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踏み台令嬢はへこたれない  作者: 三屋城 衣智子
第二章

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12 珍入者と食事

「お姉様ったら、人が悪いわ! わたくしだってもう十二なのだから、かっこいい方に憧れたりするんですのよ」

「お気持ちはわかります、わたくしもベル様くらいの頃には、憧れの人がおりましたから」

「え、そうなの、そのお話聞きたいわ」


 ベル様の瞳がキラキラする。

 聞いても(せん)無いものだけれどと思いつつ、門の方へ視線をやると、登院する人の流れが少なくなっているのが見てとれた。


「お話しして差し上げたいところですが、時間切れのようですわ。今日はどちらへ?」

「えっと、今日は職員室に行ってから、学院の施設を紹介していただく予定ですの」

「では、職員室へご案内いたしますね」

「ありがとう!」


 同意を得て二人連れ立って職員室へと歩く。

 着いて別れを告げた後、わたくしの方は少し足早に教室へと向かった。

 なんとか授業開始には間に合って、自身の机に行くと、クリスは今日まだ来ていないようで。

 あたりを見回すと、少し遠くの席であるグルマト殿下が、こちらを見ながらヒラヒラと手を振ってきたので会釈する。


 クリス、どうしたのかしら……。


 わたくしは、二日連続で不在の彼を不思議に思いつつ椅子に座りながら、最初の授業の教科書を用意するのだった。




 その日のお昼は、メメットと、学院の施設説明の終わったベル様が合流して、中庭で食べることにした。

 ら、なぜかグルマト殿下もその場にいた。

 確かお昼前に――


「なぜ駄目なんだ?」

「ですから」

「王女を手籠(てご)めにしようなどと思ってないというのに。メルティなら考えなくもないが、な」


 そう言いながら、わたくしのおろしてあった髪を一房とり、上目遣いにキスをする。


「わぁお」


 近くにいたクラスメイトが好奇心いっぱいの目をして一言もらした。

 相変わらず誰かれ気のいい事を言わないと済まないらしい。

 一つため息をつきながら髪をさりげなく奪い返すと、わたくしはきちんと説明をした。


「王女の許可と、護衛の方の許可が要りますから、まずは相談してみないことにはお返事ができないんですの」

「なら、色良い返事がもらえたら参加可能ということだな!」


 言うが速いか、歩くが速いか、殿下は風のようにその場から去った。


 ――そんなやりとりをしたはず。

 なのに今、ニコニコと昼食の場所にいる。

 じとっとした目で睨むと、ふふんといったていで見返してきた。


「それにしても許可をいただき大変ありがたい」

「いいえ。わたくしも異国のことを聞いて、色々と勉強してみたかったのです」


 話を聞いていると、どうやら王女とその護衛をとっ捕まえてさっさと口八丁に許可を得てしまったらしい。

 しかも、既に王女の懐に飛び込んだらしく、仲良くなっている。


「そうだったのですか! それにしてもすごいですわ」

「いやいや、そんなことはありませんよ」


 一生懸命に質問などをするベル様に、感じるものがあるのか柔らかな表情でグルマト殿下がこたえる。

 その光景に、昔の憧れが呼び起こされて少しだけ胸の端がちくんとした。

 せめてもの救いは、殿下がそこまで醜悪ではなさそうということだけれど。

 それが本当なのか……自分が引き込んでしまったようなものだから、ちゃんと観察しておかないとと思いながらご飯を食べた。



 翌日。

 その日もクリスは欠席だった。


 政務の手伝いかしら。


 何も聞いていないことを少し寂しく思いながら、気持ちを切り替える。

 ベル様は、わたくしと既知ということもありうちのクラスを見学することになった。

 先生の紹介の後、教室に入ってきた彼女はよほど嬉しいのか、足取りが軽やかだ。


「今日から六日間、しっかりと見学させてもらいたいと思いますので、皆様色々教えてくださいましね」


 そう挨拶をし後ろに新設された机に行く際、にこにこと微笑むものだから、クラスの男子数名の口から「か、かわいい……」と声が漏れ出ている。


 不埒なことを考える男子からお守りしなくては、と決意を新たに、授業の準備に取り掛かった。


 その日の始まりは護身術の授業で、主に体術を教えてもらう。

 今はちょうど、先生が見本で組手の型を通しで実演してくれていた。


「先ほどの型は覚えましたね。ではこれから二人一組で合図があるまで型の練習です」

「先生」


 組み手の練習開始の号令を待たず、聞き知った声が先生を呼んだ。

 見ると、グルマト殿下が質問する気で手をあげている。


「はいなんですか、バルバザード君」

「相手は指名できるだろうか」

「勿論いいですよ」

「では、メルティアーラ嬢と」

「え?」


 彼の言葉に場がざわつき、わたくしも思わず口から声が漏れた。


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