2章 第14話 [とっておき]
「お、おい…なんなんだよ…その姿…は……?」
慶一は気が抜けた声で、神々しい光を放つロゼにそう聞いたが今のロゼは言葉を理解できないのか、無言でどこか遠くを見ていた。
「…………………」
その後もロゼが全く喋る様子は無く、動く様子も一切なかった…。
それを見てさっきまで、武者震いで動けていなかったジャミルがまた強気になる。
「フフッ、翼が生えただけで何も変わっていないじゃないか…だがしかし、さっきまで感じていたあいつの魔力が全く感じ取れないな…翼を生やす時に消費しすぎたのだろうか…? まぁ良い、ユリシア!! 私の強さを思い出させてやる!!!」
そう言うと、ジャミルは足元の魔法陣から三体の人形を召喚した。 その人形達の身体中には生々しい継ぎ接ぎが施されていて、腐敗臭を感じる。
「フフッ、良いことを教えてやろう…私の人形一体一体は元々生きて生活をしていた人間だったのだよ…まぁ今はこの通り心無しの私のマリオネットだがな…フフッ……そして、お前にとどめを刺す時私のとっておきの技を見せてやろう…」
「そうか…元々は生きていたのか、その人形達は…。 だったらお前の人形達の魂は報われないままこの世を彷徨っているに違いない…」
ジャミルとユリシアはどっちも動こうとせずにお互いの行動を伺っている。
「ーーー慶一、今だったらジャミルのことを倒せるんじゃない?? この距離だったらラムズを喰らわすこと出来るんじゃない?? ありったけの体力使ってラムズ放てば倒せるんじゃない??」
シスはこの場の空気を読まないことをコッソリと慶一の耳元で呟いた。
「え、そんなことして失敗したらジャミルに真っ先に殺されちゃうよ」
「いや、殺されないわよ! 失敗したとしてもお姉ちゃんがなんとかしてくれるわ!! 雷の光でジャミルの目が眩んだ時、お姉ちゃんのとっておきの必殺技をジャミルの急所に当てればーーーー」
「もしも逆にユリシアさんの目だけが眩んじゃった場合はどうするの??」
慶一のその一言で会話はピリオドを打った。
「ピャーーーーーーーー!!!!!」
突然モッフンが大きく翼を開いて、慶一の肩の上で鳴いた。
耳元で鳴かれた所為で耳がピリピリと痛くなり慶一は手で耳を抑えた。
「痛いなぁ〜、どうした!? モッフン??」
慶一がそう訊くと、モッフンはぶんぶんぶんっと勢いよく翼を振り何かを訴えかけてきた。
「何? どうかしたの?? ………ん!? え!!? シス、背後を見てみろ!!!」
「え!? なんで!!?」
「そんなこと良い! 見たらすぐにわかる!!」
「わ、わかったよぉ〜…」
大変驚く慶一の姿に、シスは戸惑ったような顔をしながら背後を振り返る。
瞬間、目の前の光景を見て何故慶一がこんなにまで驚いているのかが分かった。
「……ロゼ? …ロゼなの??」
シスは戸惑いと驚きで、それ以上口から言葉が出なかった。
そこには知っている姿のロゼが居なかったからだ。
隣にいたら自分は生きているのか、それどころかそもそも存在していることすら忘れてしまうかもしれない…美しさ故に…。
今のロゼの姿を見た慶一とシス、二人はそう思った。
翼は白から黄金に…頭の上にはペンキでどんなに黒く塗っても白さを失わない程の輝きを放つ輪っかが浮かんでいて、何か悟りを開いたような目をしていた。
そして、ロゼの変化にユリシアとジャミルも気付き一瞬だけだが言葉を失った。
「………その姿は…?!」
ジャミルはそう言うと、人形を大量に魔法陣から召喚した。
「…翼がある時点で気付かなかった自分が情けない………まさかまだ生き残りがいたとは……ユリシア、とっておきの技は近いうちに見せてやるから楽しみにしてろよ…フフッ…」
人形を三十体ぐらい残し、ジャミルは何か急ぐように自分の周辺に漂う黒い霧の濃度を濃くし、闇に溶け込むように姿を消した。
「く、逃げたか…しかし、この人形の数を手に負えるだろうか??」
ユリシアはジャミルに逃げられた悔しさと、目の前の人形の多さに嫌気がさした。
「慶一、この大量の人形の対処を協力してくれないか??」
「………」
「慶一!! どうした!? 」
慶一はロゼの姿に見惚れすぎて、思考回路が停止していた。
「はぁ…しょうがない……一人でなんとかするか……とは言ってもこいつら一体一体をジャミルは遠隔操作しているのだろう…あいつの魔力が糸を伝っているから、本人の技も使えるんだろうな…流石に人形は召喚できないと思うが……こんな人形達に使うのは惜しいが、私のとっておきの技を使うか…」
ユリシアは軽くため息を吐くと精霊を肩に従えて一緒に長々と詠唱を始めた。 精霊は何を言っているのかが分からないが…。
その隙にも人形達はどんどん迫ってきている。
そして、その技は遂に発動された。
「氷結神の魔法の一つ… “氷結魔法 絶対零度” !!!!!」




