爽やかな朝を望みます!
本編軸の話に戻ります。
痛いな。
起きて初めに思ったのがこの感想。
隣にいたであろう人はもういない。
当たり前か~。もうお昼近いみたいだし。
時計が存在していないこの国は、時間を知る為に朝・昼・夕方に鐘を鳴らすようになっている。
太陽の昇り具合を見ても、どう考えてもお昼近いと思う。
私の体調を考えて、ワザと誰も起こさなかったんだろうな。
朝から起こった出来事を思い出し、思わず布団に顔を埋めたくなるほど、恥ずかしくなる。
初めて迎える朝はもっと、こう爽やかで頬を染め合って、微笑ましい感じになるのではないのか!という気持ちが出てくる。
いえ。初めに明け方近くに起きた時は、そんな雰囲気があったんです。
でも何故かグレンから煽った私が悪いみたいに言われ、あれよあれよと言う間に朝から第2ラウンドが始まって……。
そもそも急展開過ぎるよね。
お互いずっと前から両想いだったみたいだけど、想いを伝え合ったその日にベッドインとは……。
そんな人に微笑ましい雰囲気を求める私が悪いのか。
私だって朝からなんて恥ずかしいから抵抗しましたよ!
無駄でしたけどね。
やっっっと意識が戻り、今現在に至ります。
ううう。涙が出てきそう。
今日からより一層王妃になる為、この国の為に頑張ろうと気持を新たにしたのに。
学ばなければいけない事だって沢山あるのに。
もうお昼ってどういう事よ!
これじゃあ、示しがつかない。
今からでもまだ間に合うかな。
いや、間に合わせなきゃ!
私は午前出来なかった事を午後からやる為に、ベッドから出て歩こうとする。
……が、何故か歩けずしゃがみこんでしまった。
あれ?なんで歩けないの?
若干パニックになりかけた私の元へ、扉からノックの音が聞こえ、カレンさんとマキナさんが寝室に入って来た。
返事もできない私の様子を見て、2人は私の状態が最初から分かっていたのだろう。
特に慌てる事もなく、準備をテキパキと始める。
そのままベッドに戻されてしまい、そこで朝食を取るように言われる。
「行儀悪いから、ちゃんと食事は別の所で取るよ」
と慌てる私に、2人はニッコリ微笑む。
「今日はここで取るように、グレン様から言われております」
「お体は大丈夫ですか?痛み止めの用意致しましょうか~?」
ハッキリと言った方がカレンさんで、薬の用意をと言ってくれた方がマキナさん。
痛み止めとか言われると余計に生生しいです!マキナさん~。
顔を赤くしながらも、体は大丈夫と伝えると簡易の机を用意され、消化の良い物が並べられる。
スープだったり、1口サイズのパンなど、色々ある。
どれも出来たてで、私が起きる時間を見計らって作られたようだ。
凄いな。さすがプロの2人です。
2人とも私より年上のしっかりしたお姉さん的存在で、絶大の信頼を寄せている。
カレンさんは可愛いお顔に似合わず、ハッキリした性格で時々毒舌を吐く。
私にじゃなくて、グレンや主に異性に言うのだ。
逆にマキナさんは上品な顔立ちやおっとりした言葉遣いで、雰囲気通り優しい。
由緒あるご令嬢方で私より身分も上なのに、最初から優しく時に厳しく接してくれる。
今は……グレンの婚約者になるから、私の方が身分的には上になるのかな?
それでも態度は変わらず、同じ様に接してくれて凄く嬉しい。
きっとこれからもいけない事はいけないと叱ってくれるんだろうな。
温かい気持ちになりながら、美味しい食事を食べる。
今は親しい人しかいないけど、ちゃんとテーブルマナーを忘れないようにしないと。
普段から気をつけないとすぐに私の場合、ボロが出てしまうのだ。
1年以上前から働く為に、この世界の知識を学びんだ。
礼儀作法もその中の1つに入ってて、当時はなんで働く為に上流階級のマナーを覚えなきゃいけないのか、と疑問に思ったけど、今は覚えて良かったと素直に思う。
一通り食べ終わると、疑問を2人に問う。
「グレンは何時起きたの?」
「いつもより少し遅かったですが、あまり変わりませんでしたわ」
「見てるこっちが恥ずかしほどの、幸せいっぱいのお顔でした」
「そ……そうですか」
う~ん。見たかったけど、見たら見たで恥ずかしかったと思うし、寝てて正解だったかな。
私が聞いてもいないのに、2人とも事細かく朝の様子や公務での様子も教えてくれる。
公務の様子が何故2人の耳に入ってるのか謎だが、侍女同士のネットワークは半端ないので、きっとそこから聞いたんだろうと予想する。
今日のグレンは機嫌が5割増しで良いから、今の内に報告だの書類を提出しとけ!と言われてるらしい。
以前公務中に用事があり、訪問した事が何度かある。
普段の胡散臭い笑顔はなく、書類に目を通したり、指示を出してる姿は、真剣でカッコいいと思ってしまった。
仕事中は封印してる笑顔を(休憩中や会談してる間は別だけど)今日は終始ご機嫌らしく、振りまいてるらしい。
見てみたいけど、止めておこう。
邪魔しても悪いし。
グレンの事を考えていたけど、そろそろ準備して午後から頑張らなくては。
私がベッドから出ようとすると、ピシャリと止められる。
「今日1日休むように、と言われておりますの」
「えっ?大げさだよ~。大丈夫大丈夫!」
「何言ってるんです。歩けない人は休んで下さい」
「厳しいです。カレンさん……」
カレンさんの言ってる事は正しい。
けど、歩けないのは私のせいじゃないのに……と言いたいけど、怖いので黙っておく。
つまらなそうにする私に、マキナさんがフフっと笑って耳打ちをしてくれた。
「今日は出来るだけ早めに戻られるそうですわ。良かったですね~」
「じゃぁ、夕食も一緒に食べれるの?」
「そうだと思いますよ」
そっか~。夕食一緒に食べれるんだ。
それは、素直に嬉しいと思う。
今までは気持ちを隠そうとして、嬉しい気持ちも閉じ込めていた。
………バレバレだったみたいだけどね。
けど、これからは素直に気持ちを表して良いんだ、と思うと自然とニヤけてしまう。
私の様子を見ていた2人からジーっと目線を感じる。
えっ?どうしたのかな??
まっ、まさかかなり怪しい人になってました!?
さらに挙動不審になり慌てる私に、2人から生温かい眼差しが来る。
「リン様」
「はっ、はい!」
「自分の身が大切ならば、その表情は今のグレン様に見せない方が良いと思います」
「??」
「そうやって、首を傾ける仕草も可愛すぎますので危険です。」
「カレンの言う通りにした方が良いと思いますわ。グレン様が暴走してしまいます」
「気をつけます?」
「なんで、疑問形で返してくるんですか。とにかく自分の為に頑張って下さい」
「でも、きっと無理だと思います~」
「そうね」
「???」
最後は2人の会話に口を挿む事も出来ず、意味が分からない。
とにかく、グレンの前で笑わない様にしたら良いのかな?
「とにかく頑張ります!」
「頑張って下さい」
「応援してますわ」
両手の拳を握りしめて宣言する私とは反対に、本当にそう思ってますか?という淡々とした2人の口調に負けず、私は頑張る事にした。
とりあえず、食事を取っただけで疲れてしまったので(どんだけ体力消耗してるの、というツッコミはスル―して下さいね)体を休める事にする。
まずは、体力回復をせねばグレンには勝てない!
……なんだか、頑張る方向を間違ってる気がするけど、気にしない気にしない。
2人に寝る旨を伝え、午後もゆっくり過ごす事にした。
ベッドに横たわると、すぐに睡魔が襲い夢の世界に旅立ちました。
…………あれ?
気持ちいいなぁ。
誰かに髪を撫でられてる様な感じがして、そう思った。
もっと撫でて欲しいと思ったので、無意識に体を近づける。
ちょっと固いけど、温かい何かに身を寄せる。
途端に体をギュっと何かで抱きしめられる。
痛い、痛い!
その痛みで涙目になりながら、目を開けると目の前にグレンのドアップが!
「きゃあ!」
思い切りグレンから離れようとするが、離れられずさらにグレンの顔が近づく。
「ひどいですね。もうすぐ夫になる人の顔を見て悲鳴を上げるなんて」
「だって……まさかグレンがいるなんて思わなかったから……あれ?なんで?仕事は?今何時?」
パニックになりながら、疑問をぶつける。
支離滅裂なのは、起きかけだから許して!
「今日は早く帰って来ると伝えてましたよね。それに、今は夕方です。本日の公務は終わったので、帰って来ました」
「はぁ……お疲れ様です」
「ありがとうございます」
夕方って、お昼からずっと寝てたって事?
さすがに寝すぎでしょう、と自分でも呆れて物も言えない。
起きかけで思考力も低下している私の言葉でも、嬉しそうに返事をしてくれるグレン。
なんだか幸せだなぁ~。
これからは、毎日こうして過ごす事が出来るんだ。
「嬉しそうですね」
「うん!こうやってグレンが帰って来た時に、迎える事が出来るんだもん。奥さんの特権だよね」
ニコニコして隣にいるグレンを見上げる。
幸せ~と今まで我慢してた分、素直に言えて凄く嬉しい。
「グレンも幸せ?」
「そうですね。幸せですよ。でも……」
「はぅ!?」
「こうする方がもっと幸せになります」
横にいたグレンが何故か今、上に覆い被さってきてます。
て、天井が見えない!
手つきも怪しい動きをしてます。
危険度マックスですよ!!
「グ、グレン?夕食は食べないのかなぁ?」
恐る恐る言うと、グレンの綺麗なエメラルド色の目が普段よりも濃くなっている。
こ、この目をする時は、非常に危険な気が!
例えるならば、獲物を見つけてこれからどうしてやろうか、みたいな肉食獣そのものですよ!
「夕食を取るつもりでしたが、目の前にいる美味しいモノを食べてからにしましょう」
「えっ?えっ?」
「カレン、マキナそういう事なので、1時間……いえ、2時間後に夕食を用意しといて下さい」
「「分かりました」」
えっ?
2人の声をする方向へ向けると、部屋から出て行く姿が見える。
見られていたという羞恥心よりも、助けて欲しいという願望が勝ち、2人に手を思わず伸ばす。
「た、助けて!」
あまりに必死過ぎる私に憐れみの目を向けつつ、2人は部屋から出て行く。
バタンと無情にも扉の閉まる音が響いた。
は、薄情者~~~!!
主人は私なのに、グレンの方の命令を聞くのか!
そりゃぁ、怖いけどさぁ。恐ろしいけどさぁ。
だからって、一言二言グレンを説得するようにしてくれたって罰は当たらないよ!!
「助けて……なんて失礼ですね」
「ヒィッ」
「俺の繊細な心は傷ついてしまいましよ。たっぷり、リンの体で癒して頂く事にしましょう」
セクハラ発言すぎる!
「落ち着いて!そう、まずは落ち着こうよ~」
「十分落ち着いているので、安心下さい。それでは、頂きます」
両手を合わせながら言われた私は、まさしく肉食獣に食べられようとしている草食獣の気持ちが分かりました。
「ま、待って!」
「待てません」
バッサリですね。
この決断力が国を動かす為に必要なんですよね~、と関係ない事を考えていたが、だんだんキスをされていくうちに、グレンの事しか考えられないようになっていく。
自然に両手がグレンの背中にまわり、抱きしめる形になる。
その事でさらに煽ってしまい、さらに自分で自分の首を絞めたお馬鹿な私です。
そのまま美味しく食べられ、全身体が動かなくなった私はグレンに介抱されながら夕食を食べる羽目になりました。
恥ずかしかったよ………。
グッタリする私とは逆に、翌日もご機嫌で公務をするグレンの姿があったそうです。
えぇ。今ならカレンさんとマキナさんの言いたい事が分かります。
肉食獣の前では油断したらいけない、という事ですね!!
油断しません勝つまでは、のスローガンを掲げることにした私ですが、翌日もグレンに美味しく頂かれるのでした。
お気に入り登録や評価など、本当にありがとうございます。
拙いお話ですが、これからもよろしくお願い致します。




