処刑
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ささやかなお礼に、小話を最後に付けました。
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violet
アデレードが拉致された事件は、国内外に大きな影響を与えた。
犯人が、国内の伯爵だったということが更に衝撃を与える事になった。
ダリルは、ワイズマン師団長から報告を受けていた。
「上手く、誘導されたようです。
本人は、自分の考えだと思うように思考を誘導されたようです。
夜会で出会った第三者がいるようですが、身元も知らないようです。」
なるほどな、小さなヒントや助言を与え、本人がそう思うように仕向ける。
襲うなら、あのタイミングしかない。
確実にアデレードが王宮を出るとわかっていないと、準備が出来ない。
サンベール公爵邸と王宮は近い為に、帰るルートは一つだ。
「男は?」
「なんとか息をしています。
処刑まで殺すわけにはいきませんからね。」
実行犯達のほとんどは、もう生きていない。
アデレードが拉致され、急を要する為に過激な拷問が必要だったのだ。
「総司令、ご苦労だった。
少し休んでくれ。」
ワイズマンも、ダリルも不眠で対処にあたっている。
背後関係はなかった。
だが、ハイデル自身が何者かに踊らされていただろう。
あれだけの奇襲をしながら、伯爵邸の警備が疎かなのは、襲ってくださいと言わんばかりだ。
人払いをした執務室に小さな足音が響いた。
ダリルは、ソファーの背もたれに預けていた身体を起こし、頭を覚醒させる。
「しー。」
聞きなれた声がする。
アデレードが、ダリルが座るソファーの横に座る。
「ごめんなさい、起こしてしまったわ。」
「大丈夫だ。そろそろ起きる時間だからな。」
ほんの少し仮眠を取っただけだ。する事は山ほどある。
アデレードがダリルの手をとって微笑む。
「ダリル、助けてくれてありがとう。」
可愛い。
「本当は、とても怖かったし、不安だった。」
わかっている、君はそんな時こそ、頑張るんだ、とダリルは思う。
優しく唇を重ねる。
「身体はどうだ?」
今にも唇が触りそうな距離で、ダリルが尋ねる。
頬を紅潮させ、アデレードが答える。
「問題ないわ。
頭を打ったけど、ゆっくり寝たから。」
今度は、深く口付ける。
疲れたダリルの身体に活力が出てくる。
思考力が戻ってくる。
「君は、僕のカンフル剤だな。」
クスッとダリルが笑う。
恋とは、こんなにも力を与える。
あの男もそうだったのだろうか、間違っていたが。
ダリルはアデレードの手を取り、指を絡ませる。
「アデレードに聞きたかったんだ。
どうやって逃げて来た?」
あの時、犯人の馬を奪って逃げてきたのはわかったが、問いただしている時間はなかった。
アデレードの説明を聞いて、ダリルが顔色を変える。
「走る馬車の扉を開けただと!?」
そのまま落ちてしまう危険が大きい。
よくぞ、これだけの行動力があったと誉めてやりたいが、心配が先にでる。
「ダリルの元に帰りたかった。」
アデレードに言われて、嬉しさが込み上げる。
「僕が君を取り戻さないはずがない。」
「来てくれたわ。」
笑顔をうかべるアデレードに見とれる。
美しくなった。もうあのガリガリの面影はない。
だが、あの不屈の根性が息づいている。
もし自分が攫われたら、きっと助けにくるだろうとさえ思う。
ダリルは、クックッと笑いながら立ちあがった。
「仕事の時間だ。
会えてよかったよ。」
もう一度口づけして、アデレードを部屋の外で待っている護衛にわたす。
王家の姫を王都で攫われた、それは国を揺るがす事件だ。
アデレードを取り戻し、無傷である事を公表した。
それはアデレードがナデラート伯爵領に向かっている間に行われたので、アデレードにはわからないが、王による発表だった。
処分も大々的に行われないと、国の威信にかかわる。
公開処刑になる。
バーラン王国でも何十年ぶりかの事だ。
しかも、当人だけでなく、一族となる子供も処刑となる。
子供の処刑は、賛否が出たが、国への謀反を起こした事への見せしめが必要であった。
アデレードにとって、それは辛いものであった。
アデレードのせいではない。
だが、アデレードの存在がナデラート伯爵の人生を狂わせ、子供も合わせて処刑となる。
その日は、雲ひとつない快晴だった。
王宮前の広場に人々が次々と集まる。
アデレードが拉致されてから、5日後の事だった。
自室に閉じ籠り窓を閉めても、外の歓声が聞こえる気がする。
ナデラート伯爵は自業自得だが、子供に罪はなかった。
アデレードは、逃げない。
ジェリーを狂わせたのは、カーライルなのかアデレードなのか、それはわからない。
キリエ侯爵邸の生活を思い出してしまう。
カチャ、アデレードの部屋の扉が開かれ、ダリルが入ってきた。
ダリルは処刑に立ち会ったのだ。
「全て、終わったよ。」
アデレードはダリルに抱きつき、声をあげて泣いた。
「今だけ、泣かせて。」
ダリルは返事をするように、アデレードを強く抱きしめた。
アデレードは、こっそり軍の練習を見に来ていた。
護衛はついてくるが、離れている為に目立たない。
フルーラとユリシアと出会ったのもここだ。
それもあって、久しぶりに来たのだ。
たくさんの令嬢達が黄色い声援をあげて、応援をしている。
今日は、ダリルが訓練の視察に来ると聞いたのだ。
「王太子殿下よ!
ステキ!」
誰だ?今言ったのは?
アデレードの耳がピンと反応する。
私のよ!
言いたい、でも言えない。
こっそり覗いてもアデレードの姿を隠すことはできない。
「見慣れないご令嬢ね。」
「まだ、若そうよ。」
アデレードを見つけた女性達の会話が聞こえるようだ。
ここの常連だったユリシアが来なくなって、集う女性達も変わったようだ。
「あの・・ごきげんよう。」
アデレードが女性に声をかけると、向こうも反応する。
「貴女、どなたを見に来たのかしら?」
黄色いドレスの女性が聞いてくる。
「あの、王太子殿下を。」
「まぁ!殿下は素敵ですものね。」
ほらこっち、と呼ばれる。
アデレードは目立つが、女性の団体に入ってしまえばわからない。
呼ばれるままに行くと、場所を開けてくれた。
「きゃーー!」
後ろであがる喜声。
ビクンとするアデレードに先程の女性が声をかける。
「ほら、王太子様よ!
頑張れば振り向いてくれるかもよ!
貴女、頑張りなさい!」
「は、はい。王太子様。」
「声が小さいわよ。」
周りからは、騎士の名を呼ぶ声。
「フランドル様!」
「ケイデン様よ!」
2年前と違った人気者もいるようだ。
「王太子様もステキだけど、手が届かない人だもの。
あの長剣を振っているのがビューモント様よ。」
黄色いドレスの女性が説明をしてくれる。
アデレードが脇目をせずに、王太子の動きを追っていることに気がついたのだろう。
「王太子殿下はステキだものね。」
コクン、とアデレードが頷くと、女性達は微笑ましそうに見る。
「王子様には、誰もが一度は憧れるのよね。」
ダリルが兵士に指示をして訓練をしていたが、自身も剣を持ち参加しだした。
カッコイイ。
今日はダリルに気づかれずに堪能できたわ。
ふふふ、とアデレードが微笑む。
幸せと、アデレードが頬を抑えても、女性の団体の中では誰にも気づかれない。




