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試される時

長らく緊張状態にあった両国では、戦中、戦後の準備もされていた。


新たに領地となった元トルスト国内の領地には、統括地区として領事館が作られ領事が赴任することになるが、それまで代理がつくことになる。

その代理領事は、すでに議会で承認され王都を出発したと情報が届いている。

代理領事一行が到着するまでは、アデレードの護衛として来た事務官達が準備をすることになった。

実に有能な人選であった。


「姫、どうぞ我等もお連れください。」

書類を作成しながら、ディランがアデレードに言う。

他の事務官達も同様であるが、書類仕事に追われている。

「ありがとう、これからはウォルフ第1部隊長が付いてくれるから大丈夫よ。

それよりも、貴方達にしかこれはできない。

代理領事が来るまでお願いしたい。」

アデレードに言われると、頷かざるを得ない。

領事が到着したら、すぐに追って来るであろう。



この後、ヌレエフ王国に向けて軍は出陣するが、その前に休養は必要である。

兵士達は戦争を終えたばかりなのだ。

1日の休養の後、第1師団がヌレエフに向けて出発した。

ヌレエフまでは4日程かかる予定であり、さらに2日かけて雨季のヌレエフ国内を通過してアレクザドルとの国境に向かう。


アデレードは焦っていたが、無理を通すわけにはいかない。

後方にいた自分と違って、戦闘をしていたのは兵士達なのだ。



途中で伝令が来たことで、にわかに遠征軍が騒がしくなった。


『ダリル王太子、行方不明。

アレクザドル軍と共に土石流に巻き込まれた模様。』


伝令の言葉が理解できない、息が止まる。

アデレードは、足元から暗闇に落ちるような感覚に襲われる。


「雨季のヌレエフでは、国境沿いの河川に流れ込む土石流が発生します。

アレクザドル軍を土石流の流路に導く作戦を立てていました。

ダリル王太子はご自分を囮にして、アレクザドル軍を誘ったのだな?」

ショーンが伝令に確認する。


伝令は、頷き言葉を続けた。

「アレクザドルの軍に王太子の旗が確認できたので、ダリル王太子はフランドル隊長と飛びだされました。」


ベイゼルがアデレードを椅子に座らせるが、身体は震えている。

「ベイゼル。」

「大丈夫です、姫様。」

何が大丈夫なのか、アデレードも誰も聞かない。


行方不明、どういうこと?

わかっているのに、わかりたくない。


「案内しなさい。」

この目で確認するまで信じない。

アデレードがよろけながら立ちあがる。

「姫様。」

お伴しますとベイゼルがアデレードを支える。



ダリルは王太子なのだ。国を背負っている。

たとえ数で劣っていても、負けるわけにはいかない。

一度に大量の兵を走破する為に、危険な策をとったのであろう。

逃げるバーラン軍を追い掛けさせたのだ。

自分を後部に置けば、必ず追いかけて来る。

アレクザドル軍が逃げないように、ギリギリまで追いかけさせる。


側にいなくともわかる。

ダリルは、やったのだ。

土石流の恐怖、我が身を囮にする恐怖、全てを乗り越えて敵軍のすぐ近くに身を置かねばならない。


「ロビニーゴル!」

アデレードの呼ぶ声にロビニーゴルが駆けて来る。


「ワイズマン師団長、後は頼みます。

兵達を取りまとめて来なさい。」

アデレードはロビニーゴルをひるがえして駆け去って行く。

ウォルフ、ベイゼル、ショーンが駆けて追いかけて行く。


たとえ、ダリルに何かあっても、バーランは勝たねばならない。


わかってはいても、生きていて、と願う。


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