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踏み台令嬢はへこたれない  作者: 三屋城 衣智子
挿話

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夏季休暇と避暑地 3

 その後クリスと一緒にお茶をして歓談し、また夕食に、と言い合って彼は部屋を退出した。

 夕食は和やかに別荘の料理長渾身(こんしん)の料理に舌鼓(したつづみ)を打って過ごし、ゆったりとしたお風呂で湯浴みをした後、ベッドへと入って夢の中へゆく準備をする。


 二泊三日ですけれど、たくさん、クリスと一緒にいられたらいいですわ、ね……。


 ソファ以上にふかふかのベッドは、わたくしの(まぶた)を優しく下へと(いざな)って。

 やがて、流石に移動で疲れたのか、夢も見ず朝までぐっすりと眠ったのだった。




 翌朝。

 わたくしはアンナに着替えを手伝ってもらっていた。


 今日のドレスは避暑地に合うように、動きやすいシンプルさと、けれど洗練された格式に負けない物をと少し気合を入れている。

 着替え終わったと同時に、コンコンとノックの音が部屋に響いた。

 と同時にバァン! とドアが開けられる。


「お邪魔しますわよ!!」


 ……えっと、どなたかしら?


 わたくしは面食らったまま小首を傾げながら、思案した。

 ちらりと相手の姿を観察することも、忘れない。

 ここは王族所有の別荘、そして目の前のお方はわたくしよりかは年下でいらっしゃる。

 確かクリスには、


「! 着替え中でしたのね、わたくしったら、ごめんなさい」


 先程の勢いは何処へやら。

 可愛らしい花のモチーフがところどころについたドレス、金の髪に深海色の瞳で柔和な顔立ちのその子は、みるみるうちにしゅんとなってしまった。

 わたくしは慌ててお声がけをする。


「お気になさらないでください、王女殿下。ただ、ノックの後は、相手のお返事を待ってさしあげたらいいかもしれませんわね」


 気に病まないよう、微笑むのも忘れない。

 この国の第二王女であるベル王女殿下は、わたくしのその言葉に顔を輝かせた。


「ありがとう。えっと、わたくしベルというの。あなたがこちらに来訪してるってお兄様から、聞いて、会ってみたくて…… あのっ! 良ければ朝食の後に近くの湖畔に一緒に遊びにいきませんことっ?!」


 確か十二歳と聞いている。

 言いながら照れている(さま)は、なんともお可愛らしかった。

 クリスの妹なのだから、わたくしにとっても恐れ多くはあるけれど妹になる、仲良くなりたかったし否はなかった。


「はい、喜んで」


 湖畔に遊びに行く約束と共に丁寧に退室のお願いをし、その後髪を整えてもらって朝食に向かった。

 食堂ではクリスとベル王女殿下が既に揃っていて、一緒に朝食を取る。


「だからあれ程、ノックしろ、ノックの後は待てって言っただろう?」

「メルティアーラ様にがっついてるお兄様には、言われたくありませんわっ!!」


 兄妹仲がとても良いようで、言い合いながらもその姿はとても楽しそうだ。

 今もベル様は膨れっ面をしながらも、その瞳は微笑んでいる。


 食べながらの歓談で、王女にベルと呼んで欲しいとせがまれ、クリスにもお願いされたので「ベル様」とお呼びすることになった。

 わたくしのことは、メルティとお呼びくださいとお願いした。


「嬉しいですわ! ミリーナ姉様は他国に嫁がれてしまわれたし……わたくし、もう一人お姉様が欲しかったの」


 そう言って微笑んだベル様は、本当に嬉しそうにはにかんでいて。

 自身の昔の事も思い出して、懐かしくなった。


 わたくしもそういえば、姉か妹が欲しかったのにってお母様に言ったことが、そういえばありましたわ。


 目の前の彼女に自分の幼い頃を重ねながら、和やかに朝食の時間は過ぎていったのだった。

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