§.14【非常事態宣言】
四王会議。
円卓を囲み、獅子の皇帝ランデューク、魔神王ゴルロアーズ、始まりの教皇ソル、白の竜王アガドが席についていた。
彼らは無言だ。代わりに、苛立ちが充満したような緊迫した空気がたちこめている。ソルは円卓を指先でトントンと叩き、アガドは舌打ちをした。
刻一刻と苛立ちは積み重なっていき、ダガンッとゴルロアーズが円卓に拳を打ちつけた。
「いつまで黙っているつもりだ、人間っ! 彼の王について重大な情報を得たのではなかったのかっ!?」
ゴルロアーズは獅子の皇帝ランデュークをそう怒鳴りつけた。
「逸るな、魔神王。声を荒らげずとも、これから話してもらう」
獅子の皇帝が手をかざす。すると、円卓に魔法陣が描かれ、そこに映像が映し出された。ノワール学院の制服を纏った人物――カルロ・ライアンである。
「遅くなり申し訳ございません、皇帝陛下」
片膝を立てて跪き、カルロは頭を下げた。
「よい。虐殺王の内情を探ろうというのだ。一筋縄でいかぬのは当然であろう」
泰然とランデュークが言う。
「それで、なにをつかんだ?」
四王会議に緊張が走る。カルロがなにを言うのか、魔神王たちがただならぬ気配を醸しながら、注目した。
「虐殺王はこう仰せでした。友達を作るために、ノワール学院に来たのだと」
魔神王ゴルロアーズは神妙な顔つきで、深く考え込む。
「友達を」
始まりの教皇ソルは、世紀の難問に立ち向かう学者のような鋭い目をしている。
「作るために」
白の竜王アガドは、敵の大軍勢が本国に攻め入ってきたかのような気迫だ。
「ノワール学院に」
重苦しい空気が円卓に立ちこめる。
「違うな」
「ああ、違う」
ゴルロアーズに同意を示すようにアガドは言った。
「あの虐殺王が友達なんぞを作るために重い腰を上げるなど断じてあり得んっ。彼の王は全知全能なのだ。友達が欲しいなら、二秒で作れるっ!!」
「少なくとも、ただの友達……というわけではなさそうですね。なにか深い意味がそこに隠されているはず」
ソルもそのように考えた。
「彼の王はこうも仰せでした。価値観が合うといい、と」
「かっ、価値観が合うだとぉっ……!!?」
激しい動揺をあらわにし、ランデュークがそう声を上げた。
「あの虐殺王と! あの全知全能と!! 価値観が合う者を捜しているというのかっ!? そ、それは……!! それはつまりは――」
「配下、か」
アガドが述べた結論に、四王会議は一瞬かつてないほどの静寂に包まれた。
「自らの思想に賛同する配下を欲しているといったところだろうな」
「虐殺王の思想に……賛同……」
ランデュークの表情を絶望が覆っていくのがはっきりとわかった。
「他には? 彼の王は他にどんな御言葉《ヽヽヽ》をっ!?」
魔神王がそう問えば、カルロもまた諦めたような声で答えた。
「強い方がいい、と」
「強いっ!? 馬鹿な……! 強いだとっ!? そなたの聞き違いではないのかっ…!!? 本当に強い方がいいと言ったのかっ……!!!?」
半ば動転しながらも、ランデュークがすがるように問うた。
「残念ながら、陛下。この耳で確かに」
「何人だっ!? 何人の友達が欲しいと言ったのだっ!? 五人かっ? 一〇人かっ!?」
「……一〇〇人です」
「ひゃくっ……にん……!」
ごくり、ランデュークは唾を飲み込んだ。
「……全知全能の虐殺王が、強いと見なす者を一〇〇人……そんな馬鹿げた戦力でいったいなにをするつもりなのだ……?」
呆然とした様子を隠すこともできぬまま、ランデュークがそう問いかける。
「彼の王は、こんな御言葉《ヽヽヽ》を。皆で遊んだら、楽しいだろう、と」
途端に四王たちは静まりかえった。
ランデュークも、ゴルロアーズもなにも言わず、ソルもアガドも、深刻な表情で黙りこくっていた。
「フ」
沈黙を打ち破るような笑い声が漏れた。魔神王ゴルロアーズである。
「フフフ、フハハハ、フアーハッハッハッハッハッ!!! 遊び半分で、面白おかしく、この世界を滅亡させようということではないかっ!! いやいや、まったく、彼の王のお戯れには困ったものだ。なあ、アガド」
「強者とは不遜なものよ、カハハハッ!!!」
「本当に、長生きをすると面白いことが起きるものですね。ふっ、ふふふふっ!」
アガドに続き、始まりの教皇ソルも笑い、
「なにも私が生きている間でなくともよかったものをなぁ。ハッハッハッハ!!」
ため息交じりに、ランデュークさえも笑声をこぼす。
四王たちは皆、くつくつと笑い、円卓の部屋中に響き渡る。
そして――次の瞬間、笑い声がピタリと止まった。
四人の瞳には強い闘志があった。
「そんなことはさせはせんっ! いかに彼の王が全知全能だろうと、我々は黙って滅びるわけにはいかないのだっ!!」
威風堂々とランデュークは言った。
「我々、四王の名のもとに、虐殺王の襲来に備え、全ての領土で非常事態を宣言するっ!!」
四王会議はこの地上で最大規模の軍事同盟である。
彼ら四王は、歴史上最も偉大と謳われた傑物ばかり。
彼らの叡智がなくば、虐殺王の狙いに気がつかなかっただろう。
彼らの勇気がなくば、虐殺王と戦うために団結することはできなかっただろう。
虐殺王が動いたこの時に、彼ら四王がいたことこそ、この地上の生きとし生けるものにとって、この上ない希望の光なのだ。
ただ一つ、唯一惜しむらくは、そう、彼らの議論が、壮大な勘違いの嵐であることだけであった。




