地下の部屋
残虐なシーンがあります。
お気を付けてお読みください。
ダリルは軍司令塔に向かった。
アデレードの意識は戻らない。
医師は外傷もなく、衰弱した為に眠っているだけといっていたが、しばらくは目を覚まさないだろうとも言っていた。
穀物庫に飛び込んだ目が映したのは、ユリシアを背負うアデレード。
ユリシアを連れて逃げるつもりだとわかった。
ナイフを持った男達に襲われているのに、諦めないアデレード。
あの細い身体で、どうやって背負ったのか、力を最後まで振り絞ったのだろう。
司令塔の地下に拷問室がある。
ボルドとフルーラはそこにで訊問を受けている。
「どうだ?
他に吐いたか?」
ウォルフを連れたダリルが扉を開けながら、中にいる人物に問う。
「兄上。」
中にいたのは、マックス、ショーン、べイゼル。
そして第一師団長ジョルジュ・ワイズマン。
アデレードに騎士の警備をつける以上、師団長には事情を話してある。
部屋の奥には、指がありえない方向に曲がったボルドがいた。
口からは血を流し、痛みに呻いている。
「意識はあるのか?」
ダリルが聞くと、ベイゼルが答えた。
「訊問が必要ですから、意識をなくすような事はしません。」
そうか、とダリルは横目で見る。
「この男は、アデレード姫を知らない。
ユリシア嬢を殺せれば、よかったようです。
アデレード姫を犯人に仕立てようと言ったのは、フルーラらしい。」
拷問をしたのはベイゼルで、訊問を師団長がしているようだ。
マックス16歳、ショーン15歳。
拷問を見るのも初めてだろう、顔色は良くない。
拷問されているボルドの生まれは、公爵家の婿として望まれた程だ、甘やかされていたのであろう。
自分の思い通りにならないと、結婚したかもしれない従妹を殺そうとする。
失敗して、拷問部屋に連れて来られただけで、すぐに白状した。
自分に甘い、ということだろう。
「他に協力者の名をあげよ。
お前達だけでの計画ではなかろう。」
師団長がボルドの前に立つ。
ベイゼルがボルドの腕を後ろからねじ上げている。
「うわあああ!
知らない、知らない!
名前を知らないんだ!!
フルーラが連れてきた男だ。」
「いつの話だ?」
「・・3週間前だ。
その時にこの計画が話されたんだ。」
「蜂を放したのは、お前の計画か?」
「違う、男だ。
バラ園に必ずユリシアを連れてくるように言われたんだ。」
ゴキッ!
「ぎゃあああ!!」
ボルドが肩を押さえてのたうちまわる。
「痛い!痛い!!」
肩の関節がはずされたのだ。
「知らない!本当に知らないんだ!」
うああ、とボルドが肩を押さえているが、その指も折れている。
「モルディア、これ以上しても無駄だろう。」
師団長が、ベイゼルの労をねぎらう。
「ご苦労だった。ベイゼル・モルディア。」
声をかけたのはダリルだ。
拷問は、施行する人間にも精神的に大きな負担となる。
ベイゼルはボルドの肩の関節をいれたが、痛みの全てが収まるわけでもない。
関節をはずした時に、骨や神経が損傷している。
ベイゼルは手袋を外すと、机の上に置いた。血の一滴も着いていない。
控えていた騎士の二人が、ボルドを牢に連行する。
痛みで立ち上がれないボルドを支えるようにして、牢に向かうが、今宵一夜の命しかない、と誰もが分かっている。
入れ替わりにフルーラが連れて来られた。
そこにダリルがいるのを見ると、フルーラが駆け寄ろうとするが、縄で縛られ動けない。
「王太子様!
助けて、この人達が!」
どうして、助けてもらえると思うのかが不思議である。
「この場で処刑したいぐらいだ。」
呼ばれるだけでも嫌悪するらしいダリルが言う。
「あの女がアデレードに罪をなすりつけて、殺そうとしたと思うと、この手で処刑したくなるな。」
アデレードは利用されたのだ。
フルーラと会った日は、楽しそうに話していたアデレード。
継母から解放され、新しい土地で友達が出来た事は、アデレードの心を癒し、摂食障害から大きく抜け出た。
食欲が出て、食べれる物が増えていき、体重は増え、身長も伸びた。
随分、女の子らしい身体になってきたのに、逆戻りしなければいいが、と誰もが思う。
「どうして、アデレードに罪をなすりつけようとした?」
ダリルが椅子に縛られたフルーラに問いかける。
「私、そんな事してない。
アデレードが私をあそこに呼んだのよ。」
ダリルが騎士の方を見ると、騎士が動いた。
フルーラの目の前に湯が煮え立った鍋を置く。
「ひっ!」
フルーラが息を飲む。
「あんな爵位もない貧乏貴族の娘どうなってもいいじゃない!
あの娘がみすぼらしいから、みんな騙されているのよ!
私は騙されていたのよ!」
叫ぶようにフルーラが自分は悪くないと言い張る。
「アデレードに爵位はない。
王家の姫だからね。」
ダリルがクスッと笑って言う。
口元は笑っているのに、目は笑っていない。
「アデレードには密かに護衛が付いていた。お前の行動は調べられている。
それでも、アデレードが騙したというか?」
「ち、違う。
そんなこと知らない・・・」
青くなって言うフルーラの腕に、熱湯がかけられる。
「きゃああ!」
ドレスの袖が火傷した腕に張り付く。
「嘘はばれるんだよ。
アデレードがお前を呼び出すはずないだろう。
お前に攫われたのだから。」
ダリルは楽しそうに、フルーラに言う。
「アデレードは、殺されかかって、もっと恐かっただろうに。
細い体で無理をして、もっと痛かっただろう。
それでも諦めない、僕のアデレードだ。」
「さて、お前達に計画を与えた男の話を聞こうじゃないか。」
痛みに震えているフルーラが、苦しげに声を出す。
「次は顔がいいか。」
ダリルが騎士の方を見る。
「王宮で声をかけられたの!」
フルーラの叫び声の様な声が響く。
「明日は、サンベール公爵も立ち会う。
今日はご苦労だった。」
そう言って、ダリルは地下の部屋を後にした。




