表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/78

犯人の捜索

ダリルは捕まえた男をバーラン兵士に引き渡すと、アデレードの元に戻ってきて、抱き締める。

「ケガはないか?」

「多分。」

アデレードがクスッと笑う。

「まだ、興奮していて、よくわからない。」

頭を打っているし、男を馬から落とす時に、どこかにぶつけた気もする。


「よく、逃げてきた。

目撃者が、手前の町から無くなっていたのは、街道を外れて走っていたからだな。」

あのまま見失っていたらと思うと、背筋に汗が流れる。

どんなことをしても取り戻したであろう。だが、時間がたつと、女のアデレードは無傷ではすまなかったろう、という思いが込み上げてくる。

さらにアデレードの心に傷をつけるなど、許されない。


アデレードは、囮にした外套を脱いでいるので、結婚式に参列したドレス姿である。

ダリルは上着を脱ぐとアデレードに着せた。

「着ていなさい。」

アデレードは袖を通すと微笑む。

「温かい。」



「殿下、辺りをくまなく探しましたが、他の人間の姿は見えません、

御者と騎乗の人間合わせて5人のようです。」

兵士の報告にアデレードが顔を上げた。

「ええ、馬車の中には私一人でしたので、5人でした。」

アデレードの言葉を確認して、ダリルが指示をだす。


「王都で矢を射った者達も確保しているはずだ。

それらと合わせて、司令塔の地下牢に入れておけ。

さて、トルストの馬車だが、どうするか。」

ギリアン達の馬車は、バーラン兵士によって止められたままで、前方で何かあったことはわかっているはすだ。


「殿下。」

声をかけたのはショーンだ。

「キリエ侯爵とギリアン王太子と話してきました。

関係なさそうです。」

「何故言える?」

「王都の襲撃は意表をつき、用意周到なものでした。

その割りに、トルスト王国の馬車のルート近くを走らすとは、お粗末すぎます。

バーランとトルストが緊張関係にあり、トルストに向かえば、そのまま開戦になるかもしれません。

僕が襲撃犯なら、自国には直接向かいません。

第3国を経由するでしょう。」

なるほどな、とダリルも納得する。


「トルストとバーランが開戦して利益を得る、もしくは優位に立てる人物が、国もアデレードも両方狙ったと考察できます。」

その罠にはまるわけには、いかないな、ニヤリとダリルが笑う。

「ショーン、オットー・アレクザドルはどうしてる?」

「すでに、確認に向かわせてあります。」

グレッグの意を受けて、オットーが動いたと考えてもおかしくない。

証拠を残すようなことはしないだろう。


だが、アデレードを拉致して許されると思うな。

必ず報復してやる。

「ダリル?」

アデレードがダリルの腕にすり寄りながら言う。

きっと来てくれると思っていた。アデレードの小さな囁きはダリルにも届く。

ダリルは何も言わず、アデレードを馬に乗せると自分は後ろに乗り、王宮に向かった。


「ショーン、キリエ侯爵とトルスト王太子には帰国を許可する。

緊急事態ゆえの非礼を詫びておいてくれ。」

結婚式の夜だというのに、ショーンはもうしばらく、ユリシアの待つサンベール公爵邸に帰れそうにない。

ショーンはトルスト王国の馬車に行くと、簡単な事情を説明し、馬車を見送った。



「姫は無事なのか?」

ギリアンが言った言葉が、ショーンの頭に残る。

軽薄な王子と思っていた。

だが、3年で成長したのだろう。

気まぐれな想いなら、すぐに気が移るだろうが、困った事になるかもしれない。

ゲームで負けた腹いせに、痩せ衰えたアデレードの顔のすぐ横へチェスの駒を投げつけた王子。

ショーンの頭から消える事はない。


トルスト王国の馬車が夜の闇の中に消えると、ショーンはサンベール公爵邸に戻った。


アデレードが戻った、これから先は軍人達の仕事だ。


「ユリシア、待たせてごめん。」

「アデレードは!?」

公爵邸に着くと、ユリシアが飛び出してきた。

「大丈夫だよ。連れ戻した。

王太子殿下がついている。」

「そう、よかった。」

ほ、と息を吐いてユリシアが微笑む。


「僕は最高に幸せ者だ。」

妹をこんなに大事にしてくれるユリシア。

「もっと、幸せにしてあげてよ。」

ふふふ、と笑うユリシア。

サンベール公爵邸に穏やかな夜がやってくる。



王宮では、嵐が吹いていた。

王宮の目の前で、アデレードが攫われたことで、王は怒りを隠せない。


アデレードの帰還で落ち着いたが、王妃の嘆きも大きかった。

ダリルはアデレードを連れて帰ると、王妃に預け、王への報告に向かう。


これから、捕まえた犯人達への訊問、現場報告と朝になっても終わらないだろう。

王宮の中を軍部に向かうダリルの足音が響く。


捕まえたのは、ショーンの言うとおり、実行犯だろう。

どこかに、指示を出した犯人がいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ