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踏み台令嬢はへこたれない  作者: 三屋城 衣智子
第二章

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29 出立と未来の目標

「すでに早馬を使いに出したが、仔細伝えるため俺も国に帰ることにした。十分な詫びは追ってバルバザードから知らせが来るだろう。俺達の争いごとに、巻き込んでしまって本当にすまない」


 わたくしの方を見ながら、殿下が再度頭を下げた。


「謝るなら、次いらっしゃるときは美味しいものをお土産に。それでよろしいかしら、クリス?」

「そうだな。あとメルティへの贈り物に何か細工の綺麗な、髪飾りを見繕って持ってきてくれ」

「クリス、メルティ……」

「メルティアーラと呼べよ、愛称呼びは俺だけの特権だぞ」

「……嫉妬は見苦しいぞクリス、メルティアーラが魅力的だからと」


 にやりとしながらグルマト殿下が言う。

 クリスはカチンと来たらしく少し眉間に皺が寄る。


「うるさい」


 男子二人が言い合いを始めてしまった。

 けれど、雰囲気が少し戻ったようで、安心してまだ少しくすんくすんしているベル様の頭を撫でた。


「仲直り、しましたの?」

「ええ。もとより喧嘩なんてしてませんから」

「わたくしはまだ怒っていてよ、大切なお姉様ですもの」


 泣いた目を擦り、頬を少しばかり膨らませたベル様が言う。


「その怒りも自由ですわ。存分に怒って、それから許すか許さないか考えてみてください」

「許さなきゃダメ、かしら」

「グルマト殿下とこれからもお話がしたいなら、ですかしら」

「……もう少ししたら、考えておきますわ」

「それがよろしいかもしれませんね」


 クリス達は言い合いから世間話へと、話のタネを切り替えたようだ。

 机の上のティーカップを持ち上げながら、わたくしは騒動の収束するだろう空気に、ほっと一息ついて安堵したのだった。




 数日後。


「あまり一緒に学院生活を送れなかったけど、お姉様の知らない顔も見れたりして楽しかったですわ。学友の皆さんにも良くしていただいて、感謝しているの」


 そう言いながら城へと帰っていった未来の妹は、よほど楽しかったのか、学院生活のことをなにくれと書いた手紙が届いた。

 あれからグルマト殿下と仲良くなったらしく、二人してクリスに悪戯を仕掛けたりして遊んだらしい。


 準備に色々かかってしまったようだけれど、今日は殿下がバルバザードへと帰る日だ。

 見送るため迎えの馬車に乗って登城した。


 城門近く。

 殿下を見送るためわたくしと王族の方々が集まっていた。

 急を要する帰国の為、その数は両手に満たない。

 移動の為の列は、わたくしが想像するより遥かに大掛かりだった。

 万が一の強襲に備えないといけないのだろう、馬車の台数も護衛も見たことないくらいの数で。


「……やっぱり、遠いのね」


 と思わず呟いてしまっていた。


「なんだ、寂しいなら連れてってやるぞ?」

「殿下」


 声のした方を向くと、旅装に身を包んだグルマト殿下が立っていた。

 一礼し見送る口上を述べようとしたのを手で制される。


「いい。堅苦しい仲じゃないだろう?」


 ウィンクのおまけ付きだ。


「あっこらちょっかいかけるな!」


 そこへ城の方からクリスが走って近づいてきた。

 わたくしの腰に腕をまわすと、油断も隙もないやつめ、とぶつくさ言っている。


「嫉妬もここまでくるとあっぱれだな」


 殿下は呆れた表情をしながらも、声が楽しそうだ。


「それにしても……君から(つがい)の気配が消えているな」

「え?」


 わたくしはその言葉に驚いて、殿下の顔をまじまじと見た。


「いや。言い伝えによると(つがい)というのは、マーキングみたいなものであるらしい。選ばれなければ、次に合う相手のところへと飛んでいくそうだ。……心底、こいつに惚れてるんだな」


 殿下が眩しそうに目をすがめた、気がしたけれど。

 今はもういつもクリスにするような、意地の悪い顔になっている。


「不思議なものだ。もう(つがい)の気配がないというのに、君の姿を見つけると駆け寄ってしまいたくなる。これが恋というなら、ままならないものだな……。もしもクリスに愛想が尽きたら我が国に来ると良い、歓迎するよ」

「なっ……! グルマト!!」

「ははは! 冗談だよ怒るなよ。……じゃないかもだけどな」


 殿下はそう言うとわたくしの頬をするりと撫で、踵を返すと馬車に乗り込み、その一団は遠ざかっていったのだった。

 クリスが怒りながら、わたくしの頬を優しく擦っている。

「メルティは一人でそっちなんて行かないからな! 行くとしたら二人でだ、ふ・た・り・で!!」


 クリスがその一団に向かって叫んだ。

 伝わったかはわからなかった。




「賑やかな方だったわね」

「あいつはうるさすぎだ、メルティに許可なくベタベタするし」


 クリスは余程腹が立ったのか、腰に回された腕がさらにかっちりとし、顎が肩に乗ってくる。


「……メルティ、あのさ」

「なあに? クリス」


 彼が言い淀んだ。

 わたくしは静かに次の言葉を待つ。


「俺力が欲しい」

「力?」

「そう、メルティを守る力、国を守る力。今回のことで思ったんだ。大事に思ってるけど、口だけにまだまだ近いなって。だからもっともっと実力をつけて守れるようになりたい」

「それは素敵ね」

「家を興すなら守る力のある家にしたい。……たとえば裏からだとしても」


 後ろにいるからクリスの表情は窺えない。

 けれど、きっとその瞳は今とても力強いんだろう。


「俺と一緒に頑張って?」


 わたくしはその声かけに、自分の気持ちをわかってもらえたような気がして。

 だから彼の両腕を振り解いて振り向き、大胆にも自分から抱きつき返した。


「……勿論よ!」

「えっ、ちょ、メルティ?!」


 彼の驚く声がする。

 もうそろそろ風は冷たく、秋の終わる気配だ。

 けれどこれまでのどの冬よりも暖かく過ごせそうな、そんな気持ちになったのだった。

 お読みいただきありがとうございました!

 二章連載中、不定期にも関わらずポイントやブクマ、外部ではありますが感想等いただいたりもし、とても励みになりました。

 重ねてにはなりますが、厚く御礼申し上げます。

 これにてまたメルティたちのお話はおしまいですが、またどこかのお話でお目に書かれましたらとても嬉しいです。

 また忌憚ないご意見ご批評、ご感想や★1〜のご評価お待ちしておりますので、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2章完結おめでとうございます! そして、お疲れ様でした! 2章では、かなり登場人物多くなりましたね! ですが、一人一人魅力的で、読んでいて面白かったです! メルティはやはり魅力的ですね! …
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