表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

小話:蚊取り線香はないですか?

4ヶ月ほど経った時のお話です。


部屋で侍女のカレンさんとマキナさんと談笑をしていると突然バンッという音が入口からする。

かなり乱暴に閉めたようだ。

一応私の部屋の前には警護の為、兵士さんが常に待機している。

そこまでしなくて良いと思うんだけど、あくまでお世話になっている身なので素直に従っている。

だから私の部屋に入れる人は限られていて、入って来たのはグレンだった。


珍しいなぁ。

グレンはこんな風に乱暴に扉を閉めた事はない。

何か急ぎの用なのかな?


金髪の髪をなびかせながら、あっという間に私の側に来た。

いつもは綺麗(私から言わせれば胡散臭い)な笑顔を常に保っているのに、今日はその端正な顔を歪ませてる。

どことなく雰囲気もよろしくない。


もしかして、怒ってらっしゃいますか?

自分から爆弾を落としたくなくて、心の中でソッと呟く。


ドサッと私の隣に座ったグレンの前に、一切無駄のない動作で紅茶が入ったカップが置かれる。

私がボーッとしてる間に、カレンさんとマキナさんは用意をしてたようだ。

さすがです。

先ほどまで談笑をしていたのに、今は近からず遠からずの位置で待機をしてる2人を見てそう思う。


2人を見てた事が気にくわなかったのか、顎に手をかけられ無理矢理グレンの方に向けられる。

グレンはもう一方の手で用紙を懐から取り出し机に置く。

見ろと合図をされた。

顎にかかった手をはらいながら、覗き込む。


もういきなり来てその態度は何よ!

ムカムカしながらその用紙の内容を見る。


なっ、なんでこれをグレンが持ってるんですか~~!?


「俺に分かるように、説明をどうぞ」


ヒィィィ!

声が完全にアウトです。

悪魔も逃げ出すような、地を這う声に全身鳥肌が立つ。

声もそうだけど、顔は無表情ながらも口先だけは少し上がっている。

胡散臭くても良いから、普段の笑顔をお願いします!


……そんな私の願いも空しく、説明を更に促される。


「ご……ごめんなさい」

「謝罪ではなく説明をお願いします。それとも怒られる事をしたんですか?」

「話せば長くなりますけど、良いですか?」

「簡潔に。分かりやすくお願いします」

「……はい」


いつもは砕けた口調の私だけど、自然と敬語になっちゃうよ。

それほど奴から醸し出される空気は、キツイです。


「計算の仕方で簡単に出来る方法があったので、アドバイスをしました」


間違ってない。

簡潔に私は言った。

やましい事は何もないぞ!


グレンを見上げると、まだ表情は変わってない。

何で?


グレンはトントンと指で机を叩く。


「それならどうして、お茶を飲む事になってるのですか?」

「それはお礼をしたいって言われて……。私だって初めは断ったんだよ?けど、凄く助かったからお礼したいって言われたんだもん」


そう。用紙に書かれていた内容は、私の了承した返事と日にちと時間を記載したものだった。



事の発端は、私が今この世界で勉強をしている事から始まる。

私が必死に―――後に王妃となる為の勉強をしていたと知るんだけど―――働く為にこの世界の勉強をしている。

その中の1つに数学があった。

学んでる中で本当に面倒な計算方法があって、良い方法ないかなと考えてたら、気づいてしまったの。

アレ?これ簡単に出来るぞ、と。

高校1年の途中までだけど学校にも通ってたし、今まで習った計算方法で活用出来る事に気づいた。


それをまず教えてくれてる数学の先生に伝えたの。

その方法に驚愕した先生は、急いで知り合いの文官さんに伝え、それから瞬く間に広がり私は感謝される事になってしまった。

新しい計算方法のおかげで、効率良く仕事を進める事が出来る様になったと。

私の知識で、役に立って凄く嬉しかった。

お世話になってばかりだったから、少しは役に立てた様で安心もした。


グレンに報告すると誉められた。

多分事前に知ってたみたい、って当たり前か。

王様だもん。城の中で起こってる事は把握してるよね。


でも、素直に誉められる事は少なかったので、凄く嬉しかった。

普段はからかわれる事が多かったから。余計に。

けど、こういう事はもうしなくて良い、と釘も刺されてしまった。


確かにこの世界は、私の住んでいた世界と流れが違う。

言うならば中世の時代に近い。

衛生面や便利さは高度だと思うけど、生活スタイルや服装、建築等はそれに近いと思う。

お城から出た事ないから、ハッキリと言えないのが情けないけど。


その時代に私の知識(そんな大層なモノじゃないけど)を入れる事で、便利になったら良い。

でも、変な方向へ行かれたら恐いので、グレンの意見に賛成した。


まさかグレンの「しなくて良い」という発言がただ単に嫉妬から出た、と気づくのはまだ先の事。



私は本当にこれっきりにするつもりだった。

けど、向こうから先生を通して質問が来たのだ。

それも、グレンが城に不在の時に。


最初は断ったのだけど、先生が昔お世話になった人のご子息らしく、困っている先生を見過ごす事は出来なくて、分かる範囲で手紙のやり取りをするようになった。

それが何故かお礼をしたいと、お茶に誘われてしまった。

それに対しては、お仕事と関係ないから断ったよ。

けどねぇ、やっぱり間に挟まれた先生が可哀想で……了承してしまった。


でも断るべきだったのです。

えぇ。人ではなく、自分の為に。

結局、全く簡潔ではない私の説明を長々と聞くグレンの表情を見て、後悔しております。


グレンが帰って来たのが昨晩の事。

あと2、3日はかかると聞いていたので、今日の午後にお茶会の予定にあえて立てた。

一応グレンにもうするな、と釘を刺されてる身としてはいない間に済ませて、後腐れなく終わるつもりだった。

けど、帰ってきたんですよ。お茶会の前日に!

今日の夜に帰って来てくれたら、何もかも終わった後だったのに。

タイミングが悪い。

それに言い訳をさせてもらえば、2人きりで会うわけじゃないんだよ。

ちゃんと、カレンさんとマキナさんや仲介役(?)の先生もいるし。


昨日の夜会った時には普通だったから、それから発覚したんだ。

アレ?でも確か「変わった事はないですか?今の内に言った方が良いですよ」とニッコリスマイルで言われてたような。

その時は10日ぶりに会えて嬉しかったから、すっかりお茶会の事忘れて「何もないよ」と言った記憶がある。


んん?もしかしてこの事を言ってたの?

いやいや。偶々でしょう。

もしそうでも、保護している私に何かあったらいけないからとかそんな理由でしょう。

そうだそうだ。


「何勝手に自己完結しようとしてるんです?」

「……頭の中読めるの?」

「そんな事は出来ないに決まってるでしょう。お馬鹿さんですね。……けど、リンの考えてる事は分かりますよ。表情に出過ぎです」

「………」

「リンの言い分は分かりましたし、もう良いです。勝手に向こうが盛り上がってるだけだと分かってましたし」

「盛り上がる?」

「気にしなくて良いです。あっ、それと今日のお茶会は中止ですよ」

「どうして?」

「何でも急に仕事が出来たそうです。明日締切の仕事が山のように来たみたいで。大変ですよね」

「そっか~。大変だね」


山のような仕事ってどれぐらいだろう?と思いながらも、お茶会がなくなってホッとする自分もいる。

あまり乗り気ではなかったし。

板挟みにされてた先生もこれで解放されるんじゃないかな。

良かった、と安心してると。


「それと数学担当の教師ですが、これからは別の方に変わります」

「何で!?」


優しくてダンディーなおじ様で大好きだったのに。

その性格故に板挟みという、可哀想な事が起こったんだけど。


「本人からの希望です。リンに迷惑かけて申し訳なかったので、辞めたいと言っています」

「迷惑なんて思ってないよ!グレンお願い。もう約束破ったりしないから、ダメ?」

「・・・っっ!」


首を傾げながらグレンを見上げる。

何か「ずるい」とか「卑怯だ」など、グレンがブツブツ言っている。

少し耳が赤くなっている気がするし、どうしたんだろう?


「分かりました。とりあえず本人にリンの希望を伝えます。それで良いですか?」

「うんっ。ありがとう!」


お礼を言ったのに、グレンから大きな溜息が出た。

眉間に皺も寄ってるし。

なんか失礼だよね。人がお礼を言ったのに、溜息をつくなんて。


「リンの鈍さには、逆に感心してしまいます」

「鈍くないよ!」

「いえ、もう良いです。こっちが虫除けを更に強化したら良いだけですから」

「虫除け?」

「リンは気にしないで良いですよ」


そう言いながらカレンさんやマキナさんに目を向ける。

グレンからの眼差しを受け、2人は力強く頷く。

……目だけで分かり合えるって凄いですね。


3人の目で語り合った内容も気になるけど、私にも役立てる事をまた見つけた。

早く言いたくてグレンの裾を引っ張る。


「ねぇねぇ、グレン」

「なんですか?」


やっと笑顔を見せてくれた。

それも胡散臭い笑顔じゃないし、嬉しくなる。


「この国には蚊取り線香とかないの?」

「ハッ?カトリセンコウ??」


聞き慣れない言葉だからカタカタ口調になってる。

この言葉じゃ分かりづらかったかな。


「さっき虫除けって言ってたでしょう。私の世界にそう言った対策で蚊取り線香っていう物があるの。そんな虫除け対策の道具知ってるし、役立てないかな?」


作り方は分からないけど、臭いが独特だから似たような臭い出すお香とか作ったらどうかな?

お香文化はこの国盛んだし、良いアイデアだ。

本当にお香で出来るかは分からないけど、やってみて損はないと思う。


けど、知らなかったな。

今まで蚊や虫とか見たことなかったけど、強化するって事は私が知らないだけで、この国にもいたんだ。

もしかしたら結界とかで対策してるのかな?

けど、結界も力を使って大変だと思うし、蚊取り線香もどきでも出来たら楽になるよね。


私が色々考えていると横から生温かい眼差しを感じる。

グレンからだ。


「どうかした?」

「…………いえ……リンの考えがあまりに(鈍くて)凄いので、関心してしまいました」

「そんなに凄い?」

「えぇ……俺はリンほど凄い(鈍い)人を知らないです」

「大げさだよ~。私はグレンの方が凄いと思うよ」

「リンには負けます」

「そうかな?」

「本当です」

「グレンが?なんか嬉しいな」

「いえっリンには勝てません。フフッ………」


グレンの渇いた笑い声や本当の意味も分からず、その後も噛み合わない会話は続いていきました。


ちなみに、私達の会話をずっと聞いていたカレンさんとマキナさんが「リン様最強説」という定義を新しく作っていた事など、私は知るよしもありませんでした。


虫除けのお話でした。

タイトルで分かった人もいると思います。

ちょっと安直過ぎたでしょうか。

リンと接触を図る虫さん達は多いんです。

なので、日々対策が取られてます。


勿論名前も出てこない文官さんに、山のような仕事を与えたのはグレンです。

早めに帰って来たのもお茶会を阻止する為です。

公務ですから、仕事を疎かにして帰ってきた訳ではありませんので、ご安心下さい。

グレンの名誉の為に言っておきますv


余談ですが、数学の先生は復帰出来ました。(本当に余談ですね)

計算方法については深く考えずにお読み下さい☆


ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ