第三幕『よはなべてこともあり』0
自分は昔から鈴璃を知っている?
ふとした瞬間にそんな感覚に囚われた陣平は、それまでなにも感じずに過ごしてきた鈴璃との日々に、強烈な違和感を感じ始める。その違和感の正体を確かめようと陣平は鈴璃にその思いの内を吐露する。
そんななか鳴茶木真愛が警視庁に出頭したとの連絡が入る。
陣平の違和感の正体とは? 鳴茶木真愛の目的とは? そして、家館鈴璃、まつかひをんなとは?
現代のハードボイルド御伽噺。
最終幕開幕。
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至る所で禍々しい黒煙が上がっている。
もくもくと重く蠢くその黒煙は、まるで意思を持ち、空を丸ごと飲み込もうとしている邪悪な巨竜のように見えた。
閃光と地鳴りが響き、身体の芯を震わせた数秒後には、轟音が耳をつんざく。
あたりを見回す。全てが燃えている。そして全てが灰となる。
警視庁庁舎は既に跡形もなく、瓦礫と化した外壁からは、容赦なく炎と黒煙が上がり続けている。
倒壊した建物の中で、東京タワーはメインデッキが吹き飛び、上半分が逆さまに地面へ突き刺さっていた。
スカイツリーにいたっては、その巨体を根元部分からボッキリと折られ、支えのなくなったその身で、数多くの建物を無残に圧し潰している。
次いで眼に入ってきたのは死体だった。死体が道端に転がっている。たくさんの死体が瞬く間に積み上がってゆく。夥しい数の死体が東京を埋め尽くしている。
こんな数の死体は見たことがなかった。しかし、感情は自分でも驚くほど冷静だった。おそらく脳が、それらを人間と認識するのを拒否しているからだろう。
「これは、現実なのか?」
茫然とする陣平は、変わり果てた東京の街と、傍に血塗れで倒れている鈴璃を見ながら弱々しく呟いた。
「もちろん。世界のどこにでもありふれている、吐き気がするほど凡庸な現実だよ」
誰かが耳元で静かに囁いた。




