3人の父
国王の指令書の元に、ボルド・ガルダン、フルーラ・ボナペリの処刑が秘密裏におこなわれた。
立ち会い人は、ダリル王太子、サンベール公爵。
ガルダン伯爵家とボナペリ子爵家には、第一司令官ワイズマンよりアデレードの名を伏せて、謀反の説明がありすでに処刑された事を知らされた。
内密にした為に、本人だけの処罰で済んでいるが、騒ぎたてると爵位降格となるとの話に、ボナペリ子爵家は納得がいかないようだった。
「娘がそんな事するはずありません。
王太子妃にと望まれるような自慢の娘です。」
どこから王太子が望んだと出てくるのかが不思議だ。
「王太子殿下は、フルーラ・ボナペリを望んでなどいない。
フルーラ・ボナペリは、複数の男性と交遊関係にあり、王家にあだなす人間として、王太子自身が処分された。
罪状は、サンベール公爵令嬢の誘拐ではない、王家に対する謀反だ。」
「娘はそんなことしません。」
子爵が反論する。
「公爵令嬢と王家の人間を拐い、殺そうとした現場で取り押さえられた。」
「王家の人間とは誰です?!」
「今は、それを公表しないから、内密なのだ。
そうでなければ、子爵家はなくなっている。」
司令官の中で、ボナペリ子爵家への警戒が強まっていく。
娘を処刑されて、信じられないのだろうが、少し調べれば、フルーラの所業は解ったはずである。
ましてや、頻繁に登城して、高位貴族の男性にアピールしていたなら、尚更だ。
ボナペリ子爵との接見を終えた司令官は、暗部を呼び寄せ、ボナペリ子爵の動向を見張るように指示した。
ガルダン伯爵の方は、次男のしでかした事で憔悴しきっている。
昨夜のうちに、サンベール公爵から知らされたガルダン伯爵は、直ぐに公爵邸にやって来た。
父として、ユリシアの叔父として、貴族として、王の配下として責任を感じ、ユリシアに膝をついて謝っていた。
「兄上、申し訳ありません。
私の首で済むなら。」
ガルダン伯爵がサンベール公爵の前に立つ。
「同じ事を、私も王太子殿下に申した。」
伯爵は兄である公爵の話を聞いている。
「ユリシアに婿を取る事になった。
王太子妃候補などになっているから、危険な目に遭うのだ。」
「ユリシアの婿という程だ。
さぞや名のある貴族なんだろう?」
「いや、ただの留学生で爵位はない。」
「兄上!
ユリシアが何と言ったかしれませんが、認めるなんて!」
爵位のない留学生と聞いて、伯爵はユリシアの恋愛相手と思い込んでいる。
「ユリシアは何も知らない。まだ伝えていない。
相手を気に入っているのは、私と王太子殿下だ。
素晴らしい才能だ。まだ15歳ということが信じられない程だ。」
「その男がうちのボルグより優れているというのか。」
「そうだ。」
サンベール公爵の言葉に、ガルダン伯爵はうなだれる。
「もっと早く、ユリシアが婚約していれば、ボルグも変な期待を持たなかっただろうに。」
父として、息子を思う気持ちは捨てれないのだ。
「悪い兄上。
一番悪いのはボルグだと分かっている。」
伯爵が肩を落とすのを、子供を持つ父としてサンベール公爵は見ていた。
ボルグとフルーラの処刑を見届けたサンベール公爵は、王への報告を終え、帰宅するとユリシアを呼んだ。
「お父様、お呼びと聞きました。
お帰りなさいませ。」
「ああ、身体の方はどうだ?
少し話しがあってね。
ラーニアも呼んでいる、直ぐにくるだろう。」
公爵は、侍女をさげさせると自ら茶を淹れ、ユリシアに出した。
「お父様がお茶を淹れられるとは、思いませんでしたわ。
いい香りです。」
ふふふ、ユリシアが笑顔を見せた時に、公爵夫人が部屋に入ってきた。
「ユリシア、起きていて大丈夫なの?」
大事をとって、ユリシアは今日一日ベッドにいたのだ。
それを公爵夫人は言っている。
「大丈夫です、お母様。
お父様がお茶を淹れてくださいましたの。」
公爵は夫人にもお茶を淹れると、テーブルに置いた。
「二人に話がある。
今日、ユリシアの婚約が決まり、陛下に許可を頂いてきた。」
ユリシアの顔色が一瞬にして変わる。
王太子との婚約と思ったのだ。
王太子がアデレードと相愛なのは、見てわかった。
「ユリシアに婿を取る。
ショーン・キリエ。
以前、街でユリシアを暴徒から救ってくれた留学生だ。
昨日も助けてくれたんだろう?」
公爵がユリシアに聞いてくる。
「ええ!
王太子殿下でなければ、誰でもいいわ。」
ユリシアに血色が戻ってくる。
「貴方、ユリシアを助けてくれたのは感謝しますが、まだ若い留学生でしょ?」
公爵夫人は不本意そうだ。
「爵位もない留学生だが、我が家が爵位を与える。
彼は、ユリシアと一緒に誘拐されたアデレード姫の義理兄にあたる。
土木の才能はすばらしく、」
「なんですって!?」
公爵の言葉を遮るように、ユリシアが声をあげる。
「お父様!
私、アデレードの姉になるの!?
ステキ!!」
お父様、よくやったわ、とまで言っているユリシア。
「あの娘、細くて小さいのに、凄いバイタリティなのよ。」
ふふふ、とユリシアが満面の笑顔になる。




