものすごいスピードでアレクザドル軍の中から飛び出してきた。

「彼女に傷を負わす者は、死を覚悟するがいい。」

攻撃するな、と叫びながらグレッグが馬を駆っている。


アデレードと対峙したグレッグは、驚きを隠せないでいる。

「何て無謀な事を。」

この目立つ馬とアデレードでなければ、戦闘を止める事はできなかったであろう。


「女子供の考えと笑っていいわ。

休戦を希望します。」

アデレードの言葉に、グレッグは考えると答えた。

「まずは、事務官レベルで調整だな。」


グレッグの言葉は、休戦に等しい。

グレッグにしても、休戦のタイミングを探していたのだ。


兄の王太子が亡くなるという、グレッグにとって十分な収穫があったからである。


お互いがゆっくり背を向け、自軍に戻る。

実際は、アレクザドルとヌレエフの休戦であるが、バーランとの休戦でもあるのだ。

戦いの終わりが見えようとしていた。




アデレードが王の元に報告に向かうと、ダリル発見の報が届いていた。

既にたくさんの兵士が救助に向かったという。


「アデレード、よくやった、と言いたいが、無茶すぎる。」

ルドルフは、まずは説教である。

なんだか、それがアデレードには嬉しい。




7/8 感想・誤字報告等ありがとうございます。

修正いたしました、これからもよろしくお願いいたします。

violet

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