【薔薇色】薔薇のタイムマシン
SF・人間ドラマ
遠く遠く薔薇色の
三角山の頂上にある廃墟のリフォームが決まったらしい。
私たちのように、好奇心から入り込んでしまって面倒なことになるのを懸念して、上層部が重い腰を上げたのだそうだ。
これで『ガラクタ』の管理がまともになると佐伯さんは喜んでいた。
もちろん、リフォームのために一旦それらは研究所の方に移動させなきゃいけないわけで。
「アルバイトの出番だね!」
烏丸は肉体労働に向いていなそうなアイドル顔をほころばせている。そりゃそうだろう。どんぐり拾いよりは、よほど働き甲斐がある。
しかし。しかしだ。
手伝いを頼んでおいて、私には帰還用どんぐりの携帯と、制服の着用禁止が言い渡され、みんなが運んでくる物の品番にチェックをつけるだけの役割しか振ってくれない。
肉体労働を好んでやりたいと思う方ではないけれど、廃墟の地下に並んでいたガラクタ達がどんなものか、近くで見たいじゃないか。
いくつかの『TIM』と勝手に共鳴しちゃうから、仕方ないのは解ってるつもりだけどさー。胸ポケットに挟んでいる薄型の磁場測定器に視線を落として、口を尖らせたくもなる。
私がそれらを見られるのは、みんなが運んできた時に品番を読み上げる数秒間だけ。それも、小さいものだと手の影とかになって見えやしない。
最初のうちは「それなんですか?」に付き合ってくれたけれど、往復を重ねるごとにみな無口になっていった。
ネジやチョークやブロック塀の欠片、確かに見りゃわかる。でも、品番を探してチェック入れているうちに見逃すものもあるのに!
流れ作業に虚無感を感じ始めたころ、風見さんが抱えてきたケースの中に肌色っぽい丸いものが見えた。
「それなんですか?」
一瞬、無視しようとして、プラスチックケースに視線を落とした風見さんは、異変が起きないのを確認しながらそのケースを私に差し出した。
「これな。ちょっと珍しいやつだ。なんつったかな。砂? 砂漠?」
「デザート・ローズだね」
後ろから来た佐伯さんが、ちらと覗いて教えてくれた。
「砂漠の薔薇?」
「砂漠でたまに見つかる鉱石だ。結晶の並びがバラの花みたいに見えるってんで、そういう名前のはず」
「へぇ……薔薇っていう割には、色は地味ですね」
「本来は透明な結晶なんだけど、砂が混じりこんじゃうから、どうしても砂色になるみたい」
佐伯さんが、私の手元のタブレットに自分でチェックをつけながら蘊蓄を披露してくれる。
「そうかぁ。薔薇っていうとすぐ赤やピンクを想像しちゃう」
「まあな。バラ色の人生って言えば、そっちの色を想像するしな」
砂色の人生はどうなんだろうな。平々凡々?
「これってどこに跳ぶのかはわかってるんですか?」
「それねぇ」
佐伯さんが苦笑いした。
「砂漠」
ニカッと笑った風見さんを見上げる。
「一面砂でそれ以外が見えないから、どこの砂漠かも特定できてねぇ」
「危ないからね。今の段階じゃそれ以上調べられなくて」
「何の記憶か、ちょっと気になるよな~? 浪漫?」
ロマン、かぁ。いつか、わかる日が来るのかな?
「……なんか、モンブランが食べたくなってきました」
「マロンじゃねーよ!」
間髪入れずに入った突込みに、ちょっとだけ驚く。佐伯さんは、あははと笑った。
「もうちょっとで終わるから、そうしたらおやつにしようか」
先が見えればやる気も沸く。
私は気力を取り戻したのだった。
薔薇のタイムマシン・終
創作短編フェス参加作品
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