アデレード、ダリルを襲う
心臓が口から出そう。
頑張れ私。
アデレードは、心の中で自分を激励しながら、夜の廊下を歩く。
自室を出てから、アデレードの後ろには護衛がついてきている。
ダリルの部屋の前に着くと、立ち番の兵士に声をかける。
「アデレード・キリエ・バーランです。
王太子に取り次ぎを。」
直ぐに王太子に取り次ぎがされたが、護衛も一緒に入るようにと言われた。
「どうした?
ずいぶん遅い時間だ。」
「あの・・」
ダリルの問いに、顔を赤くしてアデレードが横目で護衛を見ながら、言いにくそうにしている。
ダリルも察したらしく、少しの間、二人にするようにと指示をだす。
護衛が部屋の外に出たのを確認して、アデレードがダリルに抱きついた。
「私、生理がきたの。」
ダリルも、王妃から聞いて知っている。
やっときたと安心した。
「もう15だし。
だから、だから。」
勇気を出して来たのだろう、アデレードは震えている。
「夜這いに来たと?」
ダリルがアデレードの髪をもて遊びながら問う。
コクンと頷いて、アデレードがダリルを見る。
ダリルはアデレードを抱き上げると、寝室ではなく、居間のソファーに座った。
膝に、アデレードを乗せたままだ。
「僕も欲しいと思っているよ。」
そっと、アデレードの頬にキスをする。
「だけど、それは今ではない。」
アデレードの瞳が、震える。
「他の男の人なんてイヤよ。
ダリルがいい!」
もうすぐ、アデレードのデビューになる。
それは、大人と認められる事。
結婚相手も早々に決まるかもしれない。
「僕は、君を正妃にしたい。
その為には、君に悪い噂があってはならない。
たとえ、僕が相手でもね。」
アデレードはダリルにしがみつく。
「ダリルが欲しいの!」
「僕の身体が欲しいの?」
コクンとアデレードが頷く。
「僕も君が欲しい。」
ダリルは気がついた。
アデレードは恥ずかしがってはいるが、情欲の雰囲気がない。
きっと、不安なのだろう。
身体を与えて、僕を繋ぎ止めようとしているのかもしれない。
「アデレード。」
「はい。」
「信じて。
僕はずっと君のものだ。」
「だって、もしかして。結婚できないかもしれない。」
信じている、けれど人の気持ちは変わる。
「お母様が亡くなって1年しかたっていないのに、新しい母親を連れてくる。
信じていたのに。」
でもね、とアデレードが続ける。
「お父様はいらない。
ダリルが欲しいの。
失くしたくないの。」
「気持ちは同じだよ。
アデレード聞いて欲しい。」
ダリルがそっとアデレードの頬をなでる。
「君の身体は、成長期に栄養が足りなかった為に、成長が遅れている。
もし今、君が妊娠したら、君も子供も安全に出産が出来る程に成長しているかが、わからない。
僕が君を抱いたら、妊娠するかもしれないんだ。
だから、もう少し君の身体が成長するまで待ちたい。」
「ダリル。」
「僕に君を大事にさせて。」
アデレードは身体にも心にも傷を負っている。
父親の無関心、義母の虐待。
少しずつ乗り越えていかねばならない。
傷はすぐにつくのに、癒すのには長い年月がかかる。
「きっと君を正妃にする。」
ダリルの言葉に、アデレードがウンウンと頷く。
「白いウェディングドレス姿の君は綺麗だろうね。
世界中に僕のものだと、見せびらかすんだ。」
「ダリル、嫌いにならないで。」
心弱いアデレード。
いつも、逆境に強いアデレードを見ていたが、こんなにも脆い。
「嫌いになんて、ならないよ。」
こんなにも求められて、ダリルの顔がほころぶ。
アデレードの身体を抱きしめて、体温を感じる。
「部屋まで送るよ。」
そう言って、触れるだけのキスをする。
「今度は僕が襲うから、楽しみにしておいで。」
ダリルの言葉に、アデレードが真っ赤になってはにかむ。
扉の外で待っていた護衛を引き連れて、ダリルはアデレードを部屋に送る。
照明の灯りが照らす廊下を、手をつないで歩く二人。
アデレードの心に、指先から温かい気持ちが流れてくる。
「信じたい。」
きっといつも信じている。
ダリルは、いつも側にいてくれる。




