仕返し
アデレードの茶会が開かれた。
王宮の庭園に面した部屋で、季節の花がテーブルを飾っている。
趣を凝らした演出で、ナプキンは同じ花がリング代わりに使われている。
5つのテーブルが用意され、20人程の令嬢が招待されていた。
座席にも季節の花のクッションが用意されている。
アデレードが10人が着席できる大きいテーブルに座り、客を待っている。
小さいテーブルでも5人が着席できるので、空席ができる事になる。
アデレード・キリエ・バーラン、その名で出す招待状を断る事はできない。
令嬢達が出席する気がなくとも、親から出席を強要されるのだ。
侍女達に案内されて、茶会の部屋に入った令嬢達は、アデレードのテーブルに案内される。
だが、そのままアデレードと同じテーブルに着いた令嬢は、僅か5人。
3人から5人に増えたと言う事だ、アデレードにとっては嬉しい事であった。
他の令嬢は、アデレードに挨拶をすると、惜しむ事もなく別のテーブルに向かう。
さすがは王家の茶会。
用意された菓子も種類が多く、絶品が揃っていた。
茶は数種取り揃えており、好みをテーブルにつく侍女が淹れていた。
令嬢達の話も弾む。
「きゃー!」
洗面所に行こうとしたのか、立ちあがった令嬢が悲鳴をあげた。
アデレードはそれを見ると、肩を震わせて笑いだした。
「よくお似合いですこと。」
周りの者達が、アデレードを食い入るように見つめる。
アデレードは席から立ち上がる事もなく、言葉を続ける。
「私は、選ぶチャンスを与えたわ。
バーランを名乗る者として、守る者とそうでない者を分けなければなりません。」
クスクスと笑いながらも、アデレードの目つきは恐い。
「貴女方が、誰に何をしたか、覚えているでしょう?
私は守らない者に印を付けました。」
ほら、とアデレードが悲鳴をあげた令嬢を指す。
令嬢のドレスのお尻にクッションが張り付いている。
「よく目立つ印でしょ?」
アデレードの言葉に、令嬢達が立ちあがり悲鳴をあげる。
アデレードのテーブルに座った令嬢は問題ないが、他のテーブルに着席した令嬢のお尻には椅子のクッションが張り付いていた。
アデレードのテーブル以外のテーブルの座席には、クッションに粘着剤が塗られていた。
そこに座ると自重でクッションがドレスの尻部分に張り付く。
ドレスが破れそうになるほど引っぱっても外れない。
「それで、どうやって屋敷に帰られるおつもり?
王宮の中を馬車寄せに行くだけでも、目立つでしょうね。」
呆然とする令嬢に、優しい声でアデレードが言う。
あきらかに面白がっている様に、それがアデレードの遊び程度だと怖ろしさを知る。
「ひどい!
こんな事を!」
「お父様に言いつけてやる!」
口々に、クッションを張り付けた令嬢が、叫び出す。
泣いている令嬢もいる。
父親の威をだしても、無駄だとわからないのだろうか。
ガタン!
アデレードが立ちあがった。
「どうぞ。
そうすれば、貴女達が私にしてきた事を言わなければならないわね。
私は、誰に知られても困らないわ。
これぐらい可愛い報復よ、手加減してあげたわ。」
王家の姫に格下の貴族の娘が、敵対するとも思える行動をしてきたのだ。
令嬢達は真っ青になり、ガタガタ震えだす者もいる。
「今頃になってわかった?
私は、アデレード・キリエ・バーラン。
王の姪、王太子の婚約者という事を。」
アデレードは他国で生まれた貴族とはいえ、バーラン王家の血族であるのだ。
令嬢達はアデレードが逃げ出すだろうと、思っていたのだろうが、アデレードはか弱い姫ではなかった。
お尻にクッションを張り付けた令嬢達の姿は滑稽でしかなかった。
しかも、泣いている者、興奮している者、倒れそうな者までいる。
「倒れたら、軍人を呼んで馬車まで運ばせますわ。
ケイデン様、ビューモント様、フランドル様、誰が来るかしらね?
クッションを付けたまま、運んでもらえてよ?」
アデレードが楽しそうに言う。
「きゃあああ!」
令嬢達は泣き叫び始めた。
すぐに、父親や、婚約者がいるならその人に知られる事になるだろう。
アデレードのテーブルに座った令嬢達に、クッションは張り付いていないが、真っ青である。
自分達も同じことをしていたのだ。
アデレードはそれに気がついたのか、言葉をかける。
「自分の間違いに気付き、謝るのは大きな勇気だったと思うわ。」
高位貴族の娘として、大事に育てられたであろう、とアデレードにもわかる。
きっと、見下していたであろうアデレードに謝まりに来たのだ。
見下すのが間違いと、気付いたというのが正しいのかもしれない。
「いいえ、アデレード様。
私達は、貴族として恥ずかしい事をしていたのです。
謝るぐらいで許される事ではないと分かっています。」
一人の令嬢が、申し訳なさそうに言う。
「それがわかっているなら、もういいわ。」
フフフ、とアデレードが笑う。
脱兎のごとく逃げ出した令嬢達は、アデレードの思惑通りに、王宮の廊下を歩いて馬車寄せに行くしかない。
大勢の人々が王宮を歩く異様な姿の令嬢達を見た。
逃げるように足早に王宮の廊下を歩く令嬢は目に付くのに、その尻には色鮮やかな花柄のクッションが張り付いているのだから。
すぐに噂は広まる。面白可笑しく脚色されて、尻にクッションを付けた令嬢達と。




