ダリルの捜索
雨の中を白い鬣の馬が疾走する。
陽が弱い、雨空はロビニーゴルにとっては得意な空だ。
泥が跳ね、アデレードの雨をすって重くなったドレスにかかる。
アデレードの体力が限界なのは、誰もがわかっていた。
アデレード達が戦場に着いた時、ヌレエフ王国が右陣営、左陣営をバーラン王国でアレクザドルと対戦をしていた。
ショーンは指揮本部のテントに飛び込むと叫んだ。
「地図をくれ。
土石流が起こった時の風と場所を教えてくれ!」
そのまま武官達と奥に入って行った。
「陛下。」
ルドルフは、アデレードの姿を認めると口を開いた。
「そなたを引き取ったのは、こんな事をさせる為ではなかった。」
女の子らしい生活をさせてやりたかった。
「いいえ、私が望んだのです。」
言いたい事はこんな言葉じゃない。ダリルは?
ダリルはどこ!?
「陛下、アデレードを頼みます。」
ショーンが飛び出してきた。
ダリルが濁流にのまれてから、3日が経とうとしている。
「ウォルフ、ベイゼル、来てくれ!」
「お兄様、私も行きます!」
アデレードが駆け寄ったが、ショーンは首を横に振る。
「ダメだ。
アデレードは足手まといになる。
分かっているだろう?
信じて待っていてくれ。」
その言葉が言い終わらないうちに、男達はテントを飛び出した。
その後を数名の兵士と衛生兵が後を追う。
「アデレード、こちらで休みなさい。」
後ろから、ルドルフが声をかける。
「陛下、眠るのが恐い。
少しだけ休んだら、救護室でケガを負った兵士の看護に参ります。」
眠って起きたら、訃報が届くようで恐い。
思いだすのは、遺体になっていたギリアン。
これが戦争。
アデレードの中で一つの思いが強まっていく。
愛する人を守る為にも、戦争のない時代を作りたい。
期せず、父親が戦争を避ける為にしてきた事をしようとしている。
「陛下、休戦は出来ないのでしょうか?」
アデレードは、椅子に座り武官からお茶を受け取ると尋ねた。
「両国が王太子を欠いた今が、タイミングがいいのだろうが、戦争を止めるきっかけが必要だ。」
きっかけ、ルドルフの言葉にアデレードが考え込む。
ダリル、お願い生きていて。
目を閉じるとダリルの顔が浮かぶ。
既に何度も、捜索隊がダリル達を捜していた。
僅かな生存者と多くの遺体を見つけたが、ダリルを探し出す事は出来ずにいた。
「探すところが違うのだ。」
ショーンは、ウォルフとベイゼルに説明する。
「アレクザドル軍の後ろから迫った土石流は、多くを流したが、大軍のアレクザドル軍を吸収するときの抵抗力で、かなり弱まったはずなのだ。
アレクザドル軍の前を走っていたバーラン軍は、逃げる事が出来たはず。」
わかって駆けていたバーラン軍と、知らずに駆けていたアレクザドルでは対応も違うのだ。
バーラン軍は土石流の流路から外れるタイミングを見計らっていた。
それでも巻き込まれる程とは、予想していた以上の大きな土石流なのだろう。
「本流である国境となっているスレンダー河に流れ込んでいるが、支流を逆流しているはず。」
風向き、土石流が流れ込んだ地点からすると、考えられる支流がある。
ヌレエフ側に支流が多いのは、ヌレエフに雨期があるからだ。
風の向きから支流の逆流を考える。
国境のスレンダー河は細い河だが、ヌレエフが雨期の時に水量が増える。
広い河原が戦闘地帯となっている。
アレクザドル側は河原の先は草原になり国内部に広がる。
ヌレエフ側は山がそびえ立ち、自然の要塞となっていたが、気候も変えていた。
ヌレエフ国では雨期だが、山脈を越えたスレンダー河では雨が降っていない。
ショーン達はヌレエフ側の支流を遡っていた。
そこにも、遺体が散乱している。
土石流の威力で木の枝に引っ掛かっているものもある。
全てがアレクザドルの兵士だということに気がついた。
バーラン兵士の遺体も、生存者もいない。
同じように流されたはずだ。もちろん、圧倒的にアレクザドルの兵士の数が多いのはわかっている。
土石流から3日も経つと、遺体からは腐臭がしている。
ショーン達は、土石流で運ばれた全てのものを避けながら進む。
大きな岩の陰に何かを見つけた。
それは、ダリルだ。
ダリルだけでなく、何人かの存在を見つけて、駆けつける。




