一歩
アデレードにとって、楽しくない茶会が続く。
どの顔を見ても、表面上を取り繕っているようにしか思えない。
今日は、パースル侯爵の茶会に来ていた。
侯爵は、北に領地を持っており、北方遠征が起きた時のルートとなる。
侯爵令嬢は、ダリルの婚約者候補の一人だった。
ふー、と心の中で溜息をつきながら、木陰で庭の散策をしている女性達を見ている時だった。
アデレードの後から人の気配。
護衛達が近づくのを許しているということは、茶会の客なのだろう。
アデレードがゆっくり振り向くと、3人の令嬢がいた。
「アデレード様。」
一人がアデレードの反応を見ながら言葉を出した。
「あの、ごめんなさい。」
そういうと震えている。
びっくりしたのはアデレードの方だ。
「私達、自分のしている事が恥ずかしくなって。
アデレード様は、いつも堂々としているのに、私達噂に振り回されて。」
他の令嬢も、ビクビクしながら謝ってくる。
「どんな噂か聞きたくはありませんが、噂をしている人は私と話した事もないはずなのに、私の事を知っているなんて変ね。」
アデレードが嫌味だとわかるように言う。
謝ったら許してもらえると思っていたのか、3人は泣きはじめる。
「ごめんなさい、王太子様の婚約者になられた事が羨ましくって。」
アデレードだって、この3人が勇気をだして謝ってきている、というのはわかっている。
3人は泣いてはいるが、この場から逃げようとはしない。
心から悪いと思っているのだろう。
アデレードは、溜息をついた。
「私もお話がしたいと思っていたの。
お茶にしません?」
「ええ!もちろん!」
嬉しそうに令嬢が涙をためて笑うと、つられてアデレードも笑った。
フルーラの事もあり、自分に近づく人間に猜疑心を持ってしまう。
そんな自分の態度も、どこかに出ていたのかもしれない、とアデレードは思う。
街の流行りのお菓子やドレス、女の子の話など、些細な事が楽しい。
美少女のアデレードが笑うと、破壊力抜群だ。
誤解が解けてくると、同じ年頃の女の子達、時間が経つのも忘れて話し込む。
「姫。」
護衛が、アデレードに近づいてきた。
「わかりました。」
護衛に答えると、アデレードは3人に振り返った。
「また、今度お話ししましょう。」
そう言って立ち上がるアデレードの背中はピンとしている。
王妃教育はこの2年でずいぶん進んだ。
歩く姿も美しい。
アデレードの拉致事件で、王都の弱点が浮き彫りになった。
周辺警備に加えて、塔からの監視も強化された。
アデレードの警備は厳重になり、茶会に行っても時間管理がされている。
アデレードは馬車に乗ると、頬が緩んでしかたない。
嬉しい。
本当は一人ぼっちは辛かった。悲しかった。
両手で頬を押さえるが、声が出てしまう。
「友達候補よ、やったわ。」
ダリルに教えなくっちゃ。
早く、ダリルに会いたくてしかたない。
「それにしても、他の人達は目が覚めないようね。」
クスクスとアデレードが馬車の椅子の背に身体を預けて笑う。
「もう、十分耐えたわ。」
アデレードの中で、何かの線引きがされたようだ。
サンベール公爵家に婿に来て、ショーンは自由に動かせる金額が大きく増えた。
王太子の側近としての収入もいれると、かなりの額になる。
それで、ショーンは人を雇った。
ジェリーの動向を探らせるためだ。
「ありがとう、居場所がわかったか?」
ジェリーは、キリエ侯爵家から放逐された後、行方不明になっていた。
経過報告を受けながら、ショーンが尋ねたが、いい返事は得られなかった。
ショーンが母を探すのは、母を想ってではない。
アデレードが王太子の婚約者になったことは、各国に伝えられた。
ジェリーが、アデレードの前に現れるのではないかと危惧しているのだ。
ジェリーはアデレードのトラウマだ。
何が起こるかわからない。せっかく良くなったのに。
そして、ショーンを頼ってユリシアに何かされても困る。
不安要素は潰さねばならない。




