社交界の洗礼
アデレードは、それから夜会に出るようになったが、常にダリルと一緒とは限らない。
王太子のダリルは、執務に忙しく一緒にいられるばかりではない。
特に、昼の茶会では、王妃とは別に、令嬢達の茶会にも出るようになった。
アデレードにとって、それは公務であった。
たくさんの招待状を見て、アデレードは嫌気がさしていた。
アデレードは、若い女性達から疎外感を感じていたからだ。
理由はアデレードにはわからない。
アデレードが話しかけると、返答はするが、すぐにその場を立ち去る女性達。
話を聞いているアデレードが参加すると、話が変わったり、終わる。
王家の姫に表立ってのいじめはしないが、集団でアデレードを孤立させる。
アデレードの位は複雑である。
王家の姫であり、王女と呼ばれるが、王の娘ではない。
後援のサンベール公爵家の血縁でもない、この国の貴族ではない。
そして、アデレードの美貌、王太子の婚約者という地位。
誰かの恋人が客観的に、美しい姫だと言ったのかもしれない。
アデレードがデビューまで隠されてきたことに、憶測が流れたのかもしれない。
子供の頃から、母親に連れられて社交をしている彼女達に比べ、アデレードは経験が足りない。
「下賤の者達に拉致されて助けられたとはいえ、何があったのでしょう?
あんなにお綺麗なんですもの、何もされていないはずないわ。」
誰かが言えば、
「王太子様はお可哀そう。
ご自分で選ぶ事が出来ないのだから。」
誰かが言う。
まるで、王太子自身が選べば自分が選ばれたとでも言うかのように。
「男性達に媚びを売るのが上手いのよ。
あんなにチヤホヤされて。
ただ、綺麗なだけじゃない。」
自分より綺麗な女というだけで、レッテルが貼られる。
「元々はトルストの生まれよ。
バーランの姫などと言っても、戦争になれば裏切るかもしれないわ。」
アデレードが言った言葉などない。
彼女達が思っている事が、アデレードがそうだとされて噂されるのだ。
自分がそうされないように、集団にいる者もいるだろうが、結局はそういう事をしているのだ。
妬み嫉みがあるのだろう。
裏でいろいろ言われているのだろう、と察することはできても、アデレードが弁解する事はしない。
ああいう人達は、自分が中心でないと許せないのだ。
ジェリーがそうだったように、自分より弱いと思われる者に振るう見えない暴力である。
私にやましい事はない、とアデレードは思うが、辛いものがある。
一人孤立させられ、その場にいるのが悲しい時もある。
絶対、負けるものか、と思う。
アデレードが一人でいると、男性や夫人達が寄って行く。
それが、また若い女性集団からの孤立を深める。
ユリシアは気付いているようで、アデレードの側にいてくれようとするが、常に一緒というわけにもいかない。
アデレードは、自分がダリルの横で王妃になるという自覚がある。
いつか、この女性達を束ねていかなければならない、その為の社交である。
このままでは、いけない。
アデレードが話しかけても、さっきまで話していたのに用が出来たと立ち去る令嬢達。
キリエ侯爵邸の時のように、元々一人だったらともかく、集団の中で孤立させられるのは、悲しい。
一人一人の顔と名前を記憶に刻むアデレード。
自分が誰に何をしているか、後で思い知らせてやる、とこっそり思う。
ダリルや、王妃に告げ口などしない。
アデレード自身の手で後悔させてやると、ほくそ笑む。
だが、やり過ぎてもいけない。
どうすればいいんだろう、と考えていると、疎外されているのも気にならなくなる。
彼女達は、自分達の世界で見るから、アデレードも同じような令嬢だと思うのであろう。
間違いなく、アデレードは彼女達の頂点に立つ、力も権力も持っている。




