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アデレードの策略

イスニラとアデレードの会話は、表面的には穏やかになされた。


イスニラにとっては、もっと歓迎されると思っていた。

アデレードが来るまでの茶会は、自分を中心に会話されていた。

王妃をはじめ、高位貴族の夫人達なのだから美しい夫人が揃ってはいるが、イスニラは若かった。

その分、自分の方が美しいとイスニラは思っていた。

それが、アデレードの出現で状況が変わり、夫人達の興味はアデレードに移った。

自分を売り込む為に、来たのだからこのままでは帰れない。


「この庭園は素晴らしいですわね。

あの赤い花は、何でしょう?我が国では見たことがない花です。」

イスニラが庭の奥に見える花を聞く。

「あれは、レンカです。

普通のレンカを品種改良しましたの。」

王妃が説明をし、侍女に枝を取って来させる。


「レンカの花は、もっと小さく薄いピンクですわ。

こんな改良ができるのですね。」

花一輪を手に取り、イスニラが綺麗と言うと、周りからも、綺麗ですわね、と声があがる。


「よろしければ、庭の群生しているところにご案内しますわ。」

アデレードが、王妃の方を見て、いいかしら、と確認する。

「いってらっしゃいな。」

王妃の許可がでて、アデレードは立ち上がり、王妃を挟んで反対側のイスニラの席の近くに行く。

王妃がそう言うと、イスニラも立ちあがるしかない。


「ここから見るより奥に群生していて、みごとですのよ。」

まるで、手を引かんばかりに案内するアデレード。

アデレードとイスニラが並んで歩けば、余計に対比が明らかになる。


イスニラは元々美しい顔立ちだが、濃い化粧でさらに飾っている、夜会にでも行けそうである。

アデレードは、まだ14歳で、昼間の茶会という事もあり、薄く紅をひいているぐらいだ。


所々に警備兵が配置されている為、護衛をつけず二人の後を少し離れて侍女が付いて行く。


アデレードが摂食障害の時期は、食べ物が食べれないだけでなく、虫にも恐怖した。

それが、今は虫がいるだろう庭の奥にも行ける。

馬で遠出して、森の湖に行く事は、それも克服できたのである。


「イスニラ姫、こちらですわ。

手前の花が、鈴蘭、デイジー。可愛いでしょ。」

アデレードが花の説明をして奥に入っていく。

アデレードのシンプルなドレスは、スムーズに進むが、イスニラの飾りたて、ペチコートで膨らんだドレスは、庭の小路(こみち)に出ている枝に引っかけてしまう。


ドレスが破れる程ではないが、イスニラのイライラが(つの)っていく。

しかも、庭の奥の路の敷き詰められたタイルの隙間に、イスニラのピンヒールが挟まる。

「ああ、もう!」



「どうされましたの?」

先を行くアデレードが振り返る。

「ねぇ、イスニラ姫。

何でも思い通りになると思われたの?」

アデレードの小さな声は、届かない。


クスクスと笑いながら、アデレードがイスニラに手を差し出そうとした。

アデレードが来るまでは、自分が茶会の話題だった。

しかも、アデレードは美しい。

腹立たしくって仕方ない。


バチン!!

大きく振り払った手は、アデレードの手を叩くような形になってしまった。

そのまま、バランスを崩したようにアデレードが倒れてしまう。

「きゃああああああ!!」

後ろを歩いていた侍女の声が辺りをつんざく。


かけてくる警護兵。

「誰か!!」

「アデレード姫がイスニラ姫に叩かれました!」

「医師を早く!」

侍女達の声が響き、サンドラ達も駆けつけた。


倒れた時の打ち所が悪かったのだろう、アデレードの意識はない。

「アデレード!」

サンドラが声をかけるが、返事はない。


その側に呆然と立ち尽くすイスニラ。

ちょっと振り払っただけ、倒れる程の事していない。

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