アフターストーリー
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さて、彼女が二人出来た夜から10日経ったワケだけど、あれだけ覚悟を決めてカッコつけて抱え込んだというのに、生活は更に危険な方向へと向かっていると言ったら、運命を仕組んでいるお前は思い通りだとほくそ笑むだろうか。
「ねぇ、お願い」
「しましょうよ」
二人は、男子の俺が引くくらいに夜を求めた。なんともまぁ、恥じらいのない事だ。そうおおっ広げにされると、返って手を出す気にならない気持ちをどうして分かってくれないんだろう。
……なんて、理由を考えたけど、俺が彼女なら好き勝手に褒め散らかしてもいいと思ったように、二人も彼氏の俺を好き勝手にヤリ散らかしてもいいと思ったんだとすぐに気が付いた。
気が付いてしまった。
「恥じらいを持って下さい」
「ダメです」
「今更過ぎ」
語尾に、ハートマークでも付いていそうな甘い声。自然と、目尻の筋肉がピクピク動いてしまうような状況。チンコが萎むくらいのアプローチって、世の中にあったんだなぁ、と。そんな思考の真っただ中に、俺はいる。
自尊心を育てようと思って恋人にしたのに、褒めるより前に勝手にエロイキリし始めた彼女たちを見て、「すでに自尊心が生まれ始めてるのでは?」という懸念が生じている。
ことごとく、俺の思惑は外れていくが、しかし目的を達成しつつある事には一抹の安心を覚えている。何とも、不思議な状況だ。
「そもそもだな、京。お前、なんでそういうこと知ってんだよ」
「古谷さんに教えてもらいましたから」
「……何を教えたんだ、桔梗」
「セックス」
わかるかな。この、女は男よりセックスに興味がないんだろうな、という価値観。それが、随分とあっさり壊されてしまった。
「時生がロードワークに出てる間、教えてあげてた。オナニーも」
「バカバカ。なんでそんな事するんだよ」
「マッチョな方が興奮するので、それを維持してもらうためにロードワークを許しているんです」
「いや、答えになってないし、そのカミングアウトいらないよね?」
二人は、俺の目から見て友達には見えないが、少なくとも敵でなくなった事は確かだった。言うなれば、互いの利益の為に協力する仲間といったところだろうか。
持っていないモノを全て持ってると豪語していのだから、二人が組めば超人タッグが完成する事は間違いないワケで。そういうやり方を秋津さんが止めに来ないということは、つまり帝王的な考えには反していないという事なのだろう。
なるほど。両実家とも、付き合いの形にこだわりは無いらしい。というか、彼氏じゃなくて「物」扱いなんだろうな。だから、大して気にも止めていないし、関係を殺しにも来ない。
二人の両親にとって俺は、さしずめカプセル型の薬といったところだろうか。壊れてしまった娘を元に戻す、精神コントローラー。自分の社会での立場は理解しているつもりだったけど、改めて思うと結構込み上げるモノがある。
「気持ちいいんだもん、別にいいでしょ?」
「確認するなよ」
金持ちは、子供を箱入りにして社会を教えずに、清い生活を送らせるようなイメージがあったが、実際はそうでもないらしい。
現代には安定なんてなくて、いつでも自分たちの生活が崩壊する可能性があるとわかっている。だから、娘にも一人で生きていけるメンタルと実力を身につけられる生活を送らせる。多分、そういことなんだろう。
そのせいで、奇行を若気の至り程度にしか捉えていない。ならば、この生活は俺と彼女たちの将来の別れをどうしようもなく暗示していると思うんだ。さて、喜ぶべきか、悲しむべきか。
二人の両親は、もう少し自分の有能さと頑丈さを自覚するべきだ。教育は、早けりゃいいってもんじゃないんだって事、少なくとも目の前で見てる俺の方がよくわかってるぜ。
「とにかく、飯にしよう」
「その前にセックスしたいです」
「というか、ちんちん勃ってるじゃん」
「勃ってねぇよ」
……これも、俺の責任なのだろうか。まぁ、それで黙るなら大人しく言う事を聞いた方がいいのだろうけど。キスやハグは誘惑に負けたワケじゃなくて、むしろ俺からアプローチをかけたのだから、最後だって俺から仕掛けるべきだと思ってる。
それに、セックスが嫌いと言えば嘘になりますし。




