30縛 最終回
「大体、周りに人がたくさんいて、才能にも溢れてて。家だって、他の追随を許さないくらいにお金持ちなのに、なんで時生まで奪おうとするワケ?ホント、ブルジョアって肥え太ってて醜い」
「あなただって立場はそう変わらないでしょう!?そもそも、そんな生活が嫌だから時生さんに惹かれたってどうして分からないんですか!?バカだからですか!?」
「私をバカと言っていいのは時生だけだし、私がバカな事とあんたが醜い事は関係ないじゃん」
「バカだから相手にされないんですよ!時生さんに相応しくないって、自覚ありますか!?」
「自覚もあるし、不純だけど、少なくともあんたよりは強く繋がってるから。ぽっと出は黙ってアパート経営でもしてれば?頭いいんでしょ?」
「ぽ、ぽっと出……。言ってはならないことを……」
「聞きたくないなら、何度でも言ってあげるけど」
「黙ってください!こんな事なら、ブラジル送りにしておけばよかったですよ!」
あ、バラしやがった。
「……やっぱり、夢じゃなかったんだ。ねぇ、時生。時生って、私の顔も性格も好きだったんだね。もっと早く言ってくれれば良かったのに。笑顔くらい、いつでも独り占めさせてあげたのに」
「話を逸らさないでくださいよ!」
「無表情は黙っててよ。というか、私に負けて泣いてたクセに」
「……あなたに負けたから泣いたんじゃありません。ホント、都合のいいことしか覚えてないんですね。倉庫でもフラレて、この前もフラレて。何回フラれれば気が済むんですか?」
「……それ、思い出さないようにしてたのに」
あ、こっちも地雷踏みやがった。
「あれ、バカな人でもいっちょ前に傷付いたりするんですね。どうせ、フラレた事と一緒ですぐ忘れるんでしょうけど」
「フラレたフラレたってうるさいってば!相手にされてないあんたよりはマシでしょ!?」
「はああああああ!?じゃあ時生さん、キスしましょ!?」
「なんでだ」
「相手にされてないだなんて嘘だって事を証明するんです!このフラレ女に!」
「それ以上言ったら本気でキレるよ!?」
「私はとっくにキレてるんですよおおおお!!」
「落ち着け、愚か者ども」
「ふにゃ」
「あにゃ」
掴みかかりそうな勢いだったから、俺は二人にチョップを落とした。
「いてて……」
「な、何するんですか」
「うるさいんだよ、もっと静かに喧嘩できないのか」
「喧嘩するのはいいんだ」
まぁ、それくらいは別に。
「というか、本当に朝と全然違いますよね」
「あの男、やっぱり敵?」
俺の唯一の味方だ、バカ。
「時生、半日会わざれば刮目して見よって諺を知らんのか」
「知らないよ。というか、ないよそんなの」
あるよ。
「じゃなくてだな。どうして喧嘩してるのかの話だろ。誰がここで喧嘩しろって言ったんだよ」
頭を抑えながらも、二人は睨み合って再び俺を見た。
「私、今はっきり分かりました。時生さんを好きだからじゃありません。古谷さんが嫌いだから喧嘩してるんです」
「嫌いだなんて、随分高評価なんだね。私は大嫌いだけど」
事は、思ったよりもよっぽどシンプルだったようだ。
「……うふふ」
「えへへ」
「うふふっ。あっはははは!!」
「ははははっ!ぶっ殺す!!」
「返り討ちにしてやりますよ!!」
「落ち着けというのに」
「うみゃ」
「ふぇ」
ダブルデコピンをお見舞いすると、二人は額を抑えて俯いた。
「お前ら、なんでそんなに嫌い合ってるんだよ」
「私にないもの全部持ってるから(です)」
息ぴったりだった。出会う場所が違えば、仲のいい友達になってたかもしれないのに。
……なら、それをダシに使うか。
「なぁ、これだけは分かっていて欲しいんだけど」
「はい」
「なに?」
「別に、喧嘩に勝ったから俺が好きになるとか、そういうのはないぞ」
「……え?」
二人が、凍ってしまった。
「いや、普通に考えれば分かるだろ。俺、別に景品じゃねぇんだぜ?」
「で、でも。……え?」
「逆の立場になって考えて欲しいんだけど、お前らは目の前で罵詈雑言を言い合ってる男に惚れるのか?」
「いや、私は時生さんに一途ですから。他の人には興味ないです」
俺しか知らない事を、一途とは呼べないんじゃねぇのかな。
「例えばの話だって言ってるだろ」
「……まぁ、あまりいい気はしませんけど」
「そうだろ?むしろ、俺は負けてるヤツを応援したくなる性質なんだよ。ボロッカスにやられて泣いてたら、それこそ慰める気にもなるさ」
どうやら、二人とも思い当たる節があったらしい。
「だからさ、お前ら友達になれよ」
「友達、ですか?」
「そうだ。そしたら、今度は俺がきっちり責任取ってやる」
「どうすんの?」
「二人とも、俺の女にする」
言うと、二人はフラッと倒れて、畳の上を這ってから俺の膝に頭を置いた。ホント、こんだけ息ぴったりなんだから仲良くしろよ。
「きゅ、きゅ、急に何を言い出すんですか!?」
「ばか!えっと、……ばか!」
「何だよ、嬉しくないのかよ。お前ら、俺を取り合って喧嘩してたんだろ?なら、喧嘩も収まって、俺も手に入って。万事解決じゃねぇか」
言うと、二人は見つめ合ってから顔を赤くして俯いた。
「う、う、嬉しいですけど。えへ。……私は、独り占めしたいです」
「双り占めにしとけ」
「でも、それじゃ……」
「うるせぇ。二人で仲良く、俺のところに居て欲しいんだよ」
俺は、遥に「二人を『俺好みの恥じらいのある女』にする」と言った。そう、二人をだ。
もしも後で好きになって、苦労の末に一人に絞って捨てた方を心配するとか、喧嘩するたびに「あっちにしておけばよかった」なんてクソみたいな後悔するとか。そんな事は、絶対にしたくない。
なら、もう自重はしない。どっちも手に入れる。そうすれば、俺が二人のどちらに何をしても裏切りにならない。自尊心を育てる上で、こんなに便利な立場は他にないだろう。
大体、俺は貧乏で恥知らずで欲張りなんだよ。いつだって、腹をすかして生きてるんだ。だから、惚れてきた女を二人とも手に入れるくらい、許してくれたっていいだろ?俺しか救えないなら、俺が両腕に抱いたって別にいいだろ?
これは、ハッピーエンドの前借りだ。俺たちの物語は、ここであっけなくお終い。後の話は、残念だけど全部アフターストーリーなんだよ。
俺は、過程の為に結果を作ってやる。誰も諦めないのなら、どうせこうする以外に方法なんてないんだ。
ザマーミロ。仇も責任も、全部一緒にとってやったぞ。これが、俺が用意出来る最高のキッカケなんだ。
「だから、こんな俺に付き合ってくれるか?」
倫理観なんてクソ喰らえ。批判をするんなら、こうなる様に仕組んだ神様が俺の代わりに何とかしてくれよ。どうせ出来ねぇだろ?なら、黙って見てるんだな。チクショウ。
「……よ、よろしくお願いします」
「……ありがと、また選んでくれて」
アーメン、ハレルヤ。誰も助けてくれないなら、俺が自分で助かってやる。そう誓って、俺は二人を同時に強く抱き締めた。
後の事は、後の俺が考えてくれるだろ。
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