2章 第5話 [連れ去られた]
『ピャーーーーーーーーーーッ!!!!!』
フェニックスは鳴き声と共にジェットエンジンが付いているかのような速さで慶一達に突っ込んで来る。
その姿を見てシスが慶一の背後で絶叫する中、慶一は根を張ったかのようにへばりつくシスの両手を一生懸命、身体から剥がそうとしていた。
「やばい! ヤバい!! ヤバイ!!! シス! とりあえず、俺の身体から手を離してくれ!! フェニックスがもうそこまで来てるから!」
慶一達とフェニックスの距離はあと、十メートルぐらいしかなかった。 時間に換算するとあと一秒もしない内に慶一達が立っている場所に到達するだろう…。
「ヤダヤダヤダ!!! というか、慶一は私を守ってくれるって言ってくれたじゃない!! あの言葉は嘘だったの?!」
「いや、嘘じゃないよ! でも、今の状況だと二人諸共、嘴で身体を貫かれて死ぬぞ!」
そんな言い合いをしているうちにフェニックスはもう二人の目の前に来ていた。
その時、慶一は「死んだ」と覚悟した。
そして…
『ピャーーーーーーーーーーーーッ!!!』
フェニックスは鳴き声と共に七色に輝く細い脚で慶一の身体を掴んだ。 細いと言っても、横幅は四十センチはある。
「いやぁァァーー〜〜〜!! 私の盾を返してぇェェーー〜〜〜!!!」
シスはそう叫びながら、慶一 (盾) を奪われない様に全力で自分の方へと引っ張り、取り返そうとしている。
その所為で、フェニックスの蹄が慶一の身体に食い込む。
「ーーーーーーーーーーイッ」
慶一が顔を強張らせる中、フェニックスは脚にしがみ付くシスを振り払った。
シスは雪が積もる地面に思いっきり、尻餅をついた。
そして、努力も虚しく、慶一はフェニックスと共に遠い天の彼方へと消えて行った…。
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慶一はフェニックスから逃れようと、脚の中で身体を揺さぶり暴れている。
しかし、下を見ると一瞬で大人しくなり、逆にガッシリと脚にしがみ付いた。
それもそうだろう…。 今居るのは地上から約一万メートル上空。 雲を上から見下ろせるぐらいの高さに居るのだ。
自分が今この状況でフェニックスから離れたらどうなるか想像するだけで、全身に鳥肌が立つ。
そして、なんだか息もしづらい…。
「はぁ…、こんな状況なのになんか眠くなって来た…。 少し、眠るか……」
そう言って慶一はこくり、コクリと眠ってしまった…。
…
……
………
……………
気付けば慶一は自分以外の姿が無い漆黒の闇に包まれどんなに歩いても黒い景色がずっと続く場所に居た。
漆黒の闇と言っても、視覚が働かない訳では無い…。 何時間も暗い所に居て目が慣れた感じだ。
「ーーーーー此処は何処?」
歩いても、どんなに走っても、前へと進んでいる感じが全くしない。
そんなことを考えながらも慶一は何処まで続くか、分からない闇の中を進み続ける。
すると、何処からか片言の女性の声が聞こえて来た。
ーーーアァ! アノトキノ エイユウガ、ウマレカワッタノネ!
「あの時の英雄…? なんだそりゃ?」
慶一は独り言を呟いたはずだったが片言の言葉が返答して来た。
ーーーエイユウ…ワタシタチノセカイノキュウセイシュ…
「私達の世界…? 意味が全く分からない…。というか、此処は何処なんだ! そうだ、俺は今フェニックスにーーー」
瞬間、足元にヒビが入りその隙間から大量の白い光が溢れ全身を包み込む。
意識が朦朧として来た時だった…またあの片言の声が聞こえて来た…。
ーーーアァ、マタアエルヒヲタノシミニシテイマス……。 ヤ…ノ…ウシャ…
最後の一言が上手く聞き取れなかったと思いながら、慶一の思考回路は停止し、意識は無になった。
…
……
………
…………
「ーーーードサッ!」
人を乱雑に投げ落とす音が静かな雲海の中に響き渡る。
慶一はその音と共に目を覚ました。
そして、周りを見てさっきの暗い景色しか見えなかった場所が夢だったと安心していると全身に打撲などの痛みが走った。
音の正体はフェニックスが慶一を地面に投げ落とした音である。
フェニックスは慶一のことをジーッと見つめて、その場から全く動こうとしない。
その様子を見て慶一は、今だったら逃げ切れると確信したのか、投げ落とされたそのままの体勢で痛めている身体を動かし徐々にフェニックスとの距離を取って行った。
ある程度離れ、霧でフェニックスの姿が見えなくなると、慶一は立ち上がり走り出した。
「よし、早く此処からーーー」
ガラッ!?
足元から岩が崩れるような音がしたので、目を細めて地面をよく見てみると身が竦んだ。 同時にフェニックスが何故あんなに余裕をかましていたのかが分かった…その時、フェニックスは翼を羽ばたかせ周りの霧をはらった。
慶一は気付く……目の前、そして周囲全てが崖に囲まれていることを…。
慶一は恐る恐る崖から身を乗り出して下がどうなっているのかを確認するが、今自分が居る場所が地上から離れすぎていて全くどうなっているかが分からなかった。
シスの顔が急に頭をよぎり泣きたくなってきた時だった。
『ピャーーーーーーーーーーーーッ!!!』
何故か慶一は今のフェニックスの鳴き方が助けを求めているように聞こえた…。
そんな筈は無いと思いながらもフェニックスの居る方を見ると、其処には大きな卵があった…。




