男達の焦燥
夜会から2日経って、ダリルは男の詳しい資料を手にしていた。
グレッグ・アレクザドル、アレクザドル王国の第2王子だが、兄より期待されているとある。
アレクザドル王国は、王に後宮があるので、王子、王女も多い。
その王女の一人をダリルに打診する為に、王子が来ているようだった。
アデレードに目を付けた。
ダリルには、わかった。同じ女を見ていたのだから。
王の寵を争う後宮には、美女が集められているのだろう。
グレッグも美しい母から生まれたようで、美しい男だった。
見かけほど、中身は美しくなさそうだったが。
きっと、王位を狙っているのだろう。
好戦的な国と知られているアレクザドル王国の王家が、好戦的でないはずがない。
「ダリル、お前にアレクザドル王国の第3、第4、第5王女との縁談が来ている。」
「3人?どういう事です?」
ダリルにルドルフが呆れたように答えた。
「気に入った王女一人でもいいし、3人共でもいいそうだ。」
さすがにダリルも呆れる。
「王女は、馬か豚ですか?
そんな王女を娶っても、いざとなったら簡単に切り捨てるでしょう。」
ダリルが突き放すように言うのを、ルドルフも同意する。
「条件は、ヌレエフ国を折半だそうだ。」
ヌレエフ国は、バーランとアレクザドルの間にある共和国で、バーランとは友好条約を結んでいる。
暗にアレクザドルが、ヌレエフに進攻すると、言っているのと同じだ。
「僕は、ヌレエフに付きますよ。」
ニヤリとダリルが笑うのを、ルドルフも追随する。
「問題は、トルストとアレクザドルの戦争が重なった時だな。」
地域の違う両国に部隊を派遣するなど、無理だ。
ルドルフもグレッグに気がついていたのだろう。
王が面白そうに言うのを、ダリルは舌打ちして答えた。
「アデレードを与えて、王位争奪の援護をするなどありえません。」
戦争を重ならないようにするには、方法はたくさんある。
アデレードを与えて懐柔するのが、一番簡単で確実だが、一番ありえない方法だ。
ダリルはマックスとショーンを呼ぶと、ヌレエフとアレクザドルの国境調査の段取りを始めた。
トルスト王国でも、戦争の準備が進められていた。
当然、間諜をバーラン王国にも忍ばせている。
王と王太子は、アデレードが披露された夜会の報告を受けていた。
儚げで美しい姫君、そう報告されたアデレードに、ギリアンは驚くばかりだ。
あのガリガリで痩せぽっちのみすぼらしい女が、美しいだと!?
ギリアンの記憶のアデレードは、気持ち悪い程に痩せた子供だ。
「母親のロクサーヌ姫は、絶世の美女と言っていいほどの美貌であった。
キリエ侯爵も美丈夫である、二人の子供なのだから、さぞ美しくなるだろうとわかっていた。」
王の言葉に、ギリアンは耳を疑う。
「父上は、アイツに会った事がないから、そう言うのです。
病気とはいえ、貧弱な子供でしたよ。」
「ギリアン、後になって解った事だが、アデレード姫の細さは病気ではなかったのだ。
後妻に入った女が食事を与えなかったのだ。
ロクサーヌ姫の葬儀で見かけたアデレード姫は、子供ながら美しかったからな。
妬まれたのだろう。」
後妻ということは、ショーンの母親だ。
ショーンが、突然学校に来なくなり行方不明になった。
それが、バーラン王国の公爵令嬢と婚約の情報。
そこにはアデレードもいる。
バーラン王国の策略が最初からあったのではないか。
子供ながらに美しかった。
自分の知らないアデレード。
王の言葉が甦る。
ギリアンの中に、アデレードに騙されたような思いが湧き起こる。
ショーンも分かっていたのだ。
なにより、今のアデレードに思いを馳せる。
何とか姿を見れないものか・・・
アデレードが嫌で婚約解消したくせに、焦れる。




