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旗印の価値

ロビニーゴルがトルスト国境に向かっていた。

背にはアデレードを乗せている。

アデレードはドレス姿だ。陽に弱いロビニーゴルをカバーするために乗馬服ではなく、ドレス姿である。

ドレスの裾はたなびいて、ロビニーゴルの肌を陽から隠す。



アデレードの四方を護衛するのは、議会の事務官である。

軍が遠征に出ている今、王宮に残っているのは最低限の警備兵だけなのだ。

そこをアデレードの為にさくことは出来ない。

アデレードの護衛に名乗りでたのは、若い事務官達であった。

事務官とはいえ、貴族の男性は乗馬も剣術も訓練を受けている。


彼等の中には、アデレードに意地悪をしていた令嬢の家族たちもいた。

妹、姉が不始末をして、アデレードに報復された事は周知されてしまった。

落ちた家名を挽回するために、名乗り出たのだ。

「妹が、姫様に多大なご不快を与えて申し訳ありません。

この命にかえても必ずお守りします。」

爵位が落ちたわけではない。お尻にクッションを付けられただけだが、王家の姫であるアデレードへしていた事が王家への反抗と取られかねない。

長くアデレードに仕えることになるディラン・トリニティ侯爵子息であった。


女の身で戦地に向かう事に感銘を受けた者や、元からアデレードに憧れていた者もいた。

名乗り出た者の中から、選ばれた5人が護衛の任に就いた。


ウォルフやベイゼルはダリルがアデレードに付けた武官だが、この5人はアデレード自身に惹きつけられた事務官である。

王太子妃となるアデレードには貴重な人材であった。



「姫、少し休憩を取りましょう。

馬にも水と飼葉を与えて休ませた方がいいでしょう。」

途中の街でディランがアデレードに声をかける。

陽も高く、ロビニーゴルを休ませた方がいい、とアデレードも思っていた。

「ありがとう、皆に伝えて。」


ディランに誘導されて、アデレードが宿屋の前に馬を止める。

ディランは、右翼を警護していたイエフ・ペンドーラに宿屋に確認に行かせた。


厩でロビニーゴルは体を冷やしてもらっていた。

宿の使用人が、冷えた井戸水で体を拭いていたのだ。


アデレードも宿の食堂で食事をしていたが、元々食には問題のあるアデレード。

王都から休まずに駆けて来たことで疲労が色濃く出ていた。


「姫、少しでもお食べください。」

「ええ、体力をつけねば。心配してくれてありがとう。」

肉を小さく切りながら、口に運ぶアデレード。

「貴方達も食べて、休んで。

私よりも周りに注意を払いながら駆けた貴方達の方が疲れているでしょ?」

アデレードは開戦から、ほとんど休みも無く議会が開かれていたことを知っている。


「3時間、ここで休みましょう。

少しでも早く戦場に行きたい気持ちは変わりません。

けれど、貴方達も大事な国民です。

それは、私に守らせて。」

アデレードが照れたように笑う。


交替でアデレードを警護しながら休みをとり、3時間後に出立した。

ロビニーゴルも休んで、体を冷やしたことでスピードがあがった。

翌朝の陽が昇る前に、アデレード達は、後方基地である元伯爵邸に到着した。



「アデレード・バーランです。

マックス殿下の様子はどう?」

屋敷に入ると、アデレードはマックスに面会し、医師に状況を聞いた。

「命は取り留めましたが、まだ動かすのは無理です。

意識が戻ってもすぐに眠りに落ちられます。」


「よかった。助かったのね。

前線に行きます。デュラン。」

呼ばれてデュランが前に出る。


「姫様の到着は、先程前線に連絡を出しました。」

アデレードがマックスの様子を見ている間に、手はずを整えたらしい。




「アデレード様。」

アデレードが前線に着くと、ウォルフが駆け寄ってきた。

「なんて危険な事を!」

ウォルフが心配して言っているのがわかる。アデレードはクスクス笑い出した。

「久しぶりにウォルフのお小言を聞いたわ。

ここには、守ってもらう為に来たのよ。

私は戦地では足手まといだもの。さぁ、兵達を集めてちょうだい。」

アデレードはワイズマン師団長とショーンに言う。


「師団長、これから奇襲だ。

皆に準備を。」

ショーンは、陽が昇ろうとしている山を指しながら言う。


集められた兵達は、アデレードの到着を知らない者がほとんどだった。

見慣れぬ美しい女がいる事に驚く。


アルビノのロビニーゴルに騎乗するアデレードは朝陽を浴び、幻想的でさえあった。

兵達の視線が集まる。


「アデレード・バーランである。

マックス殿下の後任で来た。

私は殿下のように戦闘できる能力はありません。

だから、私を守りなさい。

そして勝利を持ってきなさい。」

強く言いきるアデレードに、兵達の歓声があがる。


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