ショーンの結婚式
ダリルの結婚は、国内でも問題となりつつあったが、ダリル本人が断っているため表面化することはなかった。
それに反して、アデレードの結婚は議会で取り上げられる事も多くなった。
王や王太子の意に反して、アデレードを他国に嫁がせる事による優位条約に期待する貴族が多い。
貴族議員議長のサンベール公爵が、押さえてはいるが、戦争が近い状態が続き、戦争を避ける為か、戦争を勝利する為にアデレードを希望する者が多いのだ。
グレッグ・アレクザドル。
アデレードを正妃にと、強く希望がしている事が一番の理由だ。
アレクザドル王国では、王太子とグレッグの対立が激しくなり、国を2分しての争いが長く続いているが、グレッグが優位との情報がある。
グレッグが、王太子となり、国内が落ち着くと、アレクザドル王国が他国に進攻を始める事は明らかであった。
そうして、大国になった国だからだ。
そして、ショーン18歳、ユリシア20歳。
ショーンが学校を卒業し、結婚式の日になった。
貴族の最大派閥の長、サンベール公爵の一人娘の結婚式である。
婚約が発表された時、ショーン・キリエの名を知る者はほとんどいなかった。
だが、今は誰もが知っている。
この3年で、ショーンが設計した幾つかの建造物が完成したからだ。
最初の頃、ショーンが学生で外国人で、まだ15歳ということは大きな反感を生んだが、発表された設計が認められるにつけ、ショーンへの信頼は高まっていった。
それは、国内だけでなく、他国の関心も集めるものだった。
ショーンが、サンベール公爵領の山間部にトンネルを掘り、流通網を整備した事で、公爵領は交通の要所の一つとなった。
港への最短ルートが出来、公爵領に繁栄をもたらした。
トンネルの技法は斬新で、強固なものであった。
ショーンはこの3年で背が伸び、ユリシアより頭一つ高くなった。
元々、大人びた性格だった為、ユリシアの方が年下に思われる事も多い。
大聖堂には鐘が鳴り響き、着飾った貴族達が集まっていた。
ウェディングドレス姿のユリシアは美しかった。
3年の時間をかけて準備したドレスは、緻密な刺繍が施され、長いレースのベールが広がっていた
ユリシアとショーンは、お互いに信頼を深め、愛情を育てており、仲睦まじい新郎新婦に、祝福の鐘が鳴り響く。
サンベール公爵家の結婚式とあって、国内だけではなく、国外からも参列者が来ていた。
ショーンの名が知れ渡ったことで、他国からの依頼もあったが、王太子の側近であり、サンベール公爵領の仕事もある為に受ける事はなかった。
人々の注目を集めたのは、新郎新婦だけではない。
参列者の中にもいた。
一人はアデレードである。
アデレードは、王妃の茶会に出席するようになっていたが、それでも、限られた高位貴族の夫人の茶会では、人目に触れることはない。
もう一人は、グレッグ・アレクザドルの弟、オットー・アレクザドル王子。
グレッグの代理で来ている。
サンベール公爵家との深い親交はないが、バーラン王国の視察に来ている。
そして、もう一人。
ギリアン・トルスト王太子。アデレードの元婚約者である。
トルスト王国では、ショーンと学友であった。
緊張関係にある国の王太子、キリエ侯爵が横に控えている。
アデレードを見るのは3年ぶりである。しかも、ロクサーヌに似ている。
カーライルの瞳は、潤んでいる。
オットーも、ギリアンもアデレードから目を離さない。
視察の目的はアデレードなのであろう。
アデレードは3人を始め、数多の視線を感じていたが、完全に無視である。
意地でも見るものか、と微動だにしない。




