アデレード始動
振り向いた誰もが見惚れる。
ゆっくり笑みを浮かべ、ゆっくりと王妃の横に立つ少女の美貌。
どこにも痩せて惨めな少女はいない、ダリルに愛され、洗練された侍女達に磨かれ自信を取り戻した姿。
「アデレード、もちろんよ。
誰か、私の横に席を用意してちょうだい。」
サンドラが侍女に指示をする。
イスニラは突然現れた少女に驚くが、王妃を伯母と呼ぶ娘。
披露された後、公の場に姿を見せない姫だとわかった。
アデレード、そんな名前だったか・・。
この子に、優しい姉と思わせれば、王太子妃の座が近くなる、イスニラの脳裏に浮かぶ。
「皆さま、ごめんなさい。突然おじゃましてしまいました。」
アデレードが可愛く挨拶をする。
幻姫と呼ばれるアデレードの姿を見れたとあって、喜ぶ者ばかりで、嫌がる者などいない。
彼氏にちょっかいかけようとする女を、放置するアデレードではない。
もちろん、彼氏がダリルだと言う程のバカではない。
だが、思い知らさねばならない。
イスニラに、ニッコリ微笑むとアデレードは着席した。
「大切なお客様と聞いて、ご挨拶に来ました。
アデレードと申します。」
アデレードのドレスは、ピンクの花柄のシルク。
イスニラの胸を強調したドレスとは、反対に清楚で品よく首元まで、レースの襟でつめている。
「あら、やっぱりいいわね。」
サンドラがアデレードのドレスを誉める。
「義伯母様のお見立てですもの。
とっても着やすいのよ。」
義伯母と姪というよりは、仲の良い母と娘である。
アデレードは立ちあがり、席の後ろでフワリと回転して、ドレスを見せる。
初々しく、可愛い仕草である。
横目でイスニラを見ると、視線が合う。
クスッと笑ってみせると、さすがに分かったのだろう、イスニラの眉があがる。
話題の中心はアデレードに変わる。
披露の夜、人々が見たアデレードより、陽の光の元で見るアデレードはもっと美しかった。
摂食障害という状態から、立ち直ったからだ。
今も、食べるのに苦労する事もあるが、克服したという自信がアデレードを美しくしている。
数年前は、骨のういた気味の悪い痩せすぎの子供だったと想像する人は、事情を知っている人間以外いない。
ジェリーに教師を解雇され、自分で本を読むぐらいしか勉強の機会が無くなったアデレードにとって、教師に勉強を教えてもらうのは楽しい事だった。
各国の事も勉強した。
友好国であるスタンブル王国の事も勉強した。
イスニラはアデレードの事を知らないが、アデレードは知識を持っていた。
きっと国では、甘やかされていたのだろう。
王女らしく高慢なところもあるだろう。
堂々とダリルの妃候補と名乗れる事が羨ましい。
この人は知らないから、王太子妃を狙っているんだろうけど、私がいるのよ。
アデレードに複雑な思いが渦巻く。妬ましい、ダリルは自分のものだと思い知らせたい。
自分が成長期に栄養不足の為に、成育が遅れている自覚はある。
ダリルの妃になれたとして、子供が産めるのか・・・
イスニラのふくよかな身体なら、問題ないのだろうと思う。
だからといって、諦めれるはずもない。
たたき潰す。
最初からわかって、ここに来たのだから。
ユリシアと侍女を、街で暴漢に襲わせただろう人物なのだ。
注意が必要だ、落ち着け、と自分にいいきかすアデレード。
「イスニラ姫は、経済の勉強で来られたとお聞きしました。
具体的にお聞きしたいわ。
この国の商業組合の事はどう思われますか?」
ダリルに会うために来ているとわかっているのに、あえて経済の事を聞くアデレード。
「商業組合?
いえ、これからですの。」
イスニラの方も、アデレードが見かけの通りでないと分かってきたのだろう。
「街の取りまとめとしての機能も持っていますので、是非見て帰ってくださいね。」
ニッコリとアデレードが言う。
「王太子殿下にはお会いになりましたか?」
アデレードがイスニラに聞くのを、周りも注視している。
「ええ、とても素敵な方ですのね。
我が国も、更に友好関係を強化したいと思っていますの。」




